3-65 内なる想いは風に攫われ2
どうして腹が立つのだろうか?
欲しくもない自分の力を侮られたところで、苛立つわけもないはずなのに。
そうだ、きっとこいつが本気を出せなどと軽々しく言ってくるから、私の葛藤もお構いなしに言ってくるから、だから苛立つのだろう。
「あんたねぇ……ここから先は止めといた方が良いわよ。私が本気を出せば……あんたは死ぬわ」
「僕が死ぬ? どうして? やってもいないのにどうしてそんな事が分かるのですか?」
「……どうしてですって? 分かるわよ! 自分の力の危険さは私が一番よく知ってる! 今まで私よりも強い人なんて一人もいなかった! 私を止められる人なんてどこにもいなかった!」
「……これまであなたの前にあなたよりも強い人が現れなかったという事はよく分かりました。ですが、それがどうして僕があなたよりも弱いという事になるのですか?」
嵐山は純粋に疑問だと言わんばかりの目を向けて来る。
こいつは分かっていない。
私の力の恐ろしさを、たったの一発でビルを何棟も破壊してしまえるようなこの力の危うさを……。
「あんたは分かってないのよ。この力は、誰にも止められない破壊の力……。だから私は今日、この力を捨てようとしてるんだから」
「誰にも止められない……ね。ただ楽しむために力比べをするつもりでしたが……、気が変わりました。良いでしょう。そこまで言うのなら私が証明しましょう。あなたの力は誰にも止められないような。そんな力ではないと」
「はは……あんたバカなの? そんなこと言って、死んじゃうのよ?」
「そんなことにはならないので問題ありません。例えそうなったとしても、あなたは何も気にしなくていいんですよ。それは、僕が望んだ事なんですから。自身の力を恐れるなんて馬鹿げています。全員が自身の持った能力を最大限に引き出して活用するべきだ。僕はそう思います」
「……イカレてるわよ。あんた」
「ただの見解の相違ですよ」
「……勝負すれば、その時点でUSBも壊れるわよね。まぁいいわ……正直この話も半信半疑だったし、能力が消せるなんてそんな話。藁にも縋る想いでやってきたけど、なんかどうでもよくなっちゃった。……あんたが死んだら私も死ぬ事にするわ。皆には悪いけど、他の皆の力は私ほどじゃない。どうにでもなるわよね」
「僕は死ぬつもりも無ければあなたを死なせもしませんよ。僕は戦闘狂などと言われていますが、無理に強がっている女の子を放っておけるような人間ではないつもりです。強力な力を持っている事は決して悲観する事なんかじゃないと、僕が身をもって証明してあげましょう」
「今更、私の事を放っておけないなんて、そんなのバカみたい」
集中して手の平を目の前に掲げると光にまで影響が及んだのか風景が歪んでいくのが見えた。
そして、さらに集中するために目を瞑る。
そういえば、自分の力が怖くて本気で力を使った事なんて一度も無かった。
この前の襲撃の時は無意識に使った力の強大さに恐怖した。
でも、あれだって本気じゃあなかった。
正直、どうなるかなんて分からないけれど、今日ここで私の人生は終わる。
自分でもこんな意地を張ってバカだなぁと思うけれど、この先私の力が今以上に強くなったとしたら、もっと大きな被害が出るかもしれない。
それを考えれば、まだマシよね?
もしも、もしも彼が本当に私の力を抑え込めるなら、私も安心して生きていけるのかなぁ? そんなの、考えるだけ無駄かな?
目を開けると、そこには真剣な眼差しでこちらを見据える男子が一人。
その瞬間、ある事がふと頭を過った。
そういえばこれまで、私を見る人達はどこか私じゃなくてこの能力を見ていた気がする。
教師もクラスメイトも、そして親でさえも、私自身よりも力の強大さが先に立って、皆そっちを見るんだ。
……派手に髪を染めたのもその所為だったっけ。
そんなことで何かが変わるわけもなかったのに、嵐山もさっきまでは私の能力を見ていたようだったけど、今はなんとなく私自身を見ているような、そんな気がした。
勘違いかもしれないけど思うだけなら勝手だし、最期くらいはいいよね?
あいつも私も死んじゃうけど、最後の最期に初めてちゃんと私を見てもらえたような気になって、少しだけ温かい気持ちになった。
こんな時にこんな事を考えて、なんか変なの。
「準備は良い?」
「えぇ、いつでも」
これで終わり。
そう思ったら自然と涙が零れた。




