3-64 内なる想いは風に攫われ1
思ったよりも強い。
相手は確かに自分と同じく第一位だが、もっと楽に倒せると思っていた。
どうやら口が達者なだけではなかったみたいだ。
「まだまだ、行きますよ!」
風に乗って緩急をつけながらふわりふわりと飛び回る男に向かって念動力をぶつけるが、上手く力を受け流されてのらりくらりと躱されてしまう。
花蓮から聞いていた話から単純な力技バカだと思っていたのだが、なかなかどうして戦闘技術も高いようだ。
「こんな世の中に生きててそんなに戦い慣れてるって、あんた普段どうしてるわけ!?」
「こんな世だからこそ能力を使った戦闘に憧れるなんて当然でしょう? 能力は普段から出来る限り使うようにしていますし、イメージは充分に練っていますよ!」
「この、真面目ちゃんの皮を被った不良め!」
「そう言うあなたは不良少女の皮を被った真面目ちゃんでは?」
「うっさい!」
嵐山の起こす暴風はどうにかいなせるが、同様にこっちも決定打が無い。
あまり気は進まないが……、もっと強めにいく?
「ふふふ、大口を叩いていた割には大したことありませんね。この程度ですか? 第一位」
「……いいわ、乗ってあげる。だけど、死ぬんじゃないわよ!」
その言葉と共に床を構成していた無数のタイルが剥がれて浮かび上がり、圧縮されて不格好な円盤へと姿を変える。
高速で回転を始めるそれを見て嵐山は嬉しそうに笑った。
「おお、それはあの気〇斬とかいうあれの真似でしょうか? これは避けないと危ない奴ですね」
「……言われてみれば似てるけど、違うわよ!」
無意識で行ったのだが、なぜか指摘されると自分が真似をしたかのようで少し恥ずかしい。顔が少し熱くなるのを振り切るように高速回転する円盤を思いっ切り飛ばす。
かと言って本当に切断するつもりは全くないので、そのコントロールに集中する。
嵐山が暴風をぶつけているようだがそんなのはお構いなしだ。
そして、いざ当たるという所で上方向からの想像以上の暴風に煽られて円盤の進む方向が変わり、難なく躱されてしまった。
「ふう、危なかったですね」
「まだよ!」
念動力で飛ばしているのだから、一度避けたくらいで躱したと思っているのは甘過ぎる。
そう思って急旋回させようとした所でくるくると回転する円盤が半ばから割れて四散した。
「なっ!?」
「ふふ、悪くはありませんでしたが……そういう事も計算しないと。力技だけでは勝てませんよ!」
そう言うと同時に四方八方から空気の球が飛来し、念動力の壁に衝突する。
空気の球は衝突と同時に急激に膨張し、強烈な爆風を巻き起こした。
それに対して周囲にさらに念動力の壁を作り出すことで相殺を試みるが、威力を殺しきれずに体が浮き上がる。それを好機と見たのか、急激に加速した嵐山に一気に距離を詰められてしまった。
迎撃も間に合わず、目の前に現れた嵐山の手が視界一杯に広がる。
危機を感じたためか体が強張り、熱くなる。
「これでどうです!」
「嘗めるなぁ!」
「くっ!」
凄まじい暴風が吹き荒れ、後方に吹き飛ばされそうになるがギリギリの所で耐え、逆に嵐山を吹き飛ばす。
嵐山は自分が吹き飛ばされた事によほど驚いたのか目を丸くして立ち尽くしている。
それを見て私はなんとなく勝ったような気分になった。
「どう!? 真正面からなら私は力負けしないわ!」
「……えぇ、これは予想外ですね。思っていたよりもあなたの力は強かったようです」
先程までとは違い小さく、僅かに震えた声。
ようやく力の差を思い知ったのだろうか?
「これで力の差が分かったでしょ? じゃあ、もうかえっ……」
「素晴らしい!」
「はぇ?」
自身の勝利を確信し邪魔をしないようにと促そうとしたのだが、嬉々とした様子で顔を上げた嵐山に、私はびくっと体を震わせて後退った。
祭の頭の中が一瞬真っ白になっている中、嵐山は続けた。
「これ程までの力を持っているなんて、力の使い方が安直過ぎるきらいがあるのが残念ですが……、それならそれで、単純な力比べが出来ます!」
「なぁっ……」
「さぁ! さぁ! さぁ! 僕と力比べをしませんか!?」
「あんた何言って……今負けたばかりでしょ?」
私がそう言うと嵐山は首を傾げて見せた。
まるで何を言っているんだと言わんばかりに。
「僕は負けていませんよ? あんなのは僕の本気ではありません。同様に、あなただって全然本気じゃあないでしょう」
……まさか、こいつは今まで手を抜いて闘っていたって言うの?
力だけで第一位になったような私を相手に?
私にとって自身の力が強いことは決して誇るようなものではない。今ではむしろ、無くなって欲しいとすら思っているのだが……、どうしてかこの男の態度に無性に腹が立った。




