3-58 変態ストーカー野郎の推理の時間2
すぐに花南は体勢を立て直して振り返るが、もうそこには隼人の姿はない。
鉄球を縛っていた影は即座に剥がされ、鉄球は再び回転を始めた。
「ふ、不意打ちなんて卑怯ですよ! 正々堂々と掛かって来て下さい!」
その時、花南の周囲同様に隼人の周囲五メートル程の影が消え、その姿が露わになった。
姿を晒すのは休戦の合図のようなものだ。
相手の不安を減らし、話に集中してもらうためでもある。
「正々堂々、ね。花南ちゃん、さっき俺が逃げたと思ってほっとしたでしょ?」
「それは、あなたみたいな変態が離れて行けば誰だって……」
「いや違うよね? そうじゃないでしょ」
「な、何が違うって言うんですか!」
隼人の否定に明らかに戸惑ったような声が返って来る。
完全に推測でしかなかったが、案外当たっていたみたいだな。
「俺に対して、やたらと酷い事を言ってたじゃん? あれ、本気じゃないでしょ。俺って結構人を見る目には自信があるんだよね」
「な、そ、そんな事。自信過剰です! ナルシスト!」
「はは、目が泳いでるぞ」
明らかに動揺する花南ちゃん。何とも嘘を吐くのが下手な子だ。
でも、本来彼女は少し強い力を持っただけのただの学生だ。それが普通じゃないのか?
「考えてみればさ、当たり前の事だったよな。俺達は能力者で、強力な力を持ってる。花南ちゃん達はそれが嫌なんだろ?」
「……私達の目的の話ですか? 危険なものなんて無くなった方が良いに決まってます!」
「そう、それだよ。花南ちゃん達の目的は能力は危険だから持っていたくない。つまり、他人を傷つけたくないってことだ」
隼人の言葉に花南が訝しげな表情で眼を細めた。
何が言いたいのか、とでも考えているのだろう。
「……そう思うのが当たり前です」
「俺達は能力者だ。でも、それでもただの学生だ。そのうえ花南ちゃん達は、他人を傷つけたくないと思ってるような、そんな人間だ」
「……」
「そんな人間が、ある日突然目的を持ったところで、皆が皆覚悟を決められるものなのか?」
何が言いたいかが分かったのか、花南の表情に戸惑いが浮かぶ。
やはり割り切れていないのだろう。
それを拒絶するかのように花南は言った。
「私が覚悟出来てないって言うんですか!?」
「そうだよ。だから花南ちゃんは俺の事を強く拒絶した。俺に対して敵対出来るように、そうだろ?」
隼人の言葉に息を飲む花南、余裕が無さそうな。
そんな表情のまま花南は否定の言葉を口にした。
「あ、あはは、そう思いたいんですか? 残念ながら、私は元からこういう人間です。毒舌キャラなんです!」
それは、まるで自分に言い聞かせるような、そんな印象を抱かせた。
だから隼人は、否定する。
「違うな。やっぱり花南ちゃんは決心が出来てない」
「何で、どうしてそんな事が言い切れるんです……? あなたが……私の何を知ってるって言うんですか!?」
「知ってるよ。俺は自分の観察眼に自信を持ってる。前に戦った時さ、咄嗟に砂塵で影を削っただろ? あれは凄い威力だったな。でも、俺に飛ばしてきた礫はそこまでの威力じゃなかった」
「……動かす物に得意不得意があるだけですよ」
苦々しく答える花南に間髪入れずに隼人が言う。
「嘘だ。さっきの鉄球だって、本当なら俺を吹っ飛ばすだけの力があっただろうに、俺の影で止められるくらいに、当たる直前に減速させたでしょ」
「び……びっくりして操作が上手く出来なかっただけです」
そう言いながらも花南の目線は隼人から逸れる。
間違いない図星だ。
「ははは、言い訳にしか聞こえないぞ? そうだよな。ついこないだまでただの学生で、人を傷つけたくないような君が、人を殺しかねないような事が出来るわけがないんだ」
「そんな憶測で攻撃範囲に入って来たんですか? 正気じゃないです」
「でも当たってるだろ? 花南ちゃんは事件を起こすには人が良過ぎる」
俺が笑って見せると少しの沈黙の後、少女は口を引き結んでゴーグルを着けた。
その瞳が隼人を見据え、深い深呼吸をした。続く言葉は……。
「ここで……終わらせるんです。邪魔をするなら……怪我しても知りませんよ」
「何度も言うが、俺は観察には自信があるんだ。意地でも止めさせてもらうぜ」
その言葉を最後に花南の周囲と部屋の角を残して部屋全体を影が覆い隠した。
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