3-56 強行突破
まさか、最も戦闘に向いている彼女を先に行かせたのか!?
それに気付くと俺は即座に叫んだ。
「風人! 多分、剱持さんに突破されてる! 追ってくれ!」
「それは知っていましたが、彼女達、絶妙に配置が上手いですよ! 僕が突破するまで時間を稼げますか?」
「……!」
風人の言葉に自然と唯の方に視線が向く。
最低限動けるようにはなっただろうが、無理やり動かしている状態だ。
ましてや、触覚が無いという事は痛覚も無い筈だ。
無理に動かせば、体を壊しかねない。
そんな状態でまともな戦闘が出来るはずはない。
そんな彼女の元を離れて良いのか?
そんな俺の考えを見抜いたのか、唯は笑った。
その笑顔は無理をしている事が丸分かりだった。
「私は大丈夫です。足を引っ張りたくはありません。行ってください、雷人君」
こんな状態の唯を放って行きたくない。
だが、もし俺が唯の立場なら同じ事を言うだろう。
ごくりと唾を飲み込むと俺は腰を落とした。
「……やってやる。任せろ!」
「それでは」
そう呟いた風人が動きを止め、両手を後ろに突き出した。
すると事前に部屋中に撒いておいたカナムが何かに引っ張られるように急速に動き出した。
風人の後方に風が集まっていくのが分かる。
風人は風を操る能力者だと会長から聞いた。
恐らくこれは……。
「気付いた所で通しませんわ! 私が残ったのは、この状況では私が一番足止めに向いていると判断したからなんですのよ!」
その言葉とともに重たそうな機材やら、机や椅子といった用品が大量に空中に現れ、奥へと続く扉の前に轟音を立てながら四メートルはありそうな山を作った。
「な!? バリケードか!?」
「予想はしていましたが……厄介ですね。無理やり吹き飛ばすと、この建物にもダメージを与えてしまいます。倒壊すれば生き埋めになるかもしれませんよ」
「あなた達なら退けることも出来るでしょうけど、その度に設置し直して差し上げますわ!」
これ程の量を一気にとは、想像以上の能力だ。
相も変わらず空の動きを妨害しながら、五郭さんの移動も欠かさず、さらにバリケードまで展開するなんてな。
一つの事に集中すれば大きな力を発揮する者は多いが、このように同時に幾つもの行動を正確に出来る者は極僅かだ。
恐らく特殊治安部隊にだってここまで出来る者は少ないだろう。
それを学生でありながら出来るなんて、どうしてこんなことが出来る子が能力の暴走なんて危惧しているんだよ!
……とはいえ、ホーリークレイドルに入って訓練した俺達だって、普通の枠には収まらないんだよな。あぁ、やってやれないことはない。
「風人! 俺が何とかする! 構うな、行け!」
「なっ!? 正気ですの? 下手に突っ込めばバリケードに押し潰されますわよ!」
「そうですね。何をする気かは知りませんが、面白そうです。賭けてあげましょう!」
「これだから男というのは! 揃いも揃って馬鹿ばかり……! 心さん!」
「言われずとも、やる」
言葉と同時、五郭さんの手から紫色の光線が放たれるが、その時には風人はもう走り始めていた。
追い風を作り出しているのか、身体強化を疑う程の速さで走る風人。
その風人の後ろ、ギリギリの所を紫色の光線が通り抜ける。
あの速度ならもう追撃は出来ないだろう。
あとは、風人が通り抜けられるようにサポートするだけだ。
バリケードに穴を空ける!
右手を銃の形にして左手で支え、指先にカナムを集中する。
威力は抑える。
建物を崩さないように、集中して。
「授雷砲!」
言葉と共に放たれた青白の光線は走る風人の横を通り抜け、瞬く間にバリケードに人が通れる程の大きさの穴を穿った。
「な、情報にはこんなのは……」
「ははははは! 素晴らしいです。是非あなたともやりたいものですね。ですが今は、行きますよ!」
「させませんわ!」
後方に向かって強風を発生させ、風人が一気にスピードを上げる。
吹き荒れる風を腕で防ぎながらも注視していると、ものの一瞬でバリケードに空いた穴が修復されたのが見えた。
ここまで速く修復出来るのか!?
まずい、風人がバリケードに激突する。
自分の想定の甘さで風人に訪れようとしている事態にいやな汗が噴き出る。
刻一刻と訪れようとしているその時に為す術もなく、間に合わないと思いながらも指先にカナムを集めていると、後ろからもう一本の光線が走り抜け、再びバリケードに穴を穿った。
そして、そのまま風人はその中を走り抜けていく。
すぐに再び穴が塞がれるが、あの速度ならば恐らく無事に通り抜けただろう。
緊張で早まった呼吸を落ち着かせながら後ろを振り向くとなんとか体を支えているといった体の唯が聖剣をこちらに向けて突き出していた。
苦しそうにしながらも目線が合うと彼女は笑った。
慣れない感覚でキツイだろうに彼女は本当に強い。
もう何度助けられたか分からない。
とはいえ、これで風人は送り出した。
剱持さんのことはあいつに任せる他ない。
俺達は、天衣さんと五郭さんを確実にここに留めるだけだ。
そうして、苦々しく表情を崩した天衣さんを見据えた。
「さぁ、今度は俺達が足止めする番だ。ここから先には行かせないぞ!」




