3-55 ナンバーズウォー
「……本当に会長がしくじったのか」
「ふふ、僕の予想が当たりましたね。まぁ、どちらにせよ僕のする事は変わりませんが」
ドアが開き部屋に入って来たのは桃色のロングヘアの真面目そうな少女、白のロングヘアの儚げな少女、メッシュの入った金髪で小柄の少しぐれていそうな見た目の少女だった。
「ようやくお出ましね。……知らない顔が一人いるみたいだけど」
「あれは……恐らく、嵐山風人さんですわ。風使い。祭さん同様にありふれた力ながらその出力の高さで学生の頂点に立つ、男子生徒の第一位ですわ」
「あれは間違いなく切り札、どうする?」
会話をしながらも金髪の少女は油断なくこっちを見据えている。
さて、どうしたものか。
恐らく、剱持さんが荒事の担当だと思うので、前回と同様に俺達の足止めを狙ってくるのだろう。
天衣さんに空間転移で逃げられれば、阻止するのは難しくなってしまう。
事前に目的の設備を破壊してしまえれば楽だったのだが、設備の破壊は最終手段だ。
不法侵入している時点で今更な話だが、重ねなくていい罪は重ねたくない。
とりあえず、無駄だとは思うが説得を試みるか。
「なぁ今更だが、もう止めないか? お前達が何を求めてこんな所を襲撃しているのかは知らないが、俺達としては引き下がってくれるのなら戦う必要もない」
そう言うと剱持さんの視線がこっちに向き、油断なくこちらを睨む。
「本当に今更ね。そんな言葉で止まるわけないでしょ?」
「お前達の目的って能力が危険だからどうにかしたいって事だろ? 何をするつもりかは知らないが、他にも方法はあるだろ。それに、制御出来れば人に危害を加える力じゃなくて守れる力にだってなるんだ。お前達もそういう方向で力を使いたいとは思わないのか?」
「何を言うかと思えば、考えが甘過ぎますわ。そんな考えだから危険なんですの。何かあってからでは遅いのですわ」
やっぱり簡単に聞いてもらうのは無理みたいだな。
一度、彼女達の目論見を止めるしかないのか。
そう考えると俺は腰を落としていつでも動けるように構えた。
人数ではこっちの方が上だが決して油断出来る相手ではない。
「止まる気は無さそうだな。特殊治安部隊が気付くのも時間の問題だ。時間は掛けられないからな。悪いが拘束させてもらうぞ」
俺がそう答えると天衣さんが何かを呟いた。
何を言ったのかは聞こえなかったが、隣にいる剱持さんが目を丸くして目線をそっちに向ける。
良いのか? と確認しているかのようだ。
何か作戦があるのか?
「さて、時間がかかって困るのはこちらも同じですし、そろそろ行かせてもらいますわ」
そう言いながら天衣さんが一歩前に出る。
前回と同様のパターンなら剱持さんと五郭さんが足止めをして、天衣さんがその間に突破する戦法のはずだ。
この戦法は分かっていても止めるのが難しい。
後ろの扉を抜けられないように立ち回らなければ……。
「風人、残りの二人は俺達が何としても止めるから、剱持さんは頼んだぞ」
「えぇ、任されました」
「空、唯、構えろ!」
「うん!」
「はい!」
そして、天衣さんがどこに跳んでも即座に反応出来るように集中する。
しかしその時、風人が呟いた。
「消えた……?」
消えた? まだ、天衣さんは変わらずこっちを見て立っている。
一体何の……そこまで考えて気付いた。
残りの二人はどこだ?
天衣さん一人に集中していたせいで反応が遅れた。
失念していた。
天衣さんが自身を跳ばすとは限らないではないか!
その時、後ろから声が飛んだ。
「危ない!」
後ろからの衝撃に前によろける。
攻撃かと思ったが、すぐに突き飛ばされたのだと気付いた。
咄嗟に後ろを見ると紫色の光の輪が連続的に飛んで来ていて、それが唯に直撃した所だった。
光の輪は唯に当たると唯を包み込み、仄かに光って消えた。
「唯!」
力が入らなくなったかのように崩れ落ちる唯を抱き留める。
そのまま後ろに倒れるように転がり、横薙ぎに振われる光線を回避する。
向きを変えて追随してくる光線を、唯を抱きかかえて跳び退って回避した。
「大丈夫か唯!」
声を掛けながら光線が当たった場所を確認するが外傷は見られない。
間違いなく空がやられたのと同じ状態だろう。
であれば空なら治せるはずだ。
そう考えたところで微かな声が耳に入る。
「ゆだ……ん、しないで」
顔を上げると視界の端で何かが動いた。
反射的に雷盾を出すと何かがそれを叩いた。
天衣さんが雷盾を蹴ったのだ。
恐らく踵落としでもしようとしたのだろう。
勝手に運動とかは苦手だろうと思っていたが、そうでもないらしい。
驚いたような表情を浮かべた天衣さんの姿が一瞬にして消える。
唯のおかげで偶々防ぐ事が出来たが、やはりあの能力は油断ならない。
一瞬で距離を詰めて来られるのは非常に厄介だ。
加えて残りの二人も同様に移動しているとなると危険度は跳ね上がる。
いつでも動けるように意識を集中させながら周囲の状況を確認する。
「悪い唯、助かった」
「雷人君が無事なら良いんです。……降ろして下さい」
「……大丈夫なのか?」
「問題、ありません」
唯を地面にゆっくりと下ろすと能力を発動させたらしく流動する聖剣が唯の体を包み込んでいく。
あの時の空は視覚を失っていたが、唯はどうやら見えているらしい。
会長達からの情報と合わせて鑑みると、彼女の能力は五感のいずれかを封じるものとみていいだろう。
状態から見て、唯が封じられたのは触覚だろうから、能力で体を無理やり動かすつもりなのだろう。
理由は分からないが、とりあえず天衣さんからの追撃はない。
どうやら空と風人は短い間隔で転移する五郭さんの光線を躱すので手一杯のようだが……剱持さんはどうしたんだ?
その考えに至り、冷や汗が背中を流れる。
見回してみると唯の治療に来ようとしている空が邪魔されていた。
空の死角に回り込むように動いている天衣さんと光線を放つ五郭さんの姿は確認出来るが、剱持さんの姿はない。
まさか、最も戦闘に向いている彼女を先に行かせたのか!?




