3-54 的確な判断
研究施設の地下一階、花南がいないことに気付いた四人はそこで止まってどうするかを考えていた。
「どうする? 花南を助けるなら、早くする」
「とは言っても、どこに連れていかれたかも分からない花南を探すとなるとね。結構骨よ」
「そうですね。私達の中には感知系の能力者はいませんし、時間をかけるのは得策じゃないと思います」
確かにそうですわね。
今はこの施設に人の気配はありませんが、それは恐らく彼らの仕業ですわ。
それに特殊治安部隊が気付けば間違いなく突入してくるでしょう。
となればあまり猶予があるとは思わない方が良いでしょうね。
思案気な顔で考えていた花蓮は口元に当てていた手を下ろすと決心した。
「時間的猶予がどれだけあるか分かりませんわ。花南さんが消えたとはいえやられてしまったとは限りませんし、相手が彼等なら特殊治安部隊に捕まるよりはマシなはずですわ。ここで止まるぐらいならば、私達は先に進んで目的を果たすべきでしょう」
そう言うと、三人ともが真剣な表情で頷いた。
それと、こうなった以上は不確定な要素は除いておくべきでしょうね。
気は進みませんが……。
そう考えた花蓮は心に目線を送ると自分の頭を指で二回叩き、手の平を払うように振った。
その動作に祭は視線を落とし、光葉は不思議そうに首を傾げた。
そして、
「ごめん、ね」
「はぅ……」
心の謝罪の言葉と共に光葉の後ろで紫の光が弾けた。
その直後、光葉は糸の切れた操り人形のように力なくその場に倒れ込んだ。
そして虚ろな瞳でこちらを見上げてくる。
「どう、して?」
「ごめんなさい。こうなってしまった以上、不確定要素を残しておくわけにはいきませんの。安心して下さい。私達は目的をしっかりと果しますわ」
「ごめんね、光葉。次に何かあったらこうするって決めてたのよ。職員がいないなら光葉の力が無くてもどうにかなるわ。安心して眠っていて」
祭のその言葉と共に再び心の手元が光り、光葉の視線はこちらから外れた。
示し合わせていた通り、心の能力で触覚と視覚を奪ったのだ。
こうなってしまえば能力者とはいえ何も出来ない。
祭の力で手近な部屋に彼女を引きずり込む。
「もう、後には引けませんわね」
「うん。……私がいれば大丈夫よ。あいつらには負けないわ」
「あと少し、行こう?」
「えぇ、恐らくこの先には彼等がいるはずですわ。私達の誰かが奥にある制御室に辿り着ければ、私達の勝ちですわ。最後の戦いに……行きましょう」
そうして三人は祭を先頭にして歩き出した。
その足取りにはもう迷いは無かった。
*****
「会長達……上手くやってるかな?」
研究所の地下一階、その最奥にある大部屋で地面に座りながら空が言う。
ここは元々はデスクが数多く並んでいて、パソコンやモニター等もあったことから、大会議室のような場所だと思われる。
相手に剱持さんや五郭さんがいる以上、攻撃を躱すのは必須事項だ。
戦闘を行う事になれば小さな部屋では都合が悪い。
そこで大部屋であるここを待ち伏せ場所に選んだのだ。
邪魔なデスク等は手近な部屋に適当に放り込んでおいた。
大きなモニター等、固定されている物はさすがに放置だが、こればっかりは仕方が無いだろう。
そんな部屋の中で雷人、空、唯、風人の四人は待ち伏せをしていた。
会長曰く、地下二階にある設備が彼女達の目的だろうという話で、二階に続く階段はこの奥に一つと、もう一つあるがそっちは破壊して通れなくしてある。
そうは言っても空間転移能力者がいるのだから、階段を破壊しても意味がないのでは?とも思ったが、会長曰く転移先の情報が無ければ迂闊に跳べないはずだという話だ。
本当かどうかは分からないが、戦力を分散する余裕も無いのでここは会長を信用するしかない。
会長と隼人がどこに行ったのかと言えば、隼人の影と会長の音の能力による隠密作戦で女子生徒らを分断しに向かっている。
手筈通りにいけば天音さんと共にゴーグル少女と白髪の儚げな少女、つまり御嵩花南さんと五郭心さんを相手しているはずだ。
つまり、ここに来るのは天衣花蓮さんと剱持祭さんの二人だけの予定になっている。
「どうでしょうね。彼女達だって馬鹿じゃないでしょう。一人分断されれば、策を講じてくる可能性はあるんじゃないですか?」
風人はにやりと笑いながら眼鏡を指でクイっと持ち上げる。
何で笑ってるんだ? お前は。
「とは言ってもなぁ。会長が失敗するところは想像し難いんだよな。あの人、なんだかんだ言っても、のらりくらりと仕事をこなすからなぁ」
そうやって俺は楽観的な事を口にするが、それに対して唯が真剣な表情で言った。
「楽観的に考えるのは危険だと思いますよ。こういう時は常に最悪の状況を想定しておくべきです」
唯にそう言われ最悪の状況を思い浮かべる。
最悪の状況……会長達がバレて返り討ちに遭い、天音さんもろともやられてしまった場合かな?
その場合、四人全員がここに来ることになる。
それはさすがに……
「最悪の状況になったら……さすがに勝てる気がしないな……。風人が一人で剱持さんを相手出来るなら可能性はありそうだが……」
「元より、僕は一人で剱持さんを相手取るつもりですよ。そのためにこんな所まで来たんですから。ナンバーズの一位、楽しめると良いのですが……おや、来たようですね」
何を今更といった表情でそう言った風人が不意に顔を上げる。
その言葉に俺達の視線が扉に集まる。
すると本当にドアがスライドして開いた。
そして三人の少女が堂々と部屋に踏み入って来たのだ。




