3-52 潜入時には後ろも注意
パッと見は廃病院にしか見えませんわね。
でも、これまでの研究所も似たようなものでした。
情報通りです。
ここが研究所で間違いありませんわ。
しかし……妙ですわね。
前回は襲ってきた彼らがここまでの道中には何も仕掛けてこなかったなんて。一体どうなっているんですの?
「まさか、諦めたんですの?」
「そんな奴らには見えなかったけどね。何にしてもあいつらだって特殊治安部隊には見つかりたくなかったみたいだし、中に入っちゃえば手も出せないんじゃない?」
「光葉ちゃんの盗聴器は外しましたし、私がずっと一緒にいたので情報漏洩もあり得ないです。だから流石に襲撃場所と時間が分からなかったんですね! それにしても今度は廃病院ですか……。もしかして、研究員の人達は廃墟が大好きなんですか?」
「多分、そういう事じゃないと思う」
「……どうやら監視カメラは結構あるみたいですね。今回も私の力で誤魔化します。気付かれないように慎重に行きましょう」
光葉の声に皆が顔を見合わせて頷く。
ようやく、終わりますわ。
あと少しで、この不安から解放されます。
あの少年が言っていたような未来には、私が絶対にさせませんの。
「それじゃあ行きましょ。これが最後の関門。何が何でも成功させるわよ!」
「おー!」
そう言った祭さんを先頭に光葉さん私、心さん、花南さんの順で歩いて行く。
姿を隠しているので見つかる心配はありません。
躊躇うことなく真正面から進んでいく。
流石に扉を開ければ傍からでも分かるが、空間転移が使える花蓮にはそんなのは障害にならない。扉を空間転移で超えて進んでいく。
流石に音は消せないので慎重に進んでいくが、特に職員や警備員らしき人は見当たらない。
……ここは見た目は完全に廃病院で中もそこそこに荒れていますが、やはり人が通っているだけあって最低限は片付いてますのね。窓もところどころ割れてこそいますが、その破片は散らばっていませんわ。
外から入る光だけで照らされた暗い道を進んでいくと、情報通りに隠し通路と地下に続く階段が見つかった。それを見つけた花蓮達は音を立てないように慎重に階段を下りていく。
皆さん、転移出来るならそのまま地下に跳べばいいと思っているかもしれませんが、跳んだ先がどうなっているか分からない以上、安易に跳ぶのは避けたい所です。
下手をすると、壁の中にでも転移してしまえばそのまま押し潰されかねませんし、パニックになっては転移が上手く出来なくなるかもしれませんから。
そのリスクを考えれば順当に進んだ方が何倍も安全ですわ。
失敗するわけにはいかないんですもの。
特殊治安部隊が警備を固めてしまえば、いかに私達がナンバーズと言っても恐らく次のチャンスはありませんわ。
今回やり遂げる以外に道はありませんの。
そんな事を考えていると小さな声で祭さんが声を掛けてきた。
「ねぇ、花蓮」
「祭さん、声は消せませんわよ」
そう小声で返すと、祭さんは怪訝そうな顔で言った。
「それはそうなんだけど。ここまで職員の一人にも会ってないのってさすがにおかしくない?」
「そう言われると確かに……」
なんだかんだで地下一階に入ってそれなりには歩いていますが、職員の話し声はおろか足音の一つも聞こえません。
事前情報の通りなら地下の空間は各フロア百メートル×五十メートル程でかなり広いですが、それにしたってこれは異常ですわ。
「一体どういうことですの?」
「ねぇ、花蓮」
その時、後ろにいた心さんが肩をトントンと叩いて来ました。
そっちを振り返ると心さんは後ろを気にしている様子でした。
「どうしたんですの?」
「花南がいない」
「はい?」
見てみると確かに花南さんの姿がないですわ。
おかしいですわ。花南さんは臆病な性格です。
自分から一人で行動するなんてことはありえませんわ。
地下に降りてきた時はまだいたはずですし、うっかり転移し忘れて置いて来た、なんてこともあり得ません。
そして、このフロアに来てからは転移を一度も使っていませんわ。
考えられる可能性は……。
「……やられましたわね」
「もしかしてあいつら? こんな大それたことをするとは思えなかったんだけどね」
「職員ならわざわざ分断させようとなんてしないでしょう。特殊治安部隊に通報さえすればいいんですから。と言うか、そんな事が出来るとも思えませんわ」
「明らかに異常ですね。それにしてもどうやって私達を発見したのでしょうか? 私の力で彼らにはこちらが見えないはずです。それに私達の誰にも気付かれずだなんて」
「……いや、彼等の中にはそれが出来る者がいますわ」
「それって……」
「波島誠也、生徒会長は音を操作出来る力だったはずですわ」




