3-51 清濁併せ呑むは果たして悪か
「そういえば、お前ってあの時はいつの間に俺の影に隠れてたんだ? そんなに近付かれれば気付くと思うんだが」
「あぁ、それも能力の力だ。上の所見てろよ」
そう言われて見てみると、先程と同様に生垣が見える。
その影に潜んでいる形なのでこの空間と外との境界線、窓のようになっている部分はおよそ平行四辺形に長方形がくっ付いたような形になっている。
もっとも、長方形の部分は生垣の真下なので、外を見ようにも何も見えないけどな。それを見上げているとその窓の輪郭が歪んだ。
「俺が影を動かすとそれに合わせてこうやって空間の形も変わるのは分かるか?」
「能力を考えれば当然なのでしょうが、やっぱり隼人君の力は凄いですね」
「ありがと、唯ちゃん! もっと言ってくれ! っと、それでだな。これを動かしていくと!」
「うん!?」
「……おわ!」
「きゃっ!」
「だから先に言ってって、言ってるでしょお!」
突然後ろから空、唯、風人がぶつかってきてそのまま押される。
何が起きてるんだ!?
っていうか、後ろから押されてきた唯が背中に引っ付いてる。
落ち着け、背中に意識を集中するんじゃな……近い、顔が近い!
唯の息が耳に当たってなんかこそばゆい!
離れようにも動いたら変な所を触ってしまいそうだ。動けない……!
そのままどうする事も出来ず、為すがままに流されているとようやく後ろからの圧迫がなくなり、体が自由になる。
や、柔らかかった……、女子の体って……。
最近フィアとの接触も少ないから余計に意識……ってそうじゃない!
ダメだ、ダメだ。思考が変態のそれに近付いている。
やろうと思ってしたわけじゃないが、とりあえず謝っておかないと。
「はぁ、はぁ、ご、ごめん唯」
「い、いえ、こちらこそ押してしまって、すみません」
俺達が謝りあっているとジト―っとした目で隼人が見て来る。
「くそ、ラッキースケベとはやるな。羨ましい」
「お前が犯人だろうが!」
何食わぬ顔で移動しやがって、会長も対応出来てる辺り事前に分かってればどうにかなったんじゃないのか?
……こういう時にうるさい空が何も言ってこない辺り、空も唯とぶつかったんだろうな。
あ、平静を装ってるが、ちょっと顔を赤くしてやがる。
「とまあこんな感じで、空間の形が変わるとそれに合わせて中にいる俺達も動かされるわけだ」
「なんとも興味深いですね。空間を仕切っている壁が移動しているような感覚でしょうか?」
風人の奴、地味に笑顔で状況を楽しんでやがる。
まあ、かなり特殊で珍しい能力だから興味があるのは俺も一緒だが……。
「そうそう、そんな感じ。厳密には移動だけじゃなくて変形もしてるけどな」
うーん、まぁ何となくは分かるかな。
当たり前といえば当たり前なんだが、やっぱり使ってる本人にしか分からない部分ってのはあるよなぁ。
そんなことを考えていると、隼人がまだまだこんなもんじゃないぞと言いたげな笑みを浮かべた。
「それと、ただそれだけじゃなくてな。何か気付かねぇか?」
「気付く? 何か変わったか?」
言われて周りを見回してみるが辺りは変わらず真っ暗闇だ。
特別変わった感じはしないが……。
そこで風人がほぅっと息を漏らした。
「なんだか、影の空間が広くなっているように感じますね」
そう言われて上を見てみると確かに窓の範囲がさっきよりも広くなっている。
形が変わったからとかじゃなくてこれは……。
「その通り。他の影と接触すると統合出来る。逆に分離も出来るってわけだな」
「つまり俺の影に入っていたのは、俺が隼人の潜んでる影の上を通った時にでも俺の影に潜り込んだってことか?」
「そゆこと」
少し面倒な点もあるが何とも便利な能力だ。
……これ隠密じゃなくて暗殺も出来そうな能力だな。
末恐ろしい。
「さて、隼人の説明も終わったみたいだし、そろそろ建物の中に移動しようか。これから三十秒間監視カメラが停止するから、その間に進もう」
「会長、今さらっと凄い事言いませんでした? ってまた!?」
またも、突然動き出した影に押しくらまんじゅう状態になる俺達。
再び唯が引っ付いて来る感触に意識がどうしてもそちらに向いてしまう。
空に至ってはもはや諦め顔でされるがままだ。
「はう、すみません!」
「あー、どうしようもないね。これ」
「いや! 会長はともかく、何で風人もしっかり付いていけてるんだ!」
「一度味わえば十分ですよ。それに、会長が合図を出した時点で予想は付くじゃないですか?」
そのくらいも分からないのかと言いたげな風人に少しイラっとするが、どうしようもないのでそのまま流される。
すると、しばらくして影の動きがようやく止まった。
「と、止まった」
「さてっと、侵入成功だ。会長、ここからどうします?」
「決まっているよ。職員を一人残らず拘束、影の中に閉じ込めておこうか」
「俺達、犯罪の片棒担いでます?」
「大丈夫だよ。僕の能力で音も聞こえなく出来るから。バレれば犯罪だけど、バレなければ犯罪じゃないんだよ?」
何か笑顔なうえに言ってる事が完全に犯罪者のそれなんですが?
あなた本当に生徒会長ですか?
空も唯も難しい顔をしているが、俺も同様に代替案を思いつくわけでもない。
だから特に否定も出来ないのだが。
「それに、彼女達を止めようと思えば戦闘は避けられないさ。戦闘が発生すれば職員には隠す方法が無いし、露見するのなら僕達が動く意味も無くなってしまうだろう? そうなるなら最初から特殊治安部隊を動かせばいいって話だからね。君達には悪いとは思うけど、どうか力を貸して欲しい。何かを守ろうと思うなら、時には清濁併せ呑む事も必要だよ?」
そう話す会長の目は本気そのもの、うすら寒さすら感じるほどだ。
なぜかは分からないが会長は正しい、そんな説得力を感じた。
この人は裏がありそうだが、反面悪者とは思えない。
何を考えているのかは分からないが……多分、俺が後悔するようなことはしないだろうと思えた。
「はぁ、そもそも、ここに侵入した時点でアウトなんでしょ? 付き合いますよ」
「あはは、もう後戻りは出来ないね」
「出来る事をやらないのは良くない事ですから」
「ふふ、もちろん僕はこんな面白そうな機会をみすみす逃したりはしませんよ」
見つかっていない今が引き返す事の出来る最終地点だ。
だが、止まる事はしない。
その道が例え汚れていても、望む未来がその先にあるのなら進まずにはいられない。
そして、俺達の返事を聞いた会長は静かに笑った。
「決意は済んだね? さぁ、それじゃあ始めようか」
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