3-45 淀みない真っ白な気持ちで2
「何が、何がダメじゃないっていうんですか? お兄さんは聞いてくれるだけで、いいんです。気休めの言葉なんて、いらない!」
「気休めのつもりはないよ。本心からそう思ってる。フォレオは別にダメな妹なんかじゃない」
「どうして、どうしてそう言えるんですか?」
フォレオがこっちを睨む。
感情的になっている。
でも、ここで引き下がるつもりはない。
「……俺には妹がいるんだけどさ。これがまた凄い奴でさ。俺も最初の頃は思ってたんだ。お兄ちゃんなんだから俺が妹を守らないとってさ。だけど、妹の能力は俺をすぐに追い越したよ。俺は兄だけど、妹よりも弱かったんだ」
「……それって」
「その時さ、俺は諦めたんだ。あぁ、勝てないってな。競う事から逃げたんだ。でも、フォレオは違った」
フォレオが複雑な表情で俯き、上目遣いでこちらを伺う。
「……その妹さんとは仲良くないんですか?」
「いや、妹のことは好きだし、向こうも俺のことは嫌ってないよ」
「それなら、それならやっぱり、うちが間違ってるってことじゃないですか。うちが我慢さえ出来れば良かったってことじゃないですか……」
俺の言葉に、フォレオが弱々しく消え入りそうな声で答える。
それに、出来るだけ冷静に返す。
ただ否定するのはダメだ。
それじゃあ、フォレオの感情を逆撫でるだけだ。
そうじゃない。
伝えるために、言葉を紡ぐんだ。
「そうじゃないだろ」
「どうして……!」
「俺は確かに妹と仲良くやっていられたし、妹の事を嫌いになった訳じゃない。でも、なんていうか、心のしこりみたいなものが残ったんだ。ふとした時にそんなもやもやがチラつくんだよ。きっと、いざって時に自分が守る側になれないことに不満があったんだろうな」
「……お兄さんは……諦めなければ良かったと思うんですか?」
フォレオの方を向くと瞳が揺れていた。
俺は無意識にフォレオの肩を掴んでいた。
フォレオが肩をビクッと振るわせる。
「あぁ、そんな感情を抱えたまま妹と接するのは嫌だったよ。フォレオはそれが嫌だったから、戦ってるんじゃないのか? 守られるんじゃなくてフィアの隣に立っていたかったから、真っ白な気持ちで劣等感なんて淀みもなく、純粋にフィアの事を好きでいたかったからフィアをライバル視してるんじゃないのか? その気持ちがダメだなんて、そんなことあるかよ」
「……だとしても、それはうちの我儘でしかない。それがフィアとの仲を引き裂いています。それが良いことなわけ、ないじゃないですか……」
フォレオが壊れそうな、消え入りそうな様子で言う。
だけど引かない。
「確かにそうだ。競ったって並び立てる保証はないし、そうすることが正解かどうかだって俺には分からない。でも俺は、その気持ちが間違ってるとは思わないよ」
「……うちは自信がないんです。頑張っても、頑張っても、フィアにはまだ届かない。この気持ちを持ち続けたところで、いつか叶うんですか?」
それを聞いた俺はフォレオの肩から手を放し、腰を下ろして前を向いた。
それを見て、悲しげな表情でフォレオが俯く。
そんなフォレオに俺は自分なりの言葉を紡ぐ。
少しでも、この言葉がフォレオの支えになれば、それでいい。
「未来は誰にも分からないけどさ、俺は人は変われると思うんだ。俺はフィアや皆と出会って、変わったよ。いつの間にか妹への劣等感なんて忘れてたんだ。いつか自分で勝手に決めてた、自分の限界はここじゃないって知ったんだ。俺はもう妹と比べて自分を卑下するのは止めた。例え妹がまた俺よりも強くなったって、妹に負けないくらいに強くなろうって、今はそう思えるんだ」
「人は変われる……ですか。使い古された言葉ですね」
「ははは、そうだな。でも、きっかけさえあれば変われるはずだ」
「……うちも変われますかね?」
不安げにフォレオの瞳が揺れる。
それがより、応援したいという気持ちを強くした。
「俺はそう信じるよ。とはいえ、フィアが凄く強いのもあるしな。ここはひとつ、考え方を変えてみないか?」
「考え方を変える、ですか?」
「あぁ、俺としても二人には仲良しでいて欲しいしな。まだフィアには勝ててないのかもしれないけど、フィアに勝つだけが対等って事でもないと思うんだ。だってそうだろ? 人には向き不向きがあるんだからさ」
「……確かに、フィアが苦手な相手をうちが倒せれば助けにはなれますね。そうでなくても、サポートしてフィアの危険を回避出来る機会はあるかもしれません」
「そう、その強さはもう十分にあると思うんだよ。だからさ、フィアに勝つ事を目指しつつフィアを支える。いきなりは難しいかもだけど、少しずつ頑張ってみないか?」
少しの沈黙と共にフォレオは前に向き直り、自信なさげに呟いた。
「そう……ですね。いいかもしれません。ですが、今更うちに出来るでしょうか?」
そう言ってフォレオが下を向く。
何年も抱えていた問題が俺の言葉一つで簡単に変わるなんて思ってはいない。
一歩歩み寄る。この一歩は確かに重い。
だが、この二人の関係の修復は出来ると俺は思う。
なぜなら、俺は分かっているからだ。
……だから、フォレオが一歩踏み出すだけで変えられると思う。
そのために、俺はその背中を全力で押す。
「……一つ、分かってることがあるだろ?」
「分かってること、ですか?」
「あぁ、フィアは今でもフォレオのことが好きだし、フォレオの気持ちも受け止めてくれる。付き合いの短い俺でも分かるんだ。フォレオなら尚更だろ?」
俺の言葉に目を丸くしたフォレオは……笑った。
「あぁ、そうか。そうですよね。ふふ、そんなこと……言われなくても分かってますよ。……でも、そうですね。うちは変われる……間違ってない……か。少しだけ、素直になれたら」
「きっといつかまた、淀みない真っ白な気持ちで隣に立てると思うよ。俺はそう信じてる」
「あはは、お兄さんがそう思ってるだけの気休めですね。それに、結局言いたかったことって、うちは間違ってないから諦めなくていいし、フィアは受け入れてくれるから恐れずにもっと歩み寄れってことですか? 難しく言い過ぎなんですよ」
「……それは悪かったな。実の所、こういうのは得意じゃないんだ」
「ふふ、でも、そうですね。そんな気休めでもちょっとは楽になった気がします。フィアと対等でいることも、フィアとの仲の改善も、どっちも頑張ってみます。話して良かったです。ありがとうございます。雷人」
その時の表情はこれまでで一番のとびっきりの笑顔だった。
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