3-43 致命の一撃2
「いくぞ」
言葉と共に目の前に広がる雷輪で出来たレール。
カナムについての説明を聞いた時から考えていたことがある。
カナムは円を描くように回転する事で片側に斥力、反対側に引力を発生させる。
であれば、単純に使うだけではなくて磁石と似たような使い方が出来るのではないか?
アニメや漫画にもたまに登場する。
リニアモーターカーの原理だ。
雷輪による力はカナムにのみ作用するが、全身をカナムで包んでおけば問題なく作用するはずだ。
雷輪の回転方向が違うものを交互に並べてレールを作る。
操作は難しいが、本気で集中すれば出来なくはないはずだ。
大きく息を吸い込み、意識を研ぎ澄ます。
そして、回転速度を上げた次の瞬間、体に大きな負荷がかかるとともに急激的に加速する。
前方の弾幕が雷盾に当たり、それを貫いた数発が体を叩くが、それでも勢いは止まらない。
風圧が凄い。体が軋む。
全身に激痛が走る。でも、止まらない。
集中しろ、チャンスは一瞬だ。
激痛に意識が途切れそうになる中、フォレオが目前に迫る。
属性刀を握る手に力をこめる。
最後の悪足掻き、この一撃に全てを込める。
集中が極限までに高まる。
訓練でマリエルさんから教わった唯一の剣術、メイリード流、狼牙閃。
それは居合切りの要領で放つ横一閃。
これにさらに雷輪による引力と斥力を加えて放つ一撃。
瞬間に閃き、雷の如き一撃を放つ。
ここで、力を使い果たす覚悟で!
そう、技の名前は!
「瞬閃……雷果っ!!」
属性刀が帯びたカナムの青白の光が、横一文字の軌跡を描いて振われる。
あまりの速さに腕の振りが追い付かず、完全に刀に引っ張られて体勢が崩れる。
もはや元の技の体面を保てていなかったが、それはフォレオが体の前に掲げた薙刀をあっさりと切り裂いた。
……そこまでは良かったのだが、つけた勢いを止めることが出来ずにきりもみ回転しながら突き進み。
「ちょおっ!?」
そのまま俺は、ビルへと突っ込んだ。
*****
「っは!」
どれくらい時間が経った?
今、絶対意識が飛んでたぞ。
全身が痛い。
全く動かない。
これ、本当に痛み軽減されてる?
涙出そうなんだけど。
辛うじて首を動かして状態を確認すると体中が血だらけで、多分骨が何本も折れてる気がする。
ヤバイ、ヤバいって、呼吸とかもうコヒューって聞こえるし、絶対ヤバいってこれ。
ダメだ。イメトレだけで練習もしてないのに実戦で試すような技じゃなかった。
あわよくばいけるかもとか思ってすみませんでした。
っていうか、あの一撃当たってました?
薙刀を切ったのは覚えてるが、属性刀振るのに必死でそこに意識が向かなかった。
フォレオはどうなった?
俺、盛大に自滅しただけじゃないよね?
今頃、「何ですかあの馬鹿みたいな技? ぷふっ!」って呆れられたりしてないよな?
そんな事を考えて悶えていると、突然僅かに影が差した。
何も言われずとも分かります。
フォレオさんだね。ここに他に人いないもんね。
首をギギギと音がしそうな感じでゆっくり動かすと、着物の胸の部分を赤黒く染めたフォレオがこちらを見下ろして立っていた。
切れた部分から肌が露出しているが、傷がちらちらと見えているので全くもって煽情的ではない。
あれ、俺がやったんだよな?
当たってたら当たってたで、申し訳なさが半端じゃないぞ。ごめんなさい。
そして、口からも血を流していて、見るからに瀕死のフォレオが口を開いた。
「あはは、うちに勝った相手がどんな顔をしているかと思って見に来てみれば、酷い有様ですね。死にかけてるじゃないですか」
顔には影が差していて表情が読めないので、怒っているのか笑っているのか分からないが、黙っているわけにもいかないので声を絞り出す。うぐ、それだけでも全身が痛い。
「勝ったなんて……見て、分かるだろ? 体、少しも、動かせない。俺の……負けだよ」
俺は寝たまま動けず、フォレオも瀕死のようだが立っているし、血も流れている様子はない。
止血済みなのだろう。
後は軽く俺に攻撃するだけでフォレオの勝ちだ。
勝てるとは思っていなかったが、それでも本気を出したんだ。
やっぱり悔しいな。
「……ねぇ」
「……何だよ?」
「……フィアはあの後、あなたに一度でも負けましたか?」
あの後……仮入社試験の事か?
フィアとは何度も稽古しているが、まだまだ勝てそうにはない。
多分、本気も出させれてないだろう。
「……いや、勝てる気は、まだしないな」
「そっか、そうですよね」
そう言ったフォレオが少し顔を上げ、ちょうど差し込んだ光でその表情が見える。
その顔は涙でくしゃくしゃになりながらも笑っていた。
直後、限界が来たらしく意識は薄れ、暗闇へと沈んでいった。




