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SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
フロラシオンデイズ 第三章~ナンバーズウォー~
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3-41 矛盾した想い

 フォレオは戦闘狂(せんとうきょう)ではない。

 別に戦う事は嫌いではなかったが、好きでもなかった。


 しかし、物心ついた時からこの会社、ホーリークレイドルにいるために戦闘は非常に身近なものだった。


 周りにいる大人達は皆、仕事だと言って戦いへと出かけた。

 死なないために訓練をした。誰かを助けるために力をつけた。


 そんな環境だったから、フォレオも自然と力を求めた。


 フォレオは自分の感情を出すのはあまり得意ではなかったので、周りからは少し冷めている子だと思われていたと思う。


 だけど、力をつけるたびに周りの大人達が()めてくれるのはとても(うれ)しかった。


 ずっと一緒にいる姉のフィアはいつまで経っても能力が発現しなかったが、フォレオはすぐに水の操作が出来るようになった。


「フォレオは凄いね。私にも出来るかな?」


「うん、フィアもきっとすぐに出来るようになるよ」


 表には出さないようにしていたが、どこか優越感(ゆうえつかん)があった。


 私はフィアよりも凄い。

 私が妹だけど、フィアの事は私が守ってあげよう。

 そんな事を考えていた。


 六歳になった頃、二人ともマリエル姉さんから剣術を習うことになった。


 この時もまだフィアは能力を使えるようになっておらず、これでようやくフィアも最低限戦えるようになる。そんな風に上から目線で考えていた。


 しかし、剣術においてフィアはフォレオよりも強かった。

 模擬戦は何度も行ったが、ただの一度もフィアに勝てた事はなかった。


 マリエル姉さんは当然私を()める以上にフィアを褒めた。


 マリエル姉さんに悪気(わるぎ)がないことは分かっている。

 平等に見ようとしてくれていたことも分かっている。


 しかし、当然負けたフォレオを()めるなんてことはない。

 当たり前だ。もし負けたことを褒める人がいたら正気(しょうき)を疑う。


 フォレオは、これまで自分の方が上だったというプライドがあったため、その現実を素直に受け入れる事が出来なかった。


「フィア、もう一回、もう一回だけやろう?」


「もう一回? フォレオは頑張り屋さんね。でも私も負けないわ」


 とは言っても、フィアは剣術で(まさ)っている事で鼻に掛けることもないし、能力は結局使えなかった。


 能力使用可の模擬戦ではさすがにフィアにも負ける事はなかった。

 その事実がフォレオの心を支えていた。


 この(ころ)は普通に仲の良い姉妹(しまい)でいられた。

 でも、ある時そんな関係は終わりを()げた。


「フィア……その数は……」


「あ、フォレオ? 見て見て、凄いでしょ!? 私には指輪(スキルリング)をたくさん着けれる才能があったみたい!」


「……そっか」


「ほら! 氷とか炎とか! まだまだ大したことないけど、私にも能力が使えるの!」


「うん、それは……良かったね」


 八歳くらいの頃だったか、これまではまだ早いと言って使わせてくれなかった指輪(スキルリング)(もら)ったのだ。


 私は身体強化、浮遊、異空間収納、武装強化の四つの指輪(スキルリング)を扱う事が出来た。

 一方で、フィアは十個もの指輪(スキルリング)を使う事が出来たのだ。


 私はそれを聞いた時、自分の耳を疑った。

 指輪(スキルリング)は四つ使えるというだけでも(すご)い事なのだと聞いていた。なのに、フィアはその倍以上(ばいいじょう)の数を使えるの?


 使いこなせるようになるまでは時間も掛ったが、私はすぐにフィアに勝つ事が出来なくなった。


 結局のところ、才能が違ったのだ。

 そう考える事が出来れば、まだ楽だったかもしれない。


 でも、私は知っていた。フィアがこれまでずっと努力していた事を、あの強さは……決して才能だけのものではないことを。


 剣術で私が勝てなかったのはフィアに才能があったからじゃない、私よりも訓練を積んだからだ。


 模擬戦で十回に一回程度しか勝てなくなった時、どうしようもなく自分が情けなくなった。


 その感情はもう心の内に(とど)めておくことが出来なくなり、フォレオはフィアに対して険悪(けんあく)な態度をとるようになった。


「ねぇ、フォレオ? 久しぶりに大浴場にでも行かない? 最近は一緒(いっしょ)にお風呂に入る機会もなかったけど、たまには良いかなと思って」


「……ごめん。私、この後もやる事があるから、止めとく」


「あ、そっか……、あっそうだ。じゃあご飯だけでも一緒にどう? まだでしょ?」


「……(いそが)しいって言ってるじゃん! 放っておいてよ」


「あ……そうね。うん、ごめんね」


 フィアはフォレオの機嫌(きげん)を取ろうとしたけど、それでフォレオの機嫌が良くなるはずもなかった。


 フォレオはそんな態度をとってしまう自分が嫌いだった。

 フィアが良い姉なのは分かっている。

 ただ自分が我儘(わがまま)なだけなんだ。


 そうは思っていても、分かっていても、フィアを前にすると自分が情けなくなり、(あふ)れ出る感情を(とど)めておく事は出来なかった。


 自分は本当はどう思っているんだ?

 それを考えて、考えて、考えた結果、やっぱり私は……フィアが好きだった。


 昔のように仲良しでいたかった。

 でも相反(あいはん)する自分がそれを許さない。


 ならばどうするか、簡単だ。

 私がフィアに負けないくらいに強くなればいい。


 フィアを嫉妬(しっと)しなくても良いくらいに強くなればいいんだ。

 簡単な事じゃないか。


 そして、私はフィアに勝てない剣術を捨て、自分の武器を探した。

 その(となり)に並び立てる未来を信じて……。

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