3-36 VSフォレオ4
警戒だ。
警戒をしろ。
思えばこれまでにここまで遠距離から狙ってくるような相手とは戦ったことがなかった。
そもそもこれまでの奴らは皆、嫌と言う程に目立っていた。
凄まじい力でこちらの攻撃をものともせずに暴れたジェルドー。
土を操り、二刀で正面から向かってきたバルザック。
真っ白な翼で夜闇を飛び、殺されるために俺を挑発したシルフェ。
いずれも堂々としていて隠れることはしなかった。
強いて言うのであればあの銃を持っていたロボット達だろうが、あいつらの動きは比べるまでもなくお粗末で、時には自分から接近もしてきたからな。存外発見は簡単だった。
だが、フォレオは違う。
ただ遠距離から攻撃してくるだけでなく、しっかりと自分の位置を把握されないように工夫をして攻撃してきている。
上下前後左右、一体どこから攻撃されてもおかしくない。
最初は見たことのある水の能力だけを警戒していたが、まさか主武器が銃だったとは……。しかし、これはいい経験になる。
未知を既知に変える。
対応の幅を増やす。
突然の事態に驚かないようにする。
訓練でこれをしておくのは大切だ。
実際の戦闘で驚いて思考停止していたら、それは殺してくれと言っているようなものだからな。
とりあえず、今は出来ることをする。油断はしない。
上下前後左右どこから来てもいいように雷盾を展開して走る。
一応カナムを周囲にばら撒いてその反応から状況確認はしているが、自身の優位を捨てて近付いて来る等ありえない。
隠れる場所がここまで多い中、狙撃手をこっちから発見するのは極めて困難だ。
だからまずは一発、受け止める。
「さぁ来い! 見つけ出してやる!」
勢い込んで走っていたその時、右側から雷盾に複数の衝撃が走った。
「っぐ! 来たか。やっぱり分かっていれば耐えられるな。威力からして多分弾道を変えてるはず」
衝撃は絶え間なく襲ってくるが、一発一発の威力は左腕に受けた時程じゃない。
であれば誘いに乗って右へと走り、本命の弾丸を受け止めて補足してやる!
そう勢い込んで右を向き、全力で駆け出す。
「多分距離はそう遠くないはず、発射場所を偽装するならどこか高いところから狙撃しているように見せるよな。とすると、今回のダミーはあそこか?」
前方五百メートルほど、その位置に某有名なタワーに似た意匠の鉄塔があった。走りながらもそこに目を凝らせると何か影が動いたように見えた。
「さっきまでと全く一緒だな。なら、俺も引っかかったふりをするか。雷弾生成、そして雷弾射撃!」
作り出した雷弾を出来たそばから鉄塔に向けて射出する。別に威力は必要ないので省エネ雷弾だが、その内の何発かは空中で撃ち落とされていた。
鉄塔から百メートルほど離れた空に青白の光が無数にチラつく。
そして、撃ち落とされなかった弾が鉄塔にいた影に向けて殺到し、恐らく蒸気だろう、白い煙が立ち込めた。
「よし、さっきと同じ展開。ならそろそろ、っ! 来た!」
またも右から衝撃が走った。待ち構えていた側面からの攻撃、それに無意識に体が反応し……。待て、おかしい、おかしいぞ。威力が、低い――。
「がっ! ああ!」
反射的に右を向いてしまった俺の背中に強力な衝撃が走り、まるでエビぞりの様に宙に浮いてしまう。
流石だ。全く同じ展開は通じないと考えている。
フォレオは俺の事を、嘗めていない。
完全に俺の不意を突いた完璧な一撃。だけど、俺もさっきと同じではない。
「だ、けど、この程度ならぁ!」
さっきと違い身構えていたおかげで俺はパニックになっていない。大丈夫、思考は働いている。
折角不意を突いたのに一発で終わるはずがない、追撃が来る。
そう判断した俺はすぐさま雷盾を作り出して蹴り、体を捻って続く弾丸を躱した。
そしてその時、約三百メートル先、建設中と思われるビルの骨組みの足場に寝そべり、こちらに銃口を向けるフォレオと目が合った。
「見つけた! もう逃がさないぞ、フォレオ!」
俺はすぐさま翼を展開すると大きく弧を描くようにして空まで一気に飛び上がった。




