3-35 VSフォレオ3
もしかして、フォレオは弾道を変えられるのではないか?
そうだ、それなら威力が変わらなかった説明がつく。
弾の威力が落ちるのは空気抵抗などの影響だ。
でも、弾道を操作出来る……つまり弾に常に力を加える事が出来るのならば、威力を一定にする事が出来るはずだ。
それにあの強烈な衝撃が来た側面方向から弾道を九十度変えていたのならば、弾速は落としているに違いない。そうでなければとても九十度曲げることなんて出来ないだろうからな。
なら、弾道を変える必要がなかった。弾速を落とす必要が無かったとすれば、側面からの一撃がそれまでの銃撃よりも威力が高かったことにも説明がつく。
可能性は……充分にあるな。
もしそうだとすれば、フォレオはあの時、俺の側面方向に潜んで俺が来るのを待っていたということになる。
「弾の威力は……大体覚えてる。なら、攻撃を受ければ弾道を変えているかどうかも判断出来る。つまり、高威力の銃撃、その方向に行けばフォレオを見つけられるってわけだな」
方針は決まった。
うだうだしていても仕方がない。
予想が違ったとしても、それならその時にまた考えればいい。
どうせ今の情報量じゃ判断なんて出来ない。
そこまで考えたところでようやく一階に辿り着いた。
エントランスは埃一つなく綺麗で、観葉植物やソファなどが配置されている。
最初に入った建物は何も無かったが、もしかして作り込まれて無かったとかではなくて、ただの空きテナントだったのだろうか?
まぁ、今そんな事はどうでもいいか。
……真正面から出るのはさすがに頭が悪いよな。
俺は周りをキョロキョロと見渡すとトイレのマークを見つけて入っていく。
別にトイレに行きたかったわけではなく、よっぽど窓が付いているだろうと思っただけだ。
案の定少し高い位置にぎりぎり通れるくらいの小さな窓が付いていたので、そこから外に出る。
どうやらビルとビルの隙間のようで暗く狭い路地になっている。
フォレオが狙撃を狙っているのなら、見え難くて良い場所だ。
俺は光の指す路地の外、大通りを見据えた。
「さて、いっちょ頑張りますか」
*****
「……まんまと嵌りましたね」
この周辺で三番目くらいに高いビル。
その屋上に寝そべってライフルを構える少女がいた。
その姿は誰から見ても異質だ。
この都市部の風景に簡素な着物のような服を着た少女。
それだけでも浮いているのに、その少女が身の丈程もあるライフルを構えているのだ。これを異質と言わずに何と言うのか。
しかし、そのちぐはぐ感とは裏腹にそのライフルを構える姿は非常に様になっており、歴戦の猛者と言われたら信じそうなほどではある。
少女は寝そべったままスコープを覗き引き金を引く。
それと同時に空薬きょうがライフルから排出されて近くに転がった。
その音が嫌に大きく聞こえる。
と言うのも銃弾を撃った時に聞こえるはずの音が驚く程にしないからだ。
サイレンサー。
本来なら性能の良い物をつけても完全に音を遮断するまでには至らないのだが、少女の狙撃銃は特別製で、無音に限りなく近いレベルにまで静音性を高めていた。
一発また一発と少女は引き金を引き、その視線の先、慌てふためいている少年を追い詰めていく。
「……ビルの中に入りましたか。無駄弾を撃っても情報をあげちゃうだけですし、とりあえずは様子見ですかね」
そう言うと少女は移動するために立ち上がった。
その長大なライフルは異空間に収納され、少女は遠くにある少年の入ったビルを見据えた。
「さて……と、こんなものなのですか? フィアがお熱みたいですし、もう少し出来るのかと思っていましたが、これでは期待外れですね。……何も考えずに来るようなら、次で終わらせますよ」
そう言うと、少女は気軽な様子で地面を蹴り、屋上から飛び降りた。




