3-34 VSフォレオ2
何が起きたのか分からなかった。
粉塵の中からこちらを狙い撃とうとするフォレオ。
それをどう倒すか。それだけを考えていた。
そんな中で側面から襲ってきた衝撃に、俺は反応する事が出来なかった。
左腕に走る激痛、上半身を予想外の衝撃が襲った事で姿勢制御が乱れ、咄嗟に修正することも出来ずに回転する。
世界が回る。そして、背中に襲い掛かる強い衝撃。
カナムの制御を誤ってビルの壁面に背中から激突したのだと気付くのに数秒掛かった。
想定していなかった事態に混乱する中、続く弾丸を回避出来たのは幸運以外の何物でもなかった。
激突したビルは大きく凹んでいて、俺はその窪みに引っ掛かるかたちで静止していた。
訳も分からず上体を起こそうとした俺は足を踏み外してそこから滑落した。
刹那、さっきまで頭があった場所。そこに穴が穿たれた。
その意味は混乱していても驚く程すんなりと頭に入って来た。
狙われている。
まずい、まずい、まずい、まずい!
すぐさま翼を制御して高速で移動する。
「ぐぅ! なに、何が起きてるんだ!?」
痛みと焦りが頭を支配する。
想定外の事態と間髪を入れない追撃は俺から冷静さを奪うには十分だった。
それでいて俺が未だに生きているのは幸運と反射的に雷盾を展開出来たおかげだ。
何発もの銃弾が雷盾を叩く。
最初の数発こそ防ぐ事が出来たが、段々と弾が雷盾を貫通し始める。
それが足を掠め、脇腹を掠め、頬を掠める。
「うああああああああああ!!」
俺は勢いをつけたまま前方のビル、その窓に突っ込み機能的に並ぶデスクを吹っ飛ばしながら勢いよく転がった。
「ったぁ! っはぁ! っはぁ! っはぁ! っはぁ!」
そのまま壁に背中からぶつかるかたちで止まる。
息が荒い、苦しい、痛い、おかしい、こんなはずじゃなかった。
止まらない痛み。
軽減されているので我慢出来ない程ではないが、痛む箇所、左腕を押さえる。
ぬちゃっとする感触に咄嗟に手を見ると、その手は血に濡れていた。
無意識に体が震える。駄目だ、落ちつけ。
こんな時ほど冷静になれ、こんな危機的状況なんて何度も経験したじゃないか!
そうだ、深呼吸!
深呼吸をするんだ!
「すぅーはぁ、すぅーーはぁ、すぅーーーはぁあ……はぁ」
少しだけだが落ち着いた気がする。
大丈夫だ。これは仮想訓練、死んだって死なない。
状況を把握するんだ。
まずは現在の状態だ。
軽く体を触って確認する。
間断なく襲って来た衝撃は俺の体力と精神力を削り取ったが、怪我自体は左腕以外は掠り傷だ。
二回の激突で背中は痛むが骨は折れていなさそうだ。
我ながら最近頑丈になってきた。
異空間収納からタオルを取り出して腕に強く巻く、簡易的な止血だが無いよりはいいだろう。
「これでよし……とりあえず、移動しよう」
とにかく、ずっとここにいるのは危ないので、立ち上がって部屋の外に出る。
攻撃は止んでいるが、ここに突っ込んだのはバレているのだから留まるのはまずい。
とりあえずは下に向かって歩きながらも考える。
「よくよく考えてみれば、側面からの銃撃……あれは単純に誘い込まれたってことだよな?」
俺が確認しているのは立体駐車場にいた影、そこから放たれた弾丸、それだけだ。
フォレオが何かしらの方法でそれを偽装出来るとすれば、側面から狙い撃たれたのにも納得がいく。
「そうなると……弾道からフォレオの位置は特定出来ないな」
他の疑問点としては……そう言えばあの側面からの攻撃はこれまでの銃撃よりも強かった。
銃撃の威力ってそうそう変わるものなのか?
近付けば距離による減速、エネルギーの減衰がなくなるから威力は上がるかもしれないが……いや、ちょっと待て?
俺が近付いていた時、銃弾の威力は上がっていたか?
障壁を叩く衝撃は離れていた時も近付いた時も変わらなかった気がする。
距離に関係なく一定の威力の銃弾?
「もしかして……」
そう考えた時一つの可能性が頭を過った。




