3-30 VS心2
まさかそこまで思い詰めているとは、これ以上の詮索は危ないんじゃないの? そう思った空が声をかけると会長が頷いた。
「やれやれ、戦闘は避けられそうにないか。空君、彼女の力については情報が少ないけど……多分食らったらかなりヤバいと思う。当たらないようにね」
「……はい」
「……」
次の瞬間、心の手元が紫色に光ったかと思うと円状の光がいくつも飛んできた。
それを空は転びそうになりながらギリギリで躱す。
光の速さ……というわけではないが結構速い。
心との距離は五メートル程は離れているが光ってから到達までは一瞬だ。
最初の一撃を躱せたのは間違いなく奇跡だった。
空はそのまま走って横薙ぎに振われる円状のレーザーから逃げる。
「うわっと、レーザー? にしてはちょっとだけ遅いけど……ひょわっ! 速いことには変わりないね!」
「はは、これは僕には躱すのも簡単じゃないなぁ。僕はあまり戦闘向きじゃないんだ。加減して欲しいものだね!」
そう言う会長は何発か被弾しているように見えるが、よく見ると光の輪は会長に当たる寸前で霧散していた。
どうやら、会長の心配はしなくても良さそうだ。
もっとも、空にはそんな余裕はないのだが。
「ちょこまか、と……これで!」
「うぇっ!?」
「はは、これはなかなか」
二手に分かれていた空と会長を光の輪は断続的に襲っていたのだが、その発射間隔が一気に短くなった。
転がるようにして躱しながら見ると心の両手の手元が光っていて、そこから光の輪が発射されているようだった。
うっすらとその手が指で輪っかを作っているのが見える。
恐らく、あれが能力発動の条件なのだろう。
なんにしても、空には遠距離から攻撃する術は無いので、どうにかしようと思えば近付かなければならない。
しかし、近付けば近付く程に当然弾幕は厚くなる。
会長もなんとか躱し続けているようだが、攻撃に移る程の余裕はないみたいだ。
こうなるとこっちが避けられなくなるのが先か、心が能力を使えなくなるのが先かの根競べになってしまう。
一体どうするべきか?
答えが出ないまま逃げ続けるが、ギリギリで回避する中ずっと集中を切らさないというのはなかなかに難しい。
少しずつ回避に危ない場面が出てきたその時、突然とんでもない衝撃が走り、地面が揺れた。
そして、足が縺れ、光の輪の一つが空の腹部に着弾した。その瞬間、空の世界から光が消えた。
「痛っ、え? 何? 何も見えない!?」
元々辺りは少しの街灯しかなかったので暗かったには暗かったが、突然の真っ暗闇に思考が纏まらない。
咄嗟に光の輪が当たったはずの腹部を触ってはみるが、痛みもないし、血が出ているような様子もない。
それを確認して少しだけ落ち着きが戻って来るが、あれがどのような力なのかはさっぱり分からない。
怪我がない以上、問題なのは視界が真っ暗な事だ。
これが能力?
とりあえず情報を求めて周りを手探りで探るが、返ってくるのは地面の土の感触だけだ。
どうやら、地面の揺れで転んでしまったみたいだ。
そして、揺れが収まったかと思うとけたたましくアラートが鳴り始めた。
「え? え? 何? どうなってるの!? わっ!」
空は突然の暗闇とアラートでパニックになった。
そして次の瞬間、何かに体が持ち上げられる感覚があった。
空がさらに、パニックになりそうになったその時、耳元で会長の声が聞こえた。
「どうやら警報装置が作動したみたいだね。すぐに特殊治安部隊が来る。撤退するよ。君も逃げなね。心君」
「……また来ても無駄だからね」
その声が聞こえた直後、浮遊感が空の全身を襲った。




