3-29 VS心1
「この辺りでいいだろう。他所の戦闘の余波もこれだけ離れれば届かないよ」
生徒会長こと波島誠也が声をかけると前をちょこちょこと走っていた心が足を止める。
同じように後ろを付いて来ていた空も足を止めた。
ワンピースの少女がくるりと振り向く。
その動きに合わせてワンピースがはためく。
少女の印象がその真っ白な髪や肌から儚げであることもあり非常に絵になる。
こうなれば柔らかい微笑みも欲しいところだが、その表情は動きが乏しくおよそ無表情だった。
「……私達の邪魔をするなら、阻止する。今ならまだ止めれる、よ?」
「残念ながらそういうわけにもいかないんだ。うちの学校から犯罪者を出した。なんてことになれば生徒会長である僕の評価にも響くからね」
「……評価? 自分勝手……だね」
「えー、そっちもだよね?」
「む。そんなことは、ない」
空が自身を棚の上に放り投げた心を見て呆れた表情をすると、それが不快だったのか、少しだけ心の眉が上がった……気がした。
変化がよく分からないけど、怒ってるのかな?
「自分勝手……ね。君達の目的を聞いてもいいかな?」
「……」
会長が質問するが心は黙ったままだ。
その沈黙をどう受け取ったのかは知らないが、そのまま会長が質問する。
「どうして研究所を襲うのかな?」
これを聞いて心が不思議そうに首を傾げた。
「……盗聴、してたんじゃないの?」
「能力の排除をしたいって話だったかな?」
「そう」
「それは分かってるんだけどね。僕には研究所を襲う理由が分からないんだ」
「……」
「君達が最初に襲った研究所から持ち出されたのは能力者の一覧、リストだ。これは分からなくもないんだけど……。今日君達が襲撃している研究所の研究テーマは、電磁波を発生させる能力とその応用。そして、最後の研究所の研究テーマはテレパシー能力者の能力向上方法と、テレパシー能力の原理解明による情報伝達手段の革新だ。君達は一体何をしようとしているんだい?」
空は棒立ちのまま驚いていた。
研究所の研究内容なんて、ただの学生に分かるものじゃないよね?
そもそも、その場所ですら分かるものじゃないと思うんだけど。
それを言ったら女性陣もそうだけど、皆一体どうやってそんな情報を集めてくるのさ?
このやり取りにおいて、空はもはや完全に蚊帳の外だ。
ちらりと問い詰められている心を見ると、心なしか険しい顔をしている……ような気がした。
「私達は、能力を手放したい。ただ、それだけ」
「……見た感じどういう方法で、どういう原理でそれをするのか分かってなさそうだけど、君達が成功したら能力者全員が能力を手放せると本気で信じているのかい?」
会長の問いに一瞬間が空くが、心は答えた。
「出来ないと困る。やらないといけない」
見るとその目は本気のように感じられた。
決意の目。それを見て、空は自然に呟いていた。
「どうして……そんなに能力を手放したいの?」
「能力は危険。能力者は、生き物を殺す。その力を持ってる」
その言葉に珍しく真剣な表情をして会長が言った。
「そんなのは能力者に限らないよ。包丁を振えば人は生き物を殺せる。世の中にはもっと恐ろしい武器だってたくさんあるんだ。能力だって同じだよ。問題なのは使う人間の方だ。能力自体じゃあない」
「確かにそう。でも、能力はあるだけで人の心を誘惑する。それでなくても、能力は成長する。段々と強くなっていく。……今だって完璧じゃない。いつか、きっと自分には制御出来なくなる時が来る。私の意思とは関係なく、周りを傷つける日が来る。それが……たまらなく、恐ろしい」
「なるほど、ね。じゃあどうして君は僕達と戦おうとするのかな? 君は誰かを傷つけるのが怖いんじゃなかったのかい?」
「……これで、最後。今はまだ、何とか制御出来てる。終われば、私達は能力から解放される。元からなければ使わなくて済むし、成長する事もない」
そう言った心の顔は相変わらず無表情だったけど、鬼気迫る何かが感じられた。




