3-28 VS花南2
「わ、私だってナンバーズです。簡単にはやられないんですから!」
花南が腕を振り上げると、周囲に石礫が無数に浮かび上がり一斉に飛んで来る。
それを隼人は軽快なステップで躱し、影で叩き落としていく。
叩き落とした礫に目を向けるが再び襲い掛かってくる様子はなかった。
……典型的な念動力使いに見えなくもないが……それなら俺の近くにある礫を使った方が自分の周囲の礫を使うよりもよっぽど良いはずだ。
花南ちゃんは移動しながら周囲の礫を浮かしては飛ばしてくる。
能力の範囲が狭いって話は信じても良さそうかな?
それとも、そう考えさせるためにわざとそうしているのか……。
分からない、が一つ言えるのは彼女がナンバーズだということ。
ナンバーズの能力の評価基準は基本的には希少性と出力それと利便性だ。
この程度の念動力持ちならば他にもいるはずだ。
それはつまり、彼女の力がこの程度ではないということを意味している。
……力を隠しているのか、それともこの程度の距離でも使えない程の利便性の悪さを補える程に出力が高いのか。どちらにしても警戒はしないといけない。
能力者同士の戦いは情報戦だ。
何が出来て何が出来ないのか。
これを正確に把握した方が勝利に近付く。
出来るだけこっちの情報を渡さないようにしつつ、情報を集めないとな。
隼人は移動しながらも絶え間なく影で攻撃を加えていく。
祭ちゃんのように直接念動力を使って来ることもない。
影が曲げられる距離から考えると……多分、射程の限界は半径五メートルくらいか?
「ははっ、やるな。花南ちゃん。じゃあこれならどうだ?」
隼人が立ち止まって開いていた右手をぎゅっと握りこむと、それに呼応したかのように花南に全方位から影の槍が襲い掛かる。
これに対して花南は頭のゴーグルを装着し、慌てた様子でしゃがみこんだ。
「ひゃわっ! 来ないで下さいぃ!」
その叫び声と共に花南を中心としておよそ半径五メートルの半球内が真っ茶色に染まる。
その後には影の槍は完全に消失してしまっていた。
それを見た隼人は口笛を鳴らした。
あれはこれまでの様に影の槍を弾いたんじゃない、削り取ったんだ。
そして、念動力使いであることと先ほどの茶色い半球。
ここから考えられることは……。
「凄いね。今のは周りに土を飛ばして、それで俺の攻撃を削り切ったのか? ただ土を飛ばしただけじゃああはならない。思うに、範囲が狭い代わりに強力な念動力が使えるってところか」
隼人が情報を分析して花南に告げる。
探りを入れる時は、その時の相手の反応も情報だ。
見ると花南ちゃんは呆けた顔をして驚いていた。
「おっと、ビンゴみたいだな」
「凄くチャラチャラしてるのに、ちゃんと観察してるなんて……。はっ、もしかしてストーカーで身に着けた技術ですかっ!?」
「……花南ちゃんって結構毒舌だよね」
隼人が花南の素で言っていそうな言葉に傷ついていると花南がゆっくりと歩いて来たので、それに伴って後ろに下がった。
花南ちゃんはそれを見ると少し落ち着きを取り戻したのか、ぎこちなく笑う。
「ふ、ふふ、分析は出来ても、結局のところ私を倒す手段は思いついていないみたいですね」
「……」
隼人はじりじりとにじり寄る花南に対して同じようにして後ろに下がっていく。
花南ちゃんの言うように決定的な攻略方法は分かってない。
奇襲すれば何とかなるかもしれないが、奇襲はあくまで奇襲だ。
戦闘が始まってしまった状態からじゃ難しい。
今回は既に花蓮ちゃんと光葉が施設に向かってしまっているからな。
今から追っても防ぐのはさすがに難しいし、光葉が一人で花蓮に勝てる保証もない。だから光葉は潜入がバレないように動くはずだ。
現状把握している情報だと彼女達の目的の施設は三つ。
詰まる所、今日失敗してもあと一回チャンスがある。
なら、これ以上相手に自分の能力についての情報を渡すわけにはいかないな。
つまり、ここからは影の操作のみで花南の力の情報を引き出すことを考えて戦うのがベスト。
次に生かす。それが出来れば今回は俺の勝ちだ。
「さて、どうだろうな?」
そう言うと隼人は走り出し、相手に余計な情報を与えないよう細心の注意を払って戦闘を継続した。




