3-27 VS花南1
「さーってとー、確か御嵩花南ちゃんだったよね? 俺は隼人って言うんだ。よろしくね」
ようやく立ち止まった緑髪のゴーグル娘、花南に向かって隼人が周囲に光る球を投げつつ明るく話しかける。
すると、花南は露骨に嫌そうな顔をした。
「どうして私の名前を? キモイです! チャラいです! 変態です! はっ、もしかして……私のストーカーですか!?」
「いや、ちげーよ! 同じ学校なうえにナンバーズなんだから名前くらいは知っててもおかしくないだろっ!? チャラいはともかく、キモイ、変態、ストーカーは本気で傷付くから止めろっての!」
そこまで言って隼人は周りを見渡した。
そこは森の中、それぞれに二、三メートル程度の間隔は開いているものの、見渡す限り木、木、木。おかげで辺りは暗い。
手持ちの球状照明を周りに設置したから……いやまぁ、視界は問題じゃないんだけどな。
俺の能力の性質上、暗い場所は確かに有利とはいえ、影を動かせばろくに光が無くても陽だまりが出来ちまう。
どういう原理なのかは自分でもほとんど分かっていないが、なんにしてもそれは相手に自身の力が影であることを否応なしに教えちまう。
もちろん、そうでなくても戦っていればバレるかもしれないが、普通は影が実体を持つとは思わないからな。案外誤解させられる。
「なぁ、勢いで付いてきちゃったけどさ。確かこの森には警報装置があるって話なんだよな。今からでも場所変えない? そっちとしても特殊治安部隊出てきちゃったら困るでしょ?」
何かテンパってそうだし、多分間違えたか知らずに入ったんだろ。
そう思っての言葉だったが、花南ちゃんはこっちを指差して言った。
「わ、分からないんですね。今ここ、少なくとも半径十メートルくらいには警報装置なんてありませんよ! 警報装置があるって言ったって、要所要所に仕掛けられているだけみたいですから、こんな広い森全体になんてありませんよ!」
そう言われて耳を澄ませる。
自然の音がするから分かり辛いが特に電気機器が動いていそうな音もしない。
確証は何もないが、ハッタリじゃないのか?
……ハッタリだとして、それを信じて俺が動いて警報装置が作動した場合に困るのは彼女達も同じだ。
「それが分かるのは花南ちゃんの能力かな?」
「さ、探ろうとしても無駄ですよ! 私は聞かれたら話しちゃうような馬鹿じゃありませんので!」
調べた限りでは花南ちゃんの能力は周囲の物を操作する。
祭ちゃんの下位互換のような力だったはずだ。
だけど、そんな力なんだったら周囲の状況なんて分かるはずがない。
やっぱり事前情報だけで判断するのは危険だな。
「まぁ、何でもいいや。悪いけど俺も急いでるから。早いとこ始めさせてもらうぞ」
そう言うと隼人は後ろに跳び退り、指をクイっと上に向けると周囲の影が実体をもって花南に一斉に襲い掛かる。
しかし、影は花南に辿り着く前に大きな力に干渉され、地面に叩き落された。それを見て隼人は口笛を鳴らした。
「やるね。花南ちゃん」
「わ、私だってナンバーズです。簡単にはやられないんですから!」
そう言いながら、花南は腕を大きく振り上げたのだった。




