3-26 剱持祭2
俺が一歩前に踏み出すのを見た剱持さんは腕組みを止めた。
「相談は終わった? それじゃ、やりましょうか」
「あぁ、待たせたな。行くぞ!」
そう言うと俺は地面を強く蹴って思いっ切り横に跳ぶ。
それとほぼ同時に剱持さんは腕を前に水平に上げていて、俺がいた場所を突風が吹き抜けた。
剱持さんの念動力の能力だ。
俺は冷や汗を掻くのを感じながらも、そのまま足を止めずに動き回る。
それに対して、剱持さんは同様に動き回る唯と俺に向けてそれぞれ手を向けながら念動力を飛ばしていく。
周りの木々がそれを受けて吹き飛ぶが、吹き飛んだ木々は空中で動きを止めてザクザクと地面に降り注いでいた。
そしてあっという間に周りに木の杭の囲いが出来てしまった。
「……何のつもりだ? 俺達はこのくらいの囲いなら跳び越えられるぞ?」
「雷人君、気を付けて下さい、恐らく何か仕掛けてきます!」
そう言って唯が聖剣を地面に突き刺すと無数に分かれた刃が地中を通って周りの木の杭
を地面から掘り起こす。
しかし、その様子を見る剱持さんは笑っていた。
「分裂して伸びる剣なんてずいぶんと珍しい能力ね。でも、今更焦っても遅いわよ」
剱持さんがそう言いながら腕を振り降ろすと同時に強力な重圧が再び全身に掛かる。
今度はさっきよりも力が強い!
「ぐっ……この!」
「あ……、これは……立っていられません……」
あまりにも強力な力に唯は膝を付いてしまい。
俺もなんとか耐えているがギリギリで、立っているので精一杯だ。
「どう? さっきは咄嗟だったし、力が足りなかったみたいだから今度は念入りに力を込めたわ。本気でやるには範囲を決める必要があったけど……バリケードはいい案だったでしょ?」
「……なるほどな。確かにいい案だ。でも、これで終わりじゃない!」
「ん!? あづっ!」
突如として剱持さんの体が一瞬青白く光り、重圧が弱まる。
俺だって何もしないで走り回っていたわけではない。
大気中にカナムをばら撒いておいたのだ。
とはいえ、剱持さんの範囲念動力を受けてカナムもだいぶ動かし辛くなっていたので、今のは強めの静電気のようなものだ。
しかし、注意を逸らすことには成功した。
なんとか動ける程度になったので、身を低くして全力で走り、剱持さんに接近する。
「っ! このぉ!」
剱持さんが踏ん張って叫ぶと俺は念動力で弾き飛ばされた。
横に向かって回避行動をとっていたにもかかわらず吹っ飛ばされたので、恐らく明確な方向を定めずに広範囲に念動力を使ったのだろう。
だが、ここまで受けた念動力の中で一番力が弱い。
恐らく先程までは手を向けることで範囲を限定、イメージを固めることでより強力にしていたんだ。
その場凌ぎで放った念動力には大した威力は籠っていなかった。この程度ならば、どうとでもなる!
「まだだ!」
俺は飛ばされまいとカナムで剣を作って地面に突き刺し足をつける。
相手は学生だ。
傭兵でも、ロボットでもない。
慎重に出力を調整する。
「食らえ!」
そして、カナムを一気に解き放った。
目に見えるレベルでの放電、調整を間違えば相手を殺しかねないので集中する。
しかし、そんな気遣いは、無用だったらしく青白の閃光は剱持さんに届く前に何も無い空中で止まってしまった。
カナムの塊にどれだけ力を掛けても一向に進む気配が無い。
それどころか少しずつ押し返されている。
「っ……そうか、お前も手加減してたんだな」
「……当たり前でしょ。私達は人殺しをするつもりはないわ。ただ、目的を達成しようとしてるだけなんだから」
動揺していた剱持さんの目に徐々に冷静さが戻り始める。でも、間に合った。
「そうですか、ご立派ですが、阻ませてもらいますよ!」
「しまっ!」
剱持さんの視界の外、背後から唯の聖剣が不定形になって襲い掛かる。
そして、剱持さんの腕、足、に絡みつき、薄く広がる聖剣が胴体に達したその時、突然の大きな振動と共に辺り一面の視界が茶色に染まった。
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