3-25 剱持祭1
最悪だ。口の中に土が入った。
そして、体が思ったように動かない。
身体強化をしている以上、俺の力は常人のそれとは比べ物にもならないはずなのだが、一体どれほどの力をかけているのか。
その答えを示すかのように周りの地面が若干凹んでいた。
「雷人! 大丈夫!?」
「いや……やばい。こいつ……凄く、強いぞ」
俺が全力で身体強化を使い、何とか身を起こすと剱持さんは目を真ん丸にした。
相当自分の力に自信があったのだろう。まぁ、これだけの力があれば無理もないが……。
俺が起き上がったのを見て意味がないと思ったのか、掛かっていた重圧が消える。
そこに会長の声が響いた。
「当然だね。彼女はナンバーズの女子生徒第一位。剱持祭君だ。ありふれた念動力という力で彼女がその座に君臨しているのは単にその出力の高さ故だよ。……ちょっと思った以上にやばそうだけどね」
「だから言ったんですよ会長。男の一位も連れて来ましょうって。あれ、俺達に止められますかね?」
「ちょっ! 隼人、不穏なこと言わないでよ!」
「……しかし、実際にあの方を止めるのは難しそうですよ? 他にも二人いますし……早く追いかけないといけないのですが」
見るともう天衣さんと天音さんの姿は見えなかった。
この状況で剱持さん達を無視して追いかけるのはさすがに難しい。
どうにかあの三人を引き付けなければどうする事も出来ない。
「なんにしても彼女達を止めないことには追いかけることさえ出来そうにないな。よし、じゃあ俺は、緑髪の子の相手をさせてもらおう」
「ちょっ! 勝手に!」
そう言った次の瞬間には隼人は走り出していた。
それを見て指名されていた緑髪の少女が身構える。
「じょ、上等です! 受けてたちますとも! 祭ちゃん、心ちゃん。あの男の人は私に任せて下さい!」
「……それじゃあ、私はあっちの銀髪の子。ほら、こっちだよ」
そう言うと緑髪のゴーグルをした少女と白い長髪でワンピースを着た少女がそれぞれ動き出す。
隼人はゴーグル少女を追いかけていくが、一方で空は動く気配が無い。
「……空、呼ばれてたぞ?」
「え、でも、わざわざ誘いに乗らなくても良くない? 相手の思うつぼって感じがするし」
空が少し頬を引き攣らせて言う。
ダメだとは言わないが、一人で戦うのが嫌だと顔に出ている。
すると会長がその肩を叩いた。
「まぁまぁ、空君。祭君が強いのは分かっているだろう? この状況で心君を一緒に相手するのは得策とは言い難いよね。つまり、最善の策は残りの二人を早く無力化して全員で祭君の相手をする事だよ。そういうわけで、僕も付いて行こうじゃないか。雷人君、唯君、その間は彼女の相手を頼んだよ」
「は? ちょっ、会長!?」
何だかんだで一方的に会長が空を押して、心と呼ばれた少女を追いかけていく。
こうしてこの場には雷人と唯、そして剱持さんの三人だけが残された。
割とグダグダとやっていた自覚はあるのだが、それを見る剱持さんには動く気配が微塵も無い。ただ腕を組んでこっちの様子をじっと見ているだけだ。
「……随分と落ち着いてるんだな」
「いや、焦るべきなのはあんた達でしょ? こっちは時間さえ稼げればそれでいいのよ」
その言葉は正論過ぎてぐうの音も出ない。
とはいえ、会長の作戦通りならこっちも皆が戻って来るまで耐え切る必要がある。
……ちゃんと戻って来るよな?
まぁ、何にしても迂闊に動いて俺達がやられてしまえば、彼女は仲間の助けに行ってしまうだろう。
相手にその気がないのなら早急に動く必要はないのか?
どうやら彼女も言葉の通り、特に動こうとする気配もないのでとりあえず観察してみる。
剱持さんの髪は綺麗な金髪で両サイドの二房にのみ赤のメッシュが入れられている。
長く伸びた後ろの髪はヘアゴムで一本に纏められていて、何というかカッコいい印象だ。
一方でその身長は低めで、恐らく百四十後半くらいだろうか?
着ている服がブカブカで裾から指しか出ていないのも相まって非常に可愛らしい。
ぱっと見の印象は可愛らしい女の子が少しぐれました。と言った感じだ。
しかし、話し方やその瞳は落ち着いていて大人びた印象があるから、どっちかと言えばカッコよさの方が出ているかもしれない。
見た目はそんな感じだが、体が小さくても能力者の実力とは関係ないのは言うまでもない。油断しないように気を付けないとな。
……って俺は何を考えているんだ。どうやら観察したところで俺には有益な情報を探せそうにないので、早々に諦めて傍らの唯に耳打ちする。
「どうするべきだと思う?」
「……そうですね。こっちが動かなければ動く様子も無さそうですが……このままでは無駄に時間を消費してしまうだけです。それだったら戦闘をして少しでも情報を集めておいた方が良いと思います」
「だよな……。よし、やるか」
そう言うと俺は一歩前に踏み出した。




