3-24 やぁやぁお嬢さん方、こんな時間に何の用かな?
この後の行動は……逃げるか、強行突破か。
さぁ、どう出てくるだろうか?
それにしても天音さんの演技が非常に上手い。
会長が待ち伏せていることを本当に知らなかったかのような驚き方だ。
俺達が道を塞ぐように横一列に立つと会長が一歩前に出た。
「やぁやぁお嬢さん方、こんな時間に何の用かな? この先には研究所くらいしかないんだけどね?」
「分かってるんでしょ? 惚けなくていいわよ」
「それにしても……会長が出てくるとは、天音さん、あなた何かしましたの?」
その言葉に天音さんがぶんぶんと勢いよく首を振る。
「知りません! きっとこれは罠です!」
「ど、どっちなんですか? あわわわわ、分からないです!」
「あはははは、仲間割れかな? こっちとしては願ったり叶ったりだけどね。光葉は何もしてないよ。ほらこれ、一体なんだろうね?」
そう言って会長が黒色の小さな箱を振って見せる。
あれは、もしかして盗聴器だろうか?
何でそんな物をとツッコミたいところだが、なんとなく理由は想像がつく。
「ん……ここ」
「ほぇ? 何ですか? 心ちゃん。光葉ちゃんの襟ですか?」
「え? 何? 何ですか?」
白のロングヘアでワンピースを着た心と呼ばれた少女の指示で、ゴーグルをつけた緑髪の少女が天音さんの服の襟を調べるとそこから小さな箱が出てきた。
「こ、これ、盗聴器ですか?」
「ご明察。安易に光葉を仲間に引き入れたのは間違いだったね」
「……っ! すみません!」
天音さんが非常に申し訳なさそうな顔をして俯く。
演技が非常に自然だ。本当に裏切っているんじゃないかと思えてくるくらいだ。
「……ふー、仕方ないわ。相手が一枚上手だったってことね。大丈夫、こんな時のために私がいるんだから」
「……そうですわね。まぁ、良いですわ。滞りなく行きましょう」
剱持祭と天衣花蓮、二人の言葉で五人が臨戦態勢をとる。あの二人が仕切っていると見て間違いないだろう。
「滞りなく行かせるわけにはいかないな」
「そうだね。止めさせてもらうよ」
「お縄についてもらいますよ。覚悟して下さい」
そう言うと天衣さんが俺達を見回し、目が合った。
その目は悲しげで儚げで、テロを起こそうとしているのがまるで嘘かのようだった。
「残念ですわ。成神君も時和君も私達に立ちはだかるのですね。ですが、私達は止まるわけにはいきませんの。祭さん、心さん、花南さん、ここは三人にお任せしますわね。潜入は私と光葉さんだけでも事足りますわ」
「オーケー、私には潜入よりもこっちの方が合ってるわ。任せて」
「ん、頑張る」
「は、はい、頑張ります。花蓮ちゃん、光葉ちゃん、頑張ってね」
そう言うと次の瞬間、天衣さんが一瞬にして天音さんの隣に移動し、次の瞬間には二人とも消えていた。
「な!」
振り返ると後方に二人の姿が見えた。
見通しが悪い所為か、あまり遠くには行っていない。
研究所が近付けば慎重にならざるを得ないはずなので、今ならばまだ追いつけるかもしれない。
そう考えて即座に地面を蹴って走り出す。
人目を憚っている場合ではないので、身体強化も使って全力だ。
そして、すぐさまもう一度消えた二人の背中を目にした瞬間、視界が突然下に流れ、何かに激突した。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、目の前に見えるのは間違いなく地面だ。
詰まる所、俺は地面に叩きつけられたのだ。
全身に大きな力が加わっていて、地面に押し付けられている。
体が動かないので首だけを動かして周りを確認するが、すぐ近くに人影は見えない。その時、離れた所から声が聞こえた。
「あんたらの相手は私達。逃げられるとは思わないことね」




