3-20 わがまま娘にご注意を
我が家にはそこまで広くはないがちょっとした家庭菜園でも出来そうな庭が付いている。
そして庭に面した部屋にはガラス戸があり、そこから庭に出ることが出来るようになっているのだ。
この状況で玄関から入るのはあまりに下策だろう。
空には玄関前で待機するように指示を出し、逃走経路も塞いでいる。
二階から飛び降りでもしない限り外に出られるのはここくらいのものだ。
うちを狙ったお馬鹿さんを逃がすわけにはいかない。
ゆっくりと音を立てないように慎重に近付きガラス戸に触れる。
中は明るいがカーテンが閉まっているため、中の状況は分からない。
そしてもちろん鍵は掛かっているが、隙間が全く無いというわけではない。
カナムを少しずつ流し込んで鍵を回し、音を立てないように慎重に戸を開ける。
そして、そのまま部屋の中にカナムを散布してみるが人がいるような気配はない。
「いない? 別の部屋か?」
一応音を立てないように細心の注意を払いながら靴を脱ぐ。
そして中へと入ったその時、変な感触と共に突然視界が歪んだ。
「んぅ!? ごぼっ!?」
前のめりになりながら両手で喉を押さえ、声を出そうとするも変な音しか出ず、口の中に何かが入ってくる。
口の中に入り込む異物に酷い吐き気が込み上げて来るが、それを意にも介さないかのようにそれはさらに俺の中に入り込んだ。
「うぇ、ごほっ、げほっ!?」
いつの間にか視界はしっかりと確保され、口から中に入り込んだ異物も特に違和感がない。
というか今のって……そこまで考えた所で上から何かが降って来て、そのままの勢いで背中に乗られ、床に押し倒される。
敵か!? そうなると、既に何かを飲まされた時点で俺の勝ち目はほとんどないに等しい。
ならばせめて空に逃げるように伝えようと考え、叫ぼうとすると細く華奢な指が俺の口に突っ込まれ、そのまま頬を引っ張られる。
「ふぁ!? ひゃひをふるんは!」
混乱しながらも敵は何者なのかと自身の背中を見ようとすると、聞いた事のある声が降り注いだ。
「ふふ、びっくりしましたか? 久しぶりですね。おにぃさん」
そこには、小悪魔みたいに笑う少女。
フォレオがいた。
*****
「はぁ、さすがにあれは驚いたぞ。死ぬかと思った。冗談でも止めて欲しい部類だぞあれは……」
「すみませんでした。まぁ、やろうと思えば殺せましたけどね。さすがにそんな事はしませんよ」
「殺すって……」
「うちさっき水を飲ませましたよね? 内側に入っちゃえば簡単ですよ? 内側からバーンって」
さも楽し気に話すフォレオにバーンと弾ける自分を想像してぞっとする。
横に座っている空も冗談だよね? と言いたげな顔でこちらを見ている。
実際に飲まされた身としては冗談には聞こえない。
まぁさすがに本気ではないと思うので、それはさておき……
「突然どうしたんだ? これまで顔も見せなかったのに」
俺の問いにフォレオは笑みを絶やさずに答える。
「今までは仕事が忙しかったんです。うちって結構頼られてますから。でも、たまってた仕事も粗方片付いてきましたから。少し暇が出来たので、お兄さんがどれくらい強くなったかなと思って確かめに来たんですよ」
「確かめにって……」
「もちろん、うちの方が強いのは当たり前ですけどね。怖いようでしたらハンデとして空さんも一緒で良いですよ。たしか女の子もいましたよね? なんならその子も一緒でいいですけど」
尚も笑顔のまま続けるフォレオ。
確かA級隊員のはずなのでフィアと同等くらいの強さだと思うが、随分と大盤振る舞いだ。
俺達がよほど嘗められているか、それだけ自信があるんだろう。
恐らくどっちもだろうが、何にしても答えは一つだ。
「悪いけどパスさせてもらう」
俺はそう、はっきりと言い切ったのだった。
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