3-16 説明してもらえますよね?
隼人の後ろをしばらくは黙って歩いていたが、住宅街に入ると空と唯が寄ってきて話し合った。
「雷人、いまいち状況が分からないんだけど、これどういう状況なの?」
「俺が知るかよ。突然あいつに襲われたんだけど、目的が全く分からん。……一年は付き合いがあるが、なんだかんだで隼人の能力は知らなかったんだよな。戦ってみた感じ学生では間違いなくトップクラスの能力だぞ」
「影を操るのもそうですが、潜れるというのがまた……。情報通だと言っていましたが、確かに諜報には最適の能力ですね。知っている隼人さんの姿がちゃらんぽらんな姿しかないので少し気が抜けますが、油断ならないです」
「唯ちゃーん。聞こえてるからねー」
「あっ、すみません。失礼しました」
「いや、事実だろ。それで、どこまで行くんだ?」
既に学校からはかなり離れており、住宅街のど真ん中だ。
周りにあるのはマンションやアパート、場違いな巨大な屋敷くらいだ。
一体、話し合うのにどこまで行くつもりだ?
「もう着くから、安心しろよ。ほらここだ」
「ここって……はぁ!?」
「わぁ、おっきいねぇ」
「大きい……。もしかして、ここは隼人君の家なんですか?」
隼人が立ち止まったのは巨大な屋敷の門の前だった。
その敷地は縦横百メートルはありそうなほど広く。
ラグーンシティにおいては場違いと言っていい程の大きな御屋敷が建っている。
その敷地の周りは二メートル程の高さの塀に囲まれており、所々に付けられたおしゃれな格子窓と大きな門からのみ中の様子を伺うことが出来る。
こんな、大富豪が住んでいそうな屋敷が隼人の家だって? そんなのあり得ないだろ。
というか、こんな屋敷に住んでいてもおかしくない人を一人だけ知っている気がする。
「なぁ、ここ隼人の家じゃないだろ。お前はこんな家に住んでるようには到底見えないし、住んでいてもおかしくないような人に一人だけ心当たりがあるんだが?」
「おっ、鋭いな。だけど、俺がここに住んでる事については間違いじゃない」
「は?」
「まぁその辺についても中で話す。とりあえず付いて来てくれ」
そう言って隼人は慣れた手つきで門を開くと中に入っていった。
まぁ、俺の予想が当たっているのなら、特に危険はないはずだ。
しかし、隼人との繋がりが全く分からない。
これまでそんな素振りを見せた事は無かったはずだが……。
「私達も中に入りましょう」
「ゆ、唯ちゃん動じてなくて凄いね」
「……なるようになれだ。行くぞ」
俺は怖気づいている空の背を叩くと門を潜った。
そのまま無駄に広い噴水付きの庭を通って奥にある西洋風……邦桜の海を隔てた西側にある大国、アルカディア風とも言われる屋敷の中へと入っていく。
「わぁ、ちゃんと外見だけでなく中もアルカディア風なんですね。あっちにある花瓶や絵画なんかも、アルカディア本場の品ではないですか?」
「唯ちゃん随分と詳しいね。邦桜の中にはアルカディアを嫌っている派閥が多いけど、うちは友好派閥なんだよなぁ」
「邦桜はアルカディアに技術開発で負けてるもんな。とはいえただの国民でしかない俺としては便利ならいいじゃないかって感じだが」
「国同士の摩擦はどうしても避けられませんから……。手を取り合えることが理想なのですが、思想や文化の違いもありますから。そう簡単にはいきませんね」
唯が周りを見回しながら物憂げな表情をする。
その横顔はどこか儚げで、本気で憂いているという事が伝わって来る。
唯は随分とアルカディア友好派なんだな。
しかし、国の問題は一国民でしかない俺達の力ではどうしようもない事だ。
「はは、難しい話してんな。まぁでも、どうにか出来たらいいよな。……さぁ着いたぜ。この部屋だ」
そう言って隼人は二階の真ん中付近にある部屋。
その扉の前で立ち止まると、扉をノックした。
やはり、単に話す場所を変えるという事ではなく、誰か会わせたい人がいたようだ。
「どうぞ」
果たして、聞こえたその声は予想通りの声だった。
俺達は隼人の後に続いて部屋へと入り、部屋の主に声を掛けた。
「一体どういう事か。説明してもらえますよね? 生徒会長」
「呼び立てて悪かったね。雷人君、空君、唯さん。知っているかもしれないが、生徒会長でこの家の主、波島誠也だ。よろしくね」




