3-13 そうは問屋が卸さない
手紙の内容は次の通りだった。
拝啓 成神雷人君。
いきなりの手紙すみません。
どうしても成神君に伝えたいことがあるので、放課後、裏山の石碑の所まで一人で来てもらえないでしょうか?
待っています。
以上である。
これはやっぱりラブレターではないだろうか!?
間違いなくそんな気がする!
人生初の呼び出しだ! 告白だ!
名前は書かれていなかったので正直誰かは分からないのだが、文字が可愛い感じだったので女子で間違いないだろう。というか男だったら完全に引いてしまう所だ。
というわけで俺は今、学校の裏山にある石碑の所に来ていた。
この裏山は文字通り学校の裏手にある山で、霊的なものや何かの遺産といったような噂の飛び交う山だが、冷静に考えてせいぜい出来て二十年そこそこの学校の裏山に霊的な何かとか遺産などあるわけがないだろう。
あるのは開校記念に建てられたと思われるこの石碑くらいのものだ。
さて、来たはいいものの肝心の呼び出した子はまだ来ていないらしく、その子を待っている状況だ。
こうなってくると悪戯の可能性も考えられるが、しばらくは待ってみるべきだろう。
もし遅れているだけだとすれば帰ったりしたら申し訳がないし、時間の指定が書かれていたわけでも無いのだ。
若干そわそわしながら辺りを見回していると、突然辺りの木々からガサガサという音が響いた。
「な、何だ?」
俺は音のする方を見つつ、念の為に周りにカナムを散布して周囲を警戒する。
すると木の影から何か黒いものが飛び出してきた。
それなりの速度ではあったがカナムによる探知で位置は完全に把握出来るし、何より以前の俺ならまだしも今の俺には普通に見て対応出来る程度の速さだ。
迂闊に属性刀を使って学校の誰かに見られるのはさすがにまずいので、手元にカナムを収束させて剣を形作り、黒い何かを弾き飛ばす。
「っと! 一体何が飛び出して来たんだ!?」
その黒いものが何なのかを見極めるべく、弾き飛ばしたそれをじっと見つめると……。
「……何だ……あれ?」
やはりそれは黒い何かだった。
ぼんやりと太い、相撲取りのような人型の形をとっているもののそれには顔がなく、また全身が完全な黒色で光の照り返しもほとんどない。言うなればそれは闇そのものだった。
とはいえ散布したカナムで形が分かるし、何より弾く事が出来たのだから実体はある。
しかし、何とも不気味だ。その輪郭はゆらゆらと揺らめいていて、まるで悪夢でも見ているかのようだ。
「何にしても、こんなのが襲ってくるってことは……やっぱりあの手紙は偽物か。あぁ、そうだよな。別に好きとか書いてなかったしな。俺が勝手に勘違いしたんだよな。……とは言っても、期待を裏切られたこの恨み、どうやって晴らしてくれようか!」
学校の靴箱にあんな意味深な手紙を入れたらそりゃ間違えるだろ!?
淡い期待も抱くだろ!?
それを犯人が分かっていなかったはずはない……。
絶対に許さん! 絶対にだ!!
「近くに隠れてるんだろ! こそこそせずに出て来いよ!」
周りの林に向かって叫ぶが返事は無い。
半径二十メートル程はカナムによる探査を行ったがそれらしき反応もない。
まさか……そんなに遠くから操作しているのか?
いや、見てもないのに操作は不可能だろう。
ここは周りが木に囲まれているし、丘の上なので校舎などから見渡せる位置にもない。
つまり、この変な黒いのは……。
「まさか自律型の能力か……? うちの学校にこんな能力使いがいたなんてな。まぁ何にしても……ぶっ潰してやる!」
俺は地面を蹴り、一瞬のうちに黒い相撲取りに接近すると思いっきり剣を振り下ろした。
黒いのは一瞬反応する素振りを見せたが、回避が間に合わずに真っ二つになった。
そしてそのまま消え……ることはなく何事もなかったかのように切断面がくっついた。
「なっ!?」
それを見ると俺はすぐに後ろに向かって跳び、構えを取って様子を伺う。
見る限り生き物ではないが、ダメージを与えればすぐに消滅すると思っていた。
しかし、そういう訳ではなかったらしい。
新手の異星人かとも思ったが、端末は音沙汰もない。
つまりこれは外から来たのではなく能力者によるものだと考えるのがやはり自然だ。
力の差から襲われたところで負ける気は全くしないものの、終わりのない戦い程キツイものは無い。
能力である以上はいつかは消えるはずだが……などと考えていると黒い相撲取りの輪郭が膨れ上がり、二回りも大きな熊へとその形を変えた。
「……ん? んん!? おい、おいおいおい、何だそれ!」
それと同時、どこから現れたのか散布していたカナムに突然大量の反応が現れたのだった。




