3-11 ラブレター
放課後、家に帰るために靴箱を開けた時にその事件は起こった。
「ん? 何だこれ……って、これはまさか!」
なんと! げた箱から手紙のような封筒が出て来たのだ。
これはまさか、噂に聞くラブレター!? 本当に実在したのか!?
通信機器が発達した現代、こんな物は空想上の産物だとばかり思っていた。
これまで自分は当然として、周りにだってラブレターを貰っている者を見た事は無い。
いや待て、まだこれがラブレターと決まったわけではないだろう。
焦るなよ俺、確かに封筒には雷人君へと書いてあるので俺宛の手紙なのは間違いない。
しかし、内容は分からないじゃないか。
そう思い後ろにひっくり返すと、封筒の口の部分がハートのシールで留められていた。それを見た瞬間、俺は流れるような動作でポケットに封筒を突っ込んだ。
これあれじゃん。完全にラブレターじゃん。
一体全体どうするのん!? 頭の中をLoveの文字が飛び交っているぞ。
――っと、待て待て、とりあえず落ち着こう。
そう思い深呼吸をしていると後ろから声がかけられた。
「ん? そんな所に突っ立って、何かあったの?」
「雷人君、どうかしたんですか?」
正直、心臓が止まるかと思うくらいにびっくりした。
あからさまに挙動不審になっている俺を見て、空と唯が不思議そうな顔で俺の顔を見つめてくる。
正直、想定外の事態に頭の冷静さが欠けている。
とりあえず何か誤魔化さなくては。
「いいいいや、何でもない。うん、会長から突然の呼び出しがあってびっくりしただけだからさ!」
「会長が? また、不良の撃退とかかな?」
「うーん、今は雷人君には不良なんかよりもよっぽど凶悪な敵がいるんですから、そっちに備えた方が良いんじゃないですか? 生徒会にも高位の能力者はいるはずですし、不良くらいなら生徒会だけでもどうにでもなると思います」
唯が空の言葉に反応して真面目に分析を始めた。
まずい、このままではすぐに嘘がバレてしまうし、バレれば嘘を吐いた理由を聞かれるのは必至だ。
ここは無理やりにでも押し通すしかない!
「いや、よく分からないけど急ぎらしいからさ。とりあえず話を聞いて来るよ。じゃ、二人は先に帰ってて!」
「あ、ちょっと、雷人!」
俺はそう言って空の制止を振り切って走り出し、校舎の中へと戻った。
そのまま階段を上り、この時間はあまり人がいないはずの屋上へと向かう。
逸る気持ちを押さえて最上階にある扉を開いて屋上に出る。
すると、落下防止のための柵に手を置いて遠くを眺めている一人の女子生徒がいた。
着ている服は制服で改造がされていない所を見るに、どうやら真面目な生徒のようだ。(多くの生徒は制服を着ないか、何かしらアレンジを加えて個性を出している)
髪は腰程まである桃色のロングで両サイドの髪を筒状の布で縛っている。
さわさわと吹く風に揺れる髪を手で押さえている姿は漫画やドラマにでも出てきそうな定番のシーンを連想させた。
辺りを見回してみるが他には生徒はいないらしい。
手紙をここで開けるべきかどうか迷っていると、何やら女子生徒がこちらに近付いて来た。
「こんにちは」
「……こんにちは」
話しかけてくるとは思わなかったので道を譲ろうとしていたのだが、目が合ったまま彼女は立ち止まっている。
正直動揺しているので良い言葉が出て来ない。とりあえず何も言わないのもおかしいので挨拶を返す。
わざわざ話しかけてくるなんて一体誰だろうか?
同じクラスにこんな子はいなかったと思ったが、俺が不思議そうな顔をしていると女子生徒は続けた。
「あなた……成神雷人君ですの? 確かナンバーズの」
「え? あぁ、そうだけど。俺に何か用か?」
「用……と言う程でもないのですけど、ナンバーズの方と話す機会はあまりありませんし、ちょっと聞いてみたいことがあったんですの」
ナンバーズ……能力発達度の定期測定における上位者の事だ。年に一回掲示されていたりするので、一応名前だけなら誰が知っていてもおかしくはない。
同じクラスでもなければ、容姿とセットで知っている者がどれだけいるかは分からないが、どうやらこの子は俺の事を知っていたようだ。
口調も丁寧だし、声色も落ち着いている。
生徒会長よりもよっぽど生徒会長らしい子だな。
やっぱり最初の印象は間違っていなかったようだ。
「聞きたいこと? 答えられる事なら答えてもいいけど」
俺がそう答えると、その子は柔らかい表情で笑って見せる。
先程から態度が硬いのでギャップで余計に可愛らしく見えた。
しっかりしていそうだし、処世術なのかもしれないけどな。




