3-3 VSレジーナ・ラルセイ1
「もう大丈夫です。はい。凄さは分かったので、勘弁して下さい」
「何言ってんのお兄さん。まだまだこれからじゃん」
頭を下げて懇願する俺に対して、どうやらレジーナはおかわりを用意してくれるらしい。
すまん。いらねぇ!
「いや、もうウルガスさんの言ってたことは理解したので大丈夫です。あの装備群が上手く活用されてるところが想像出来ません」
「あー! お兄さんもそれ言うんだ! お兄さんは分かってくれると思ったのに!」
俺の反応を見て腕を上下に振りながらレジーナが怒る。
しかし、そう言われても実際に体験した後ではあれをきちんと扱える人がいるなどとは到底思えない。
そいつはどれだけ命がけの鍛錬を積んだ奴なんだ?
「無茶言うなよ。確かに凄い装備だけどさ。ちょっとの油断で自滅しかねない装備を使う奴なんてなかなかいないと思うぞ?」
「あー! 言ったな―! よーし、それじゃあ私が証明してあげる! 私と戦ってよ!」
「え? レジーナと?」
レジーナの言葉に俺は苦笑いした。
それもそうだろう。本当にあのピーキーな武器を使いこなせるのなら確かに強いかもしれないが、彼女は研究員であり、戦闘員ではないはずなのだから。
銃がいくら強くたって持っているのが素人なら油断しなければどうとでもなるのと同じだ。
……今の例えは微妙かもしれないが、俺達みたいに身体能力を上げている者からすればその差は歴然なのだ。
いくら銃弾が速かろうが、撃つ前に避けてしまえば関係がない。
「む、お兄さん私の事嘗めてるでしょ」
レジーナが俺の苦笑いを見て、ジト目で頬を膨らませる。
まずい、ちょっと態度が露骨すぎたか。
なんとか話題を逸らさなければ。
そう思ったのだが、その考えは次の言葉で遮られた。
「私の装備を馬鹿にしたこと、後悔させてあげるんだから! A級隊員、レジーナ・ラルセイの実力、しかと見せてあげる!」
*****
どうしてこうなったのだろうか?
俺は暇つぶしにウルガスさんを訪ねようとしていただけのはずだったのだが、気付いたらレジーナと戦うことになっていた。
そのレジーナはと言えば目の前でウィンドウを弄っており、それに合わせて周りの景色が緑豊かな草原地帯から疎らに草が生えているだけの荒野に変わっていく。
どうやら、いつぞやと同じく岩山がごろごろとしているフィールドにしたみたいだ。
それにしても、今一番気になっているのは先ほどのレジーナの言葉だ。
A級隊員とか言ってなかったか?
俺の知っているA級隊員と言えばフィアとレオン、ニアベルくらいのものだ。
レオンには勝ったもののフィアには依然として勝った試しがない。
詰まる所、一口にA級と言ってもその強さには幅があるのだ。
レオンくらいの実力なら善戦出来るかもしれないが、もしフィアくらいに強いなら一方的になぶられることになるだろう。
……俺は本当に彼女を嘗め過ぎていたのかもしれない。
能力者の実力は見た目では分からないのだ。
そんな事を考えているとレジーナがリズムよく軽快にウィンドウをタップし、こちらを挑戦的な目で見据える。
どうやらセッティングは終了したようだ。
「お待たせお兄さん。それじゃあ、すぐに始めるけど準備は良いよね?」
俺はそれに対して微妙な顔で見返したが、今更すみませんでしたと謝るのもちょっと癪だ。俺は自身の拳を打ち合わせて覚悟を決めた。
レジーナの子供っぽい性格からして、ぼろ負けすればさぞ馬鹿にされることだろう。
だが、強者との実戦経験は貴重だからな。
これも勉強と思ってやってやろう。
そう考えて一度大きく深呼吸して答えた。
「オーケー、どんとこいだ!」
「……やる気は充分みたいだね。それじゃあ一キロくらい離れた場所に転送するから、そしたら始めね。行くよ!」
そう言ってレジーナがウィンドウをタップすると全身が光に包まれ、気付くと俺は崖の上に立っていた。




