3-2 レジーナ作の装備達
見渡す限り果てのない草原地帯。
そこに吹く風も自然で、頬をくすぐられる感じがどこか心地がいい。
「相変わらずクオリティ高いな」
「高くないと実験に使えないじゃん」
「うわっ! びっくりした!」
いきなり隣から聞こえた声に驚き、跳び上がるとレジーナが呆れたような顔でこっちを見た。
「何驚いてるの? いなきゃおかしいでしょ。お兄さん思ったよりも抜けてるねー」
「う、うるさいな。仕方ないだろ」
俺は見た目小学生の少女に呆れた顔をされて恥ずかしくなり、顔を背けながら小声で言い訳をした。そして取り繕うように話題を変えた。
「それで、どうやるんだ? 入って来た時に見た感じだと、オペレーターの人はいなかったみたいだったけど」
基本的には仮想訓練で装備を弄る場合はオペレーターの人が設定を行っていると聞いている。
オペレーターがいないということは予め設定してあったりするのか?
いや、それでもオペレーターがいないとこの仮想空間から出る方法も分からないんだが。
まさか、死ななきゃいけないなんてことはないよな?
仮想空間とはいえ、自殺で強制ログアウトは遠慮したい。
そんな事を考えているとレジーナが解説してくれた。
「あぁ、それは訓練室と技研の装置の違いだね。私達としてはその都度細かく調整したりしたいわけ。だから自分達で操作出来ないと不便だからさ。ほらこんな風に」
そう言ってレジーナが右手を縦に振ると目の前にウィンドウが現れ、手際よくタッチするとレジーナの目の前に光が集まるようにしてSFチックで巨大な銃が出現した。
「おぉ、なんかカッコいいな」
フルダイブ型のゲームを取り扱った作品とか、ゲーム世界に転生する作品とかで見た事があるやつだ。
確かに、この仮想空間もそれと似たような感じだよな。
という事は、もしかしたら宇宙のどこかにはフルダイブ型のゲームが本当に存在しているのかもしれないな。
「うふふ、そうでしょ? よし! それじゃあ早速始めよっか。まずはこれだよ!」
そう言ってレジーナがウィンドウをタップすると光が凝縮し一本の刀が出現した。
少々柄の部分が太い気がするが、ちょっと機械チックなだけで見た目にはそこまで違和感はない。
ウルガスさんが警告していたくらいだからどれ程の物かと思ったが、見た目だけなら予想していた程ではないな。
「これはどんな機能があるんだ?」
「ふふん、これは自信作でねー。名前はグラビティソード! 柄の部分にボタンが付いててー、それを押すと重力場を発生させてアシストする刀だよ。ボタンの押し方で重力場の出力を調整出来る優れ物! これさえあれば重い一撃も簡単に出せるんだから」
レジーナが胸を張りながら解説する。
ボタンの操作は慣れないと難しそうだし、押し間違えると酷い事になりそうだ。でも、両手で使えばどうにでも出来るような気がするな。
「おお、便利そうだな。それに何というかこう、ロマンを感じるな!」
「おっ! お兄さん分かってるねー。それじゃあ早速使ってみてよ!」
「いいのか? それじゃあちょっと使ってみようかな」
そう言って刀を受け取った俺は試しにボタンを軽く押してみた。
「いったぁあぁ!?」
次の瞬間には凄まじい引力に引かれて刀は落下し、見事に地面に突き刺さった。
加えてそれに引っ張られた俺の腕は引き千切れんばかりに悲鳴を上げていた。
「……っ! ちょ、ちょっと待て、出力強過ぎないかこれ? 一瞬で腕が持って行かれたんだが!?」
俺はあまりの痛みに涙が出そうになるのをぐっと堪えてレジーナに尋ねた。
するとレジーナは満面の笑みでこう言った。
「凄いでしょ? 他の人が作ってもここまでの物は出来ないんだから! ピーキーだって皆は言うけど、慣れればすっごく便利なはずだよ!」
満面の笑みを浮かべる少女は傍からは天使のように見えるだろう。
しかし、被害に遭っている身としては少女の皮を被った悪魔にしか見えない。というか人の話を聞け!
「いや、ピーキーって言われて当然だろ! こんなの誰が使えるんだよ……」
「私は使えるけど?」
レジーナは何言ってんの? とでも言いたげにこっちを見る。
冗談だろ? と本気で思ったが純朴そうな瞳が俺を見つめている。
……どうやら本気で言っているらしい。俺はそれに対して苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
ちなみにこの後、威力が高過ぎて撃ったら反動で自分が後ろに吹き飛ぶキャノン砲や凄く速く飛べるけど制御がとんでもなく難しい靴(起動直後になぜか地面に頭から突き刺さった)等、様々な装備を体験させられ、その度に俺は痛い目に遭ったのだった。




