2-52 告白と企み
「一目惚れしました! 私と付き合ってもらえませんか!?」
「ほぇ!? お、お兄ちゃん!?」
唐突なシルフェの告白に哨が素っ頓狂な声を上げ、当の本人はなかなかに大きなそれに埋もれて反応が出来ない。
「むー、ぷはっ! ちょちょちょちょ、ちょっと待って! 一回離して!」
空が身じろぎをしてなんとか口をずらし、シルフェの肩を叩いてそう言うとすんなりと解放された。
俺は突然の状況に頭が付いて行かない。当事者の空はもっとそうだろう。
その時、フィアが自分の胸を見降ろしているのが目の端に見えた。
……もしかして気にしているのだろうか? もちろん口には出さないが、気にするほど小さくないと思うぞ。
「えーっと、ごめん。聞き間違いかな? 付き合ってとか聞こえた気が」
「間違ってません! 凄くタイプです。よろしくお願いします!」
シルフェが顔を真っ赤にしながら叫び、手を差し出す。
哨はあんぐりと口を開けて固まり、フィアと芽衣は顔を真っ赤にしながらその行く末を見守っている。そのまま数秒の沈黙が続き、漸く空は口を開いた。
「お、お互いよく知らないし、お友達から……」
空の言葉に芽衣とフィアは「えー」とでも言いたそうな顔をしていて、 哨は「あ、あーそうですよね。ヘタレな兄さんがすぐに承諾するわけないですよね」と言って顔を引き攣らせていた。
まぁ、空のこの反応は当然だな。よく知りもしない相手に対して、喜んで! などと言うわけがない。
しかし、一応は振られたことになるだろうシルフェに何と言ったものか。
そう考えているとシルフェが凄い速さで空の手を握ってぶんぶんと振った。
「分かりました! 絶対に! 絶対に好きになってもらえるように頑張りますね!」
「あ、う、うん。よろしくね……」
空は若干引き気味だったが、シルフェは嬉しそうだ。
……と言うか、敬語使えたのか。テンパるとそうなるのか?
視界の端で「付き合う、か……」とフィアが呟いて立ち上がった。
「シルフェ! 恋愛もいいけど、仕事はしっかりしてもらうわよ。覚悟をしておいてね」
「わ、分かりました! お付き合い出来るよう全力で頑張ります!」
「一目惚れから始まる恋……いいなぁ。私の周りにはお兄ちゃんよりいい人がいないんだよなぁ」
「よくない、よくないけど、でも……ブツブツ」
「ははは……」
「また……騒がしくなりそうだな」
こうして嵐のような一日は過ぎて行ったが、まだまだ問題は山積みだ。
ただ、こんな日常がずっと続けばいいのにとも、心のどこかで思いながら俺は目の前の光景を見つめた。
*****
モニターに囲まれた暗い部屋に少年、そして、ベールを被った聖女然とした少女とワンピースにコートを羽織った姿で腕の下からわき腹にかけて張った膜が特徴的な獣人の女性がいた。
モニターを眺めていた三人だったが、蝙蝠のような特徴を持つ女性が残念そうな声を上げた。
「全く、だらしがないわねぇ。竜人族に、天使族の娘も、多対一とはいえあんな子供達にしてやられてるなんて」
「あはは、そうだねぇ。でも、簡単に終わったら面白くないよね。彼女達にはもっと強くなってもらわないと」
「ふーん、何を考えてるのかは知らないけど、私も結構退屈してるのよねぇ。ねぇ、いつになったら私の番になるのかしら? ス・フォ・ル様?」
蝙蝠の獣人の女性がおちょくっているかのような言動をした次の瞬間、後ろから女性の首に銃口が突き付けられた。
「リリア。スフォル様に向かって失礼な態度は許しません。改めて下さい」
しかし、そんな状況にあってもその女性はへらへらと笑っていた。
「あはは、こわーい。何? ナクスィアが代わりに相手をしてくれるって言うのかしら?」
「ナクスィア、リリア。僕は君達が争う事を許した覚えは無いよ? それとナクスィア、態度に関しては別に構わないよ。僕はそういうのを気にするタイプじゃないからね」
スフォルと呼ばれた少年の言葉にナクスィアはリリアを睨みながらも銃口を下ろし、一歩下がる。
リリアはそんなナクスィアの方を気にした様子もなくスフォルに話しかけた。
「それで? 結局、考えてくれているのかしら?」
「……まぁ、もう少し待ってなよ。今君を送り込んだら本当に殺しちゃいかねないしね。僕は彼女達が成長するのを待っているんだ。一方的なのは好きじゃないんだよ」
「ふぅん。つまらないわね」
「でもまぁ、もう少ししたら遊んできてもらう事になると思うよ。殺すことまでは許可しないけどね。そうだ、遊び相手なら用意してあげるから遊んで来なよ」
「……仕方が無いわねぇ。その代わり、最後にはとっておきのを用意しなさいよね? それじゃあねー」
そう言うとリリアは踵を返して部屋から出て行った。
その様子をナクスィアはジト―っとした目で見つめていた。
「スフォル様、不愉快に思った時は迷わず命令して下さい。私がお灸を据えますので」
「うん? あぁ、別に僕はナクスィアよりもリリアを優先している訳じゃないから、安心しなよ。それはそれとして、今回も失敗したけどなかなかに面白かったね。特に、天使族の娘の大樹のライトアップなんて綺麗だったよね」
「はい。そうですね。凄く幻想的でした」
「ふふふ、実はもう、次の仕込みもしておいたんだ。さぁ今度はどうなるんだろうね?」
悪戯っぽくそう言うと、少年は黒く濁った瞳を細めた。
*****
壺に絵画、刀など詳しい者でなければその価値が如何程かも分からないような物がずらりと並んだ部屋。
その執務机に茶色い羽織を着て口に蓄えた長い髭が特徴的な老人が座っていた。
本人は至って冷静な顔をしているつもりだが、眉が上がったその顔は誰が見ても怒っていると分かる。
「使えん連中だ。たかだか小僧と小娘程度も始末出来ないとは。それだけでなく捕まるなどと! この一件に儂がどれほどの財を賭けていると思っておるのだ!?」
老人は怒りに任せて机を殴り、想像以上の激痛に我に返って拳を擦る。
「……まぁよい。これも暫しの辛抱だ。これさえ見つけることが出来れば」
老人は紙を広げて笑みを浮かべる。
「その時が楽しみだ」
老人の大きな笑い声が誰もいない部屋の中に響いた。
第二章はこれにて終了です。
一章に引き続き二章も読んで頂き、ありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!
作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!
さて、第二章はいかがだったでしょうか?
個人的には第一章よりも面白く書けたのでは無いかと思っています。
シルフェの登場回で夜空の満月をバックに飛んでいるシルフェとか、光の矢の爆発にライトアップされた大樹を想像するとその綺麗さにテンションが上がります。
文章力にはそれほど自信がないので、上手く表現出来ているかは分かりませんが、機会があればまた場面の絵も気にして書きたいところです。
本章で登場したライバルキャラ、レオンとニアベルについて
大分先になると思いますが彼等の過去を含む番外編を投稿する予定です。本章の内容だと悪印象が強いと思うので、少しばかり手を差し出させていただきます。
さて、長々と失礼しました。
続く第三章では学生達、ナンバーズに焦点を当てた話を書いて行きます。ナンバーズってなんだっけ? となっているあなた。読み返さなくても問題は無いですので、是非読んで頂けたらと思います。
今回も、第三章に入る前に一週間ほど休載を挟みたいと思います。
次回更新は9/23(土)の予定です!
それでは、これからも
【 SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜 】
をどうぞよろしくお願いします!




