2-51 一目惚れ
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよぉ~、ふあぁ」
「あんた達遅いわよ。もっとしゃんとしなさい」
しばらくして空と哨、芽衣が二階から下りてきた。
空はシルフェを見ると一瞬足を止めて、こっちに視線を送って来た。
危険は無いかという確認だろう。なので頷いておく。
一方で哨と芽衣は緊張感が全くみられない、芽衣に至っては大きな欠伸さえしていた。まぁ、昨日力を使った疲れがまだ取りきれていないのもあるだろうが。
その時何気なく点けたテレビのニュースでは、巨大樹が突如として現れ忽然と消えたと話題になっていた。
色々あったので意識の外だったが、まぁそうだよな。芽衣が生やした巨大樹はあの後すぐに枯れたけど、あんなのがいきなり現れれば問題にもなるよな。
「あっ、その子起きたんだぁ」
そんな事を考えているとシルフェを見て芽衣と哨が近付いてきた。
そして芽衣はシルフェの周りをちょこちょこと動き回って全身を観察し始めた。
おい、流石に失礼だから止めて差し上げろ、と言おうと思ったら哨が服の襟を掴んで止めた。ナイスだ哨。
「おーおー、ふむふむ……うわっと、うーん、君可愛いね。名前何て言うの?」
「あはは、えっと、シルフェリア・ミカエルだよ。シルフェって呼ばれてるんだ。昨日は迷惑掛けちゃってごめんね」
「楽しかったから迷惑なんて思ってないよ。ん~、よっと!」
「わっ! もう!」
「私は成神芽衣だよ。よろしくね!」
芽衣はばっと勢いよく体を振って哨の手から逃れるとシルフェの手を取って握手をしながらブンブンと振った。シルフェは戸惑いながらも少し嬉しそうだ。
「わわわ、うん、よろしくね」
「芽衣が失礼ですみません」
「んーん、大丈夫だよ。えっと……」
「私は常盤哨です。よろしくね、シルフェちゃん」
「うん、こちらこそよろしくね」
どうやらシルフェももう落ち着いたようで、しっかりと挨拶を返している。
結構順応性高いな。
そして、芽衣はようやく腕を振るのをやめたかと思ったらシルフェの背中を覗き込むようにじろじろと見始めた。
「ねぇねぇ、ずっと気になってたんだけどさ。あの羽って本物なの?」
「そういえば、昨日は真っ白で大きなのが生えてたのに、今はないんだね」
「真っ白で大きな羽? それって翼のこと?」
そう言ってシルフェが背中を指差すと突然大きな翼が飛び出した。
「わぁっ!」
「えっ、何々!? それどこから出たの!?」
芽衣は両手を合わせて歓声を上げ、哨は驚いたようで一歩後退っていた。
確かに目の前には大きくて真っ白な翼があるが、それは何とも不思議な光景だ。
ぱっと見では翼がパジャマを貫いているように見えるが、どうも穴が開いている様子はない。
翼が動いてもパジャマは動いておらず、どうやら固定されているようだ。
パジャマを押さえつけるようにして翼を生やしているのだろうか?
「これは私の能力で作ってるんだ。一応、翼は実際に生えてるけど、小さいよ?」
そう言うと、シルフェはよいしょと言いながら服をずり上げて背中を見せる。
すると手の平サイズの小さな翼が肩甲骨の辺りから生えていた。思ったより小さいな。
「これじゃあ飛べないから、能力で補って飛んでるんだ」
「へぇ、そうなんですね」
「わぁ、凄い! 本物だ! ねぇねぇ、触っちゃダメ?」
芽衣がぴょんぴょん跳ねながらシルフェにせがむ。
「えっと、触るぐらいなら別に大丈夫だけど……」
シルフェはそう言いながら振り返り、そこにいた空の顔を見るとボッと一気に顔を赤くして俯いた。
よく分からないが恥ずかしかったようで、芽衣を連れて奥の部屋に引っ込んで行った。
「……それなら私も」
それに続くように哨も入って行ったかと思うと、奥からはしゃぐような声が聞こえてきた。うーん、まるで女湯の声を聴いているかのような気分だな。
「ねぇ、結局どうなったの?」
空が聞いてくる。もちろんシルフェのことだろう。
フィアと二人でシルフェの事情、仲間になること、能力のことを簡単に説明する。空は話を頷きながら聞いていた。
話し終わるくらいに奥の部屋の扉が開き三人が出て来た。
「はぁ、凄く良い触り心地だったね」
「うん、こんな感触は初めてです。まさに天にも昇る心地よさ」
芽衣と哨はそんなことを言いながら頬を緩ませてだらしなく笑っている。
……そう言われると気になるな。頼んだら触らせてくれたりしないだろうか?
そう思ってシルフェの翼を見るとフィアに睨まれた。いやいや、冗談だって、うん。
まだ恥ずかしいのかシルフェは未だに顔を赤くしており、なぜか俯いたまま空に近付いていく。
「ん? どうしたの? って、うわ!」
そしてそのまま空に抱きついた。シルフェの胸に空の顔が埋もれてしまっている。
何とも羨ましい状況だが、俺とフィアは突然のその行動に何も言えずに固まった。
「一目惚れしました! 私と付き合ってもらえませんか!?」




