2-50 誓約
真偽看破の能力の制約、つまりフィアがあまり喋らないようにしてたのはそれが理由か、怒ってるのかと思ってた。
まぁこんな事を言う以上聞く必要もないが、一応は聞いておくとしよう。
「それで、真偽はどうだったんだ?」
「うん。全部本当のことみたいね。嘘は言ってなかったわ」
なるほどな。さっきの話が全部本当なら、情状酌量の余地は十分にあるだろう。しかし、一緒に働こうとはまた突飛だな。
「本当に……良いの? 私は犯罪者なのに一緒に働くなんて」
「えぇ、ただし条件があるわ……あなたの能力についての説明と、裏切らないという誓約ね」
フィアは真剣な表情だ。しかし、これは当然だろう。
能力で嘘を吐かれても困るし、裏切られるのはもっと困る。
シルフェは頬の涙を拭うとフィアを見つめる。
「うん、分かった。お話しするね。でもその前に……、これを一回外してもいいかな? 攻撃したりしないから」
そう言うとシルフェは腕を前に突き出した。
フィアが鍵を渡してくるので手錠の鍵を外す。
すると、シルフェの髪が異様な速度で伸び始めた。
「な、何だこれ!?」
肩くらいまでだった髪が地面に付くほどに長くなる。
そして肩の辺りの長さから突然切れるとそれが宙に浮いた。
さらにそれは寄り集まると一振りの大剣に変わる。
「これは天使族の人ならほとんどの人が持ってる力なんだ。髪は自由自在に伸びて、操作も出来るよ。それと形とか重さ、質感を自在に変えられるんだ! それと……」
シルフェが手を翳すと光輝く一本の矢が現れた。
「こんなことも出来ちゃう。悪魔族は炎とか水とか固体じゃないものを作るのが得意みたいだけど、私達はある程度固体のものじゃないと変化出来ないんだよね。唯一出来るのがこの光の矢なんだけど、これは出来る人が限られるんだ。でも、慣れたら実体の矢を作るよりも楽だよ?」
解説をしてくれるシルフェの話をフィアが頷きながら聞いている。
種族単位でそんな奴らがいるなんてやっぱり宇宙は凄いな。
「凄く便利な力ね」
「種族のほとんどが出来るとか……竜人族顔負けだな……。あいつら本当に宇宙最強の種族だったのか?」
俺は本気で疑問を口にするが、二人ともそんな事にはさっぱり興味が無いらしくそのまま説明が続行される。
「えっと、髪の変形と維持にはちょっと生命力を使うけど、円形にしておくとほとんど使わなくても維持出来るからこうしてるんだ。保管場所は人によって違うけど、頭の上とか腕輪が多いかなぁ」
なるほど、つまりはこれが原因で天使の輪のイメージが付いたんだな。
そう考えれば納得だ。
「後は私個人の能力だけど、私は幻覚を見せる力があるんだ。夢のようなもの……かな」
「なるほど、私が見たのはそれね」
「うん……フィアさんには私の事を恨んで欲しかったから、酷い幻覚を見せちゃって、本当に……ごめんなさい」
シルフェが頭を下げる。一体どんな幻覚を見せたのか知らないが、フィアが微妙な顔をしているからな。まぁ、良くないものだったのだろう。
「まぁ、今回は大目に見るわよ。それ随分強いと思うけど、条件とかはないの?」
「……私は直接触らないと調整が出来ないから、相手にしばらく触る必要があるの」
「触らなければどうなるんだ?」
「……十メートルくらいが射程内だけど、コントロールが出来なくて……。最悪の場合は相手を廃人にしちゃうかも。人相手にやったことはないけど……」
俺とフィアはそれを聞いて苦笑いした。
廃人って……恐ろしいな。少なくとも気安く使えるものじゃない。
制御出来るなら相手の無力化に便利そうなんだけど。
「……そうか、その能力はなるべく使わない方向で」
「も、もちろん! これまでだって出来るだけ使わないようにはしてたんだよ? だから、今回も細心の注意を払ってたし」
「他には? 何か力はあるの?」
「えっと、それだけ」
「分かったわ。それじゃあ次は、誓約ね。と言っても、今そう思っているって事を証明することしか出来ないけど、一応ね。あなたの口から言ってもらうわ」
「うん。分かったよ」
フィアの言葉にシルフェが目を閉じて深呼吸し目を開ける。
真剣そのものだ。ピリピリした空気が感じ取れる。
これが本気の決意なのだろうか?
「私は……罪を償うために、皆と一緒に全力で働いて、絶対に裏切らないことをここに誓うよ!」
「……OK。嘘偽り無し。条件は達成よ。私達ホーリークレイドルは何かを守るために戦うわ。罪を償いたいなら、命を捨てるよりも守ることで果たしなさい」
「うん。分かった! これからよろしくね!」
シルフェが頭を深く下げ、再び涙を流し始める。
色々あったんだろうし無理もないのだろう。
「期待してるぞ。よろしくな」
「うんっ、ひっぐ、よろしく……ね」
フィアは俺の方を見て親指を立てて見せた。
もしかしなくても、家に連れてきたところからここまでフィアの計算通りか?
戦力を増やすために、敵も味方にする。
まぁ、危ない行為だが、シルフェは根が悪い訳じゃないのは十分に分かった。
考え方に突飛な部分もあるみたいだが、良い仲間になれるだろう。
そして何より、フィアが負けた以上は俺達よりも強いはずだ。
転んでもただでは起きないって奴だな。
「さ、あとは宇宙警察を黙らせるだけね。まぁ私に任せなさいな。上手くやるわ」
そう言って笑って見せると、フィアは端末に話しかけ始める。
そして、とりあえずシルフェが泣き止むまで、俺は冷めてしまったトーストを食べながら暇つぶしにTVを見て待つのだった。




