2-48 事情聴取
「それじゃあ、あなたが組織に手を貸すことになった経緯からお願い出来るかしら?」
「うん。私はちょっと事情があって、故郷……イジェレシアを離れたから生活するお金を稼ぐために傭兵の仕事をしてたんだ。私は自分が生きるために人から奪うことはしたくなかったから、害獣の駆除とか商人の護衛みたいな仕事をしててね。天使族は珍しかったみたいだし、一応仕事を失敗したことも無かったから、ちょっと噂になってたんだって」
ここで一旦言葉を切ってシルフェが深く息を吸う。
ここからが本題か?
「それで……少し前に、依頼を斡旋してくれる酒場に入って依頼を探してた時に……髭が凄く長いおじいさんに声を掛けられたんだ。おじいさんの話だと、えっと確か……この星には昔、祖先が残した遺産が眠ってて、それを取り戻したいっていう話だったかな? その遺産の場所が大まかにしか分からないから調査をしたいけど、その調査用のロボットが壊されて困ってるって言われたんだ。……おじいさんは祖先の遺産を横取りされちゃうって、凄く悲しそうだった。それで、ロボットが調査してる間私に足止めをして欲しいって」
「その相手が私だと思ったわけね」
フィアが腕を組みながら言うとシルフェは頷いた。
「うん。その後その星に移動するための機械があるから案内するって言われて、連れて行かれたんだ」
「移動するための機械……それがどこだったかは分かるかしら?」
「えっと、ごめんなさい。今思えば凄く怪しかったんだけど、秘密の移動手段だとかで目隠しをされて連れて行かれたから場所は分からないんだ」
「そう……簡単には尻尾を掴ませてくれないわね」
「あ……でも移動の直前に目隠しがズレて、その時に少し見えたのが、かなり大きな輪っかみたいな形の機械。輪っかの内側の空間が歪んでて、そこを通ったらあの場所に出たんだ。あれって多分空間転移装置だよね? 私、初めて見たよ」
「空間転移……ってうちの他にも出来る所があったんだな。いや、今まで見てきてるから敵が使ってるのは分かってたんだが……、話を聞く限りだとうちの奴よりSFのそれにイメージが近いか」
「まぁ何にしても、これで裏が取れたわね。話を聞く限り組織についてはあんまり知らなさそうだし、相手も傭兵には重要な情報は渡していないでしょ。それじゃあ次はあなたから見て私達との戦闘中のことを教えてもらえるかしら?」
フィアの言葉にシルフェが息を呑んだ。
「戦闘中のこと?」
「えぇ、今後のためにもあなた自身の事は知っておかないとね」
「……うん。分かったよ」
ここからはシルフェの処遇のための話か。
シルフェが何を考えてあのような行動に出たのかは個人的にも非常に気になる。
ここまでの話だけではシルフェがあのような行動をすることは考えにくい。
俺はシルフェを見ながら真剣に話を聞いた。
「……最初はフィアさんを聞いてた敵だと思ってて、それと勝手に一人だけだと思い込んでたから、フィアさんの足止めさえしていれば問題ないと思ってたんだ。……でも、フィアさんから仲間がいることを聞いて、状況を確認しようと外に出た時にロボットが何か爆発を起こして攻撃してるのを見たんだ。それであれはただの調査用のロボットなんかじゃなかったんだってやっと気付いた。私は悪事を防ぐなんて言いながら、悪事に手を貸していたんだなって」
シルフェは俯き、両手を膝の上に置いて握りしめていた。
悪い事をしたと認めるのは怖いものだ。その感情は多少なりとも分かるが、今は手を差し伸べるべきじゃない。
完全な悪人とかじゃないみたいなので俺も少し心苦しいが、ここは我慢だ。
「まぁ、ここまでは想像通りね」
「そうだな。それで、そう思って何であんな行動に出るんだ?」
シルフェは俺の言葉に頭を下げながら答えた。
「ごめんなさい。私はこの星に不法侵入しちゃっただけじゃなくて、あなた達の命まで脅かしたんだから、多分私は死罪になるでしょ? それだったら、当事者に殺された方が罪が償えるはずって、思って」
「それでわざわざ殺されようとしたってこと? その割には、私は気を失わされていたわけなんだけど」
「そうだよな。何でわざわざフィアじゃなくて俺に殺されようとしたんだ?」
「それは、その……フィアさんと戦って、多分わざと殺されようとしてもバレちゃうだろうと思ったから。それに、あなた達は悪い人達じゃないと思って。私が凄く悪い人じゃないと、私を殺した事を背負わせちゃうかもしれない。そしたら、これは償いにはならないかなって。だから、私がフィアさんを殺したように見せかければ、その仲間が黙ってないと思ったんだ」
「それで俺を挑発したのか?」
「いきなり豹変するんだもの。おかしいと思うに決まってるじゃないの」
俺達の反応を見て、シルフェは目線を泳がせた。
「で、でも、それしか方法が思いつかなくて。最後まで意識がもたなくて失敗しちゃったけど、私、ちゃんと凄く悪い人に見えたでしょ?」
シルフェがそう言って下手くそな笑顔を見せたその時、フィアが突然立ち上がった。
それに驚いたシルフェが様子を伺うように顔を上げると、フィアがいきなりシルフェの頬を引っ叩き、パァンといい音が響いたのだった。




