2-47 ジャムトースト
記念すべき100話目の更新です!
ここまで読んでくれてありがとうございます。
二章はこれで終わり……という事も無く、もう少しだけ続きます。
キリよくとはなかなかいかないですね。
それでは、引き続きよろしくお願いします!
激動の一日から一夜明け、朝起きると俺は一階に下りてトーストを焼いていた。
今日は月曜日だが祝日で学校は休みだ。
昨日は疲れたから今日が休みで本当に良かった。
それに驚くべきことが一点。
今日は起きてもフィアがベッドに潜り込んで来ていなかったのだ。
果たして原因は、シルフェという名前らしいあの天使の目付け役をしているからなのか。
芽衣と哨もいるからなのか。はたまた昨日の一件で疲れていたからなのか。
理由は分からないが、何にしてもこれは大きな一歩に違いない。
そんな事を考えながら目玉焼きを焼いていると、フィアが手錠を掛けられたシルフェを連れて二階から下りてきた。
シルフェの格好は手錠を掛けているため、トーガみたいな服からフワフワでピンク色のパジャマになっている。昨日、唯が送ってくれた服だ。
いつまでもパジャマという訳にもいかないし、唯に頼り過ぎるのも良くないだろう。
こういう事があるなら何かしらの服を用意しておかないと後々面倒かもしれないな。
俺がそんなことを考える中、当のシルフェは借りてきた猫のように大人しくしていた。
シルフェは俯いていて、フィアに促されて椅子に座る。俺はトーストを持って行きながら挨拶をした。
「おはよう、調子はどうだ?」
「おはよ、服を着せるのに手間取っちゃったわ。手錠を掛けるのも考え物ね」
フィアがトーストにジャムを塗って食べ始める。
俺も座ってフィアからジャムを受け取ってトーストに塗る。
「君も塗ったらどうだ? おいしいぞ」
「……」
ジャムとスプーンを差し出すが、シルフェはじーっと見るばかりで手を出さない。
手錠をしているもののジャムを塗るくらいは出来るはずだ。
先に俺達が食べている以上は毒の心配もないと思うのだが……もしかしてトーストを見たことが無いのか? 外の星の出身だしな。それで警戒しているのだろうか?
「大丈夫だから。おいしいぞ」
俺が目の前で食べながらそう言うと、シルフェは上目遣いにこちらの様子を確認し、ぎこちない手つきでジャムを塗って一口齧った。
「……おいしい」
シルフェは一言呟くとそのまま俯いて黙り込んでしまった。
よく見ると肩が微妙に震えていて、雫がトーストの上に落ちる。
え、泣いてる?
よほどお腹が空いていたのか、ジャムトーストがそんなにおいしかったのか。
理由は分からないが、シルフェは泣いていた。俺は若干戸惑いながらも声を掛けた。
「お、おいっ、大丈夫か?」
「……どうして」
「ん?」
「どうして……、私に優しくするの……? 私は……あなた達を殺そうとしたのに」
シルフェが声を振り絞るかのように言った。
フィアの方を見ると視線を逸らされた。
一体、俺にどうしろと言うんだろうか?
俺はトーストを皿の上に置いて言った。
「まぁ、そうだな。殺そうとしてきた奴の事なんて普通は信用出来ないし、優しくする必要なんてないな」
「そう、でしょ? じゃあ……どうして」
「フィアが君の話を聞くべきだって言ったからだよ」
シルフェの肩がびくっと震える。
どうやらフィアの方をちらっと見ているようだ。
フィアは何食わぬ顔で二枚目のトーストにジャムを塗り始めた。
「俺は君と碌に話しをしてないし、君の事は何も知らない。それでも、フィアが君を信じたから、俺は君の話を聞くことにしたんだ」
シルフェは顔を上げて俺の方を見た。
まだ涙は収まっておらず頬を伝って落ちる。
「……私は嘘を言うかもしれないよ? あなた達を騙して、逃げようとするかもしれないよ?」
「……これはよく耳にする返しだけど、そう考えている奴はそんな事は言わないんじゃないか? それに……君が悪意を持ってたとすると色々と不自然なことが多いしな。信じるとまではいかなくとも、疑うには充分だ。まぁ、例えそうでなくとも君は俺達にとっては貴重な情報源だしな」
俺がそこまで言うと、これまで沈黙を保っていたフィアが飲んでいたコーヒーを置いて漸く口を開いた。
「とまぁ、そういうことよ。あなたの話を聞いた上でそれが嘘だろうと、嘘じゃなかろうと、その判断はこっちでするわ」
「……」
フィアの言葉に再びシルフェが俯き、少しの間沈黙が続いた。
俺は気まずさを紛らわせるためにトーストを齧った。
そして、覚悟を決めたのかシルフェが顔を上げて涙を拭った。
「分かったよ。私の知る限りのことは話すね。信じるかどうかは……お任せする」




