2-46 一糸まとわぬ天使
「分からない事だらけだし、今回はマジで疲れたなぁ。たく、状況の説明は後できっちりしてもらうからな」
俺は地面に降りると、フィアが倒れていた場所に向かって小走りで向かった。
件の場所に近付くと、座り込んでいるフィアと空が見えた。
「フィア! もう大丈夫なのか!?」
「雷人……えぇ、ごめんなさい。心配かけたわね」
「あっ、雷人! えっと、ありがとね……」
空とフィアがそう言ったが、俺を見るなり無言になる。
その視線の先を見て俺は慌てて天使を地面に降ろして壁を背に座らせる。
「ひゅー、お姫様抱っこなんてやるねー」
「べ、別に羨ましかったりはしないわよ!」
「ち、違うからな! ただこれが一番持ちやすかっただけだ! ……それにしても、フィア。本当に心配したんだぞ。お前、全身血塗れだからさ」
俺はフィアを見下ろしてそう言った。
今もフィアは血塗れのままだ。空の治療が間に合って本当に良かった。
そう思っているとフィアは自身の体を撫で、手にたっぷりと付いた血を見せてきた。
「ほら」
「いや、ほらって何だよ……。そんなの見せなくていいから」
「そうじゃなくて、良く見なさいよ。これ、どうやら私の血じゃないみたいよ? 多分、血糊じゃないかしら?」
「は? 血糊? 何でそんな……」
「何か事情があったんでしょうね。勿論そんなの私には分からないし、それは後で本人に聞きましょ」
そう言うフィアの視線に釣られてスースーと寝息を立てる天使を見下ろす。
あんな歪んだ笑みを浮かべていたとは思えない、安らかな表情をしている。
一体この子は何がしたかったのか。
「そういえば空、何でこの子が町を壊す気がないって分かったんだ? 俺には今もさっぱりなんだが」
そう言うと空は苦笑いしながら頬をぽりぽりと掻いた。
「あぁ、あれね。僕も分からないんだけど、フィアさんがそうしろって言ったからさ」
「フィアが?」
空の言葉にフィアの方を見ると、フィアはこくりと頷いてみせた。
「だったらフィアが直接言ってくれれば良かったじゃないか。そしたら、俺だってもう少し心配せずに済んだのに」
「……だって、心配してくれた方が嬉しいじゃない?」
フィアが悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う。
くそ。不覚にも可愛いと思ってしまった。
「お前なぁ……」
「うふふ。冗談よ、冗談。言った後にまた気を失っちゃって、さっきまでちょっと眠ってたの」
「どうやら、何かの能力に掛かってたみたいだよ? 精神操作系なんじゃないかな。多分、僕の能力と干渉して解けたんだと思うけど」
空の能力と干渉か。
そういえば、他人に影響を及ぼす能力同士は干渉出来るって聞いた事がある。
空がそれが出来たのは幸運だったな。
「……それで、何で信用出来るんだ?」
「根拠なんて言えるものはないけどね。その子と話した限りじゃ私達に危害を加える気はなかったみたいだし、私の事も殺せたはずなのにしなかった。それにね。何だか、無理をしているように見えたのよ。だから私は自分の目を信じた。ただそれだけよ」
言われてみれば、この子にはどこか無理やり悪く見せようとしてる感じのぎこちなさがあったような気がする。
あの時の俺にはそれを見破るほどの理性は無かったからな。
いや、ほんとに怒りに任せて切らなくて良かった。
「よし。それじゃあ、シルフェにこれを掛けておいて」
「ん? 何だ?」
投げ渡された物を受け取り見ると、それはいつぞやに見た手錠だった。
「これって……」
「それを掛けると能力を使えなく出来るの。念のために必要でしょ? 今日があなたの初手錠記念日ね。ん? 初手錠掛け記念日かしら?」
「そんなの、どっちでもいいよ」
俺は天使の手を後ろに持っていき、手錠を掛けた。
その瞬間、なぜか突然天使の服が消えて無くなり素っ裸になった。
反射的に、至って紳士な俺と恐らく空も咄嗟に目を逸らす。
「おっおい! 何だよこれ!?」
「何で突然裸になるの!?」
俺達二人が目を手で覆う中、それをまじまじと見つめてフィアが一言。
「大きいわね……」
「おいっ!」
「冗談よ。んー、多分服は能力で作ってたのね。血糊も消えたし、多分これも……髪?」
フィアが布を異空間収納から取り出して天使に被せながらそう言った。
かみ? 何のことだろうか?
「かみって?」
「……なるほど。これを見る限り……、彼女の武器とかに変化してた物は本当に全部髪の毛みたいね」
「髪の毛? 何を言ってるのかよく分からないんだけど……」
「大丈夫。俺もだ」
「ま、その辺は起きたら本人に聞きましょうか」
「ま、まぁそうだな」
色々と疑問は残るがとりあえずはこれで一件落着か。
後はホーリークレイドルか宇宙警察の仕事だろう。
理由とかは気になるが……まぁ、後で聞けばいいだろう。
「さて、このままじゃ風邪をひくかもしれないし、とっととホーリークレイドルに連れて行くか?」
「いや、何言ってるのよ。その子は私達の家に連れて帰るわよ」
「は?」
「え?」
俺と空の声は虚空に消え去り、家主に反対出来る訳もないので、俺達はそのまま天使を抱えて帰宅するのだった。
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