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X線って骨だけじゃなくて人生までも写すのか

作者: ぷろきしまる

1次放射線:透けて見えるもの


(私は富士稔太[フジ ミノルタ]。社員数百万人を束ねる有名企業の社長である。今日は年に一回の人間ドックの日、社員数百万人の人生を背負う社長として当然の義務である。)


アテンド『富士様、次はバリウムの検査です。あちらでお掛けになってお待ちください。』


(今年は初めてのバリウム検査だ。噂には聴いているがどんなものか…)


女技師『富士様、こちらへどうぞ。東芝カノンと言います。よろしくお願いします。』


社長『よろしくお願いします。』

(むむっ!娘と同じぐらいの子じゃないか!私の初めてがこんな若い娘とは…)


カノン『それではまず初めに発泡剤というお薬をお水で飲んでいただきます。飲む時は粉薬を飲む時のように飲んでいただくと上手く飲めますよ。どうぞ。』


ゴクッ

(ぬぉ〜何だこの腹の底から湧き上がってくる感覚は!今にも口から空気の塊が飛び出さんばかりだ!)


カノン『苦しいと思いますが、空気は出さないように頑張ってくださいね。せっかく膨らんだ胃が萎んでしまいますからね。』


(堪えるんだ富士稔太!これまでの人生でこれ以上に辛いことなど山ほど乗り越えてきたはずだ!堪えるんだ!)


カノン『それではあちらの検査台に立っていただきます。私がマイクで指示を出しますので合わせてくださいね。』


(何で数百万人の部下に日々指示を与えている私が、娘と同じぐらいの子に指示されなきゃならんのだ!)


カノン『富士様聞こえますか?まずはバリウムを一口飲んでください。』


(くっ!健康のため、ひいては社員や家族のため、ここは大人しく指示に従うのだ!)

ゴクッ


カノン『それでは残り全て飲みきってください。』


(噂に聴いてたよりも味は不味くないが喉越しが悪いな…この量を飲むのはなかなかしんどい…)


カノン『富士様、ゆっくり味わって飲んでしまうと余計つらいので、一気にゴクゴク飲んでみましょう!』ニコッ


(クソッース!私がバリウムなんぞに手こずってると!?見ておけーこんなもの

ゴキュッゴキュッゴキュッ…プハーッ

どうだ!やろうと思えばできるのだ、小娘が!)


カノン『良い飲みっぷりですね!ありがとうございます。それでは台を倒していきます。しっかり捕まっていてください。』


ウィーーン

カノン『これから胃の撮影をするのですが、まずは右回転で3回転回っていただきます。』


(……右回転で…3回転…んっ?どうゆうことだ?どうゆう回転軸だ?)

社長『• • • •』


カノン『分かりにくいですよね。まず私の方右側を向いて頂いて、そのままうつ伏せになります。今度は向こう側反対を向いて頂いて、仰向けに戻ります。この回転をあと2回転してください。』


(その場で回るのはなかなか難しいな。あと2回転か…)

ゴロゴロゴロ


カノン『富士様、出来たら素早く回転していただくと助かります。』


(ピッキーン!出来たらだと…この私がそんなことも出来ない漢に見えたのか!!

クルクルクルッ…バッ

これでどうだ、小娘が!ハァハァハァ)


カノン『素早い回転ありがとうございます!それでは左手側の方へ斜め向きになって下さい。そこで息を吸って…止めて下さい。』


ピーッ

カノン『楽にして下さい。』


(社員数百万…〈割愛〉…社長である私が、呼吸までも指示されるとは…なんたる屈辱っ!)


カノン『次は上向き仰向けになって…

今度は私の方右手側へ斜め向きに…

続いてはお腹を台につけてうつ伏せになっていただきます。

ご気分大丈夫ですか?今度はお腹の下にタオルを入れて検査しますね。お腹の空気出やすいので気をつけて下さいね。』


(フンッ、もう山場は越えたんだ。これから先、空気を出してしまうことなどありえ…)

ゲフッ


カノン『• • • 空気、出ちゃいましたね。でも、皆様ここで出やすいので大丈夫ですよ。』ニコッ


(ぐぬぬぬっ…何たる失態!!これまで堪えてきたこともまさに水の泡!さらにこんな小娘にフォローされるとは…富士稔太、一生の不覚。)


カノン『それでは追加で半分だけ発泡剤を飲んでいただきます。今度は出ないように気をつけて下さいね。』ニコッ


ゴクッ

(舐め腐りおって…社長たるもの同じ過ちは二度も犯さんわ!!…全ての意識を胃に集中しろ!数百万人の部下を操っているんだ、たかが胃の中の空気を操れないわけがない!)


カノン『次は一番辛い体勢です。頭がかなり下がりますので、しっかり捕まっていて下さい。』


ウィーーーーン

(おっ、おぉっ、んおおぉっ!!!ヤバイヤバイ頭下がりすぎ!というか逆立ちしてないか!?早く戻してくれー!)


カノン『• • • はい、楽にして下さい。台戻していきますね。

ご気分大丈夫ですか?一番辛い体勢は終わりましたからね。あと何枚か撮影したら終わりです。頑張って下さい。』


(ハァ…ハァ…あと少しで終わりか。あの子が優しく声をかけてくれるおかげで何とか頑張ってこれたな…

ん?…私は今何を思った…)


カノン『富士様、続いては私の方右手側へ向いて真横向きになって…』


(いや、まさか…)


カノン『次は斜め向きになって…』


(社長の私に限ってそんなはずは…)


カノン『今度は台を傾けて…』


(いや、でもこれは…)


カノン『もうすぐ終わりですよ。続いては左手側の方へ向いて…』


(この気持ちは間違いなく…)


カノン『最後、この棒でお腹を押して撮影します。痛みがあったら教えて下さい。お腹の力は抜いて下さいね。』ニコッ


(アリだっ!!!!)


カノン『富士様、お疲れ様でした。初めてなのにやりやすくて綺麗な写真が撮れました!ご協力ありがとうございます!』ニコッ


社長『ふっ、こちらこそありがとう。初めてがあなたで良かったよ。お疲れ様。』


[退室]

(私は富士稔太。社員数百万人を束ねる有名企業の社長である。今日は初めてのバリウム検査を受けた。担当は娘と同じぐらいの子だった。日々、社員に指示をしている立場の私がバリウムの飲み方、体の動かし方、息の吸い方までも指示された。しかも小娘に…

アリだっ!!!!

この気持ちは何だろう。感じたことのない快感だ。私にしかわからないだろう。

また来年も来よう。年に一度の快感を求めて…)


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