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AKANE  作者: 木と蜜柑
最終章 
60/63

      2話  もう一つの決意

 


「よく来たな、クロウ」

 スキュラの背から降り立った少年王の手を取り、フェルデンはがしりと肩を抱いた。

「久しぶりだね、フェルデン」

 フェルデンは、クロウが船では無く飛竜を使ってやって来たことに少々驚いていた。

「ああ、君のおかげで王都もこの通りだ。既に多くの場所で人が賑わい、機能し始めている。まだまだ整備の必要なところも多いけれど」

 白亜城の敷地内に降り立った二頭の黒と赤の飛竜は、ご機嫌な様子で爬虫類の眼をきょろきょろとさせている。

「そのようだね。正直、これ程早く復興できるとは予想していなかった」

 クロウは透けるような白い頬を嬉しげに緩めた。これが魔の国王と謳われていた者とは今では到底考えられない。

「クロウ、長旅疲れただろう。部屋を用意させている。少し休むといい」

 クロウを城の中へ招くと、フェルデンは小声で訊ねた。

「ところで、なぜ今日は君の側近はいない?」

 赤い飛竜の背から降りた付き人は、あの碧髪碧眼の氷の男アザエルではなく、あの盲目の槍遣いライシェル・ギーであった。

「彼は主宰を務めることになった。僕が魔城を留守にしている間は彼が全てを取り仕切っている」

「へえ、彼が主宰を?」

 フェルデンはゴーディア国内でも確実に大きな変革が起き始めたことを改めて感じた。

「そうだ、クロウ。俺は君に謝らねばならない」

 二人の後には、ぞろぞろと近衛兵が列をなしてついている。

 今日、サンタシ国内でも、ゴーディアの国王が訪国するという噂で持ち切りであった。

「へ?」

 きょとんと黒曜石の瞳でクロウはフェルデンを見返した。

「君のお父上の葬儀のことだ・・・。あんなことがあった後にも関わらず、参列できずにすまない・・・」

 特別な来客用の部屋の前までやって来ると、フェルデンはぴたりとそこで足を止めた。

「そんなことを気にしていたの? 貴方の国はそれどころじゃ無かったじゃないか。その気持ちだけで十分だよ」

 この日ばかりはエメにもユリウスにも半強制的に王服を身につけさせられているフェルデンは、いつになく国王らしくクロウの眼に映った。

 すっかり存在を忘れかけていたが、ライシェルは静かに二人から適切な距離をとってクロウの近くに控えている。

「そう言って貰えると気が楽になったよ」

 フェルデンは侍女に客間の両開きの扉を開けさせた。

「この部屋は君の為に用意させたものだ。今晩はゆっくり休んでくれ。何か足りないものがあれば、鈴を鳴らして侍女を呼んでくれ。何でも用意するよう話しておく」

 クロウは困ったように微笑んだ。

「お気遣いありがとう。けれど、部屋を貸して貰えるだけで十分だよ」

 フェルデンは少年王に優しい笑みを向けた。それは、友に向けるものそのものであった。

「ライシェル殿にも部屋の案内を」

 侍女にそう告げると、フェルデンはもう一度クロウに向き直った。

「明日の正午、いよいよ友好の儀を執り行うのだな・・・」

 クロウは真っ直ぐにフェルデンの凛とした表情を見つめた。

 この日を、どれ程待ち望んできたことか・・・。

「ああ、そうだね」

 二大国の提携を機に、レイシアのあらゆる紛争が激減することを期待して止まない。



 その晩、クロウは美しく生まれ変わりつつあるサンタシの王都を客室の大きな窓辺から眺めていた。よく晴れた月の綺麗な夜だ。

王都の東には、聖なる地、セレネの森が広がっている。幸いにも、この地だ

けは戦の犠牲にならず美しいままそこに存在していた。

あの森にある鏡の洞窟から、彼女はこの世界へとやって来たのだった。何も

知らない純真な異世界の少女は、ひどく混乱し、そして嘆いたに違いない。こちらの都合で強制的に連れて来られた上、歳若い人生を無理矢理に奪われたのだ。きっとこの世界と自分のことをひどく憎んだに違いないとクロウは思った。

 けれど、夢の中の彼女はいつでも優しく微笑んでいた。奪われたのは彼女の方なのに、彼女は消えるほんの僅か前まで、クロウが身体を貸してくれたことに感謝こそしていた。

(アカネ、僕はいつだって君から奪うことしかできなかったというのに、君にはたくさんの物をを貰ってばかりだった・・・) 

 クロウは月明かりに目を閉じた。

 クロウと彼女はコインの表と裏のようであった。けれど、それは元々は同じ一枚で・・・。二人が一つの魂を共有していることに変わりは無い。

 

ふと、あの日の光景が蘇る。

 朱音の存在が消えたすぐ後、

「もう、アカネは戻らないのか、クロウ」

と、問うたフェルデンのそのときの様子。そのまま黙り込んでしまった彼のそのあまりに辛そうな顔はとても見ていられなかった。それはまるで、片羽を捥がれた蝶のようで・・・。彼の心の痛みは計り知れない。

 けれど、それ以来彼は一度も朱音の名前を口にしなくなった。それが彼の周囲の者やクロウへとの優しさなのだろう。自分が彼女を救えなかったことを嘆き悲しむことで、クロウが自らを責めることのないようにと。そして、周囲の者に気をつかわせることの無いようにと・・・。

 しかし、クロウは知っていた。彼が変わらず彼女のことを愛し続けていることを。そして、今でもそっと彼女の帰りを密かに待ち続けていることを・・・。

 なぜなら、クロウは見ていたのだ。あの全てを終えた日の夜、敵の手に落ちることなく隠し通せたあの棺の前に(ひざまず)き、そっとその棺の淵を静かに触れていたことを。

 彼は今でもああして棺の前に毎夜訪れているのだろうか。




 響き渡るトランペットの響き、太鼓の音。

昨日同様、どこまでも晴れ渡った空が眩しげな太陽を照らし、真新しい建物で溢れ返る王都の街並みは、遠方からきた観光客や民で賑わっている。出店が立ち並び、色鮮やかな紙吹雪が舞い、あちこちで新王都の復興を祝う喜劇が民衆の間で演じられている。王都中が祝福と喜びでお祭り騒ぎである。

 その王都の真新しい大通りを、豪華な馬車が進み、その後に続いて騎士団が行進する。サンタシの新国王と、その祝いの席に駆けつけたゴーディアの新国王が同じ馬車に同乗し、喜びの眼差しで見つめる民衆に向けて微笑みを返している。

 この日、サンタシの王都復興を祝う特別な式典が催された。同時に、国民への感謝を込め、フェルンデンが盛大なパレードを企画したのだ。

 王都の外からも、新しい国王の顔と新しい王都の姿を目の当たりにしようと、多くの民が詰め掛けていた。勿論、国外から駆けつけた者も多い。

「すごい人だかりだね」

 クロウは作った笑顔を崩しはしないが、本音を溢す。

「ああ、予想はしていたが、これ程までとはな・・・」

 フェルデンもそう返した。

 それもその筈、今日はただの王都復興記念というだけではないのだから。

 王都の中心に立てられた、平和の願いを込めたモダンな塔の前で二人の乗った馬車が停止する。

 塔のてっぺんには、黄金に輝く鐘が太陽の光に反射し、美しく輝きを放っている。塔を取り囲むように建設された広場には、真っ赤な絨毯が敷かれ、塔の入り口まで続いていた。

 二人は塔の最上階から王都を見下ろしていた。塔の下は見上げる人々で埋め尽くされ、恐ろしい程の熱気を放っている。皆、新たなる若き王の言葉を心待ちにしているのだ。

 フェルデンは出来得る限りの声を張り上げた。

「我国は心無き悪しき者の手により、望まぬ戦を強いられ、王都を含め多くの民の犠牲を払った。先王であるヴィクトル陛下もそのお一人であられる。しかし、大きな痛手を負ったのは我サンタシ国だけではない。長き間我国と敵対していたゴーディア国もその犠牲となった」

 民衆の間から、ざわざわとどよめきが起こり始める。

「魔族と人間は憎しみ、何度も互いに戦を繰り返してきたが、それは大きな過ちであったと今はっきりと断言できる。悪しき者達からサンタシを守る為、ここにおられるゴーディア国新国王クロウ陛下は、自らの命をも顧みず、奔放してくださった。さらに、多大な損害を被った我国の復興に力添えをしてくださった。この戦で、サンタシ国とゴーディア国は共に手を組み、悪しき者達を廃絶させることに成功したのだ。今回のことで我々は学んだのだ。“真の敵は種族の違いなどではない、真の敵は憎しみという感情そのものだ”ということを!! ここにサンタシ国の王として全世界に宣言する! 今日をもって、我国とゴーディアは友好関係を結び、レイシア全土の平和の先駆けとなることを! そして、二度と同じ過ちを犯さぬようここに二国の友情の証である鐘を打ち鳴らす!!」

 フェルデンの合図で兵達により黄金の鐘が打ち鳴らされる。

 広場中に、王都中に鐘の音が響き渡り、人々は大喝采してその音に喜びを露わにしていた。

 塔の上で、クロウとフェルデンがかしりと熱い握手を交わした。

 鐘の音が鳴りやんだところで、クロウが耳に手をやり、すぽりと何かを抜き取った。

「なるほど、耳栓をしろっていうのは、こういうことだったんだ」

 これで全世界にサンタシとゴーディアの同盟は知らしめられた。これからまだまだ多くの問題は残るが、レイシアの平和への一歩がいよいよ踏み出された訳だ。

「今日は存分に祝い、楽しんでくれ!! 今日、この日をもって、王都は“ヴィクトーリア”と改名し、この日を平和祭祝日と制定する!!」

 フェルデンが最後に付け足すと、広場に集まった民衆は喜びの声を上げた。

 パンパンと花火が上がり、ラッパの音が木霊する。祭りの再開の合図だ。

「フェルデン、演説とてもよかったよ」

「ありがとう。クロウ、今回はわざわざ我国の式典に参加してくれたこと、感謝するよ」

 くすりとクロウは笑った。

「いいや、“貴国を訪問する”って言い出したのは僕の方だ。こっちこそ、ぼ僕を招待してくれたこと、感謝しているよ」

 これからは、もっと二国間が親睦を深め、人種に関係なく人々が国を行き来する時代が訪れるだろう。

「それにしても、あの書状、本当に君が書いたのか? クロウ」

 以前ファウストの手によりフェルデンに届けられた書状の文体ときたら、あまりに固いものだった為、フェルデンは多少の違和感を覚えていたのだ。

「ああ、ばれたか・・・。アザエルに書かせたんだけど・・・」

 そう聞いた途端、フェルデンはなるほどと思わず笑いを溢してしまっていた。

「ところで、フェルデン。僕はちょっとしなければならないことがあって、先に城へ戻らせてもらいたいんだけれど・・・」

 クロウの申し出に、フェルデンは首を傾げた。

「どんな用だ? 部下に言って手伝わせようか?」

 クロウはふるふると首を横に振った。この後、フェルデンは王都をパレードであと半周してから白亜城へと戻る予定だったのだ。

「否、さすがに君の部下にアザエル宛の書状を書いてもらう訳にはいかないよ。報告も兼ねてるしね。それに、彼が怒ると怖い・・・」

 はあと溜息をつく少年王の姿に、フェルデンは苦笑を漏らした。アザエルが恐ろしい人物だということは、フェルデン自身痛い程よく知っている。

「なるほど、それでは仕方無いな。ユリウスに言って、君を城まで送らせるよ」

 こくりと頷いたクロウに、フェルデンは全く疑念を抱くことは無かった。これ以上、大切な客人を自国の都合で連れ回す訳にもいかないと考えたこともあったせいもある。


 二人は塔の下で別れ、クロウはユリウスを含む数人の騎士と護衛、そしてライシェルを引き連れて一足先に白亜城へと引き返して行った。

 いつもと変わらぬクロウの表情。

 息を飲む程の美しい容貌の少年王に時折視線をやり、ユリウスはその度に気まずくなってさり気無く視線を逸らすといったことを馬の上で何度も繰り返した。

(けれど、まさかこの魔王の息子とフェルデン陛下が手を結ぶ日が本当にくるとはなあ・・・。ってか、この少年王には個人的な疑問が山程残ってるんだけど)

 ユリウスは、フェルデンと共にゴーディアに遣いとして訪れたときの事や、ボウレドでのあの晩のことを思い起こしていた。

 朱音を失ったことで我を失ったフェルデンがこの少年王の首に手をかけたこと。それにも関わらず、彼はその事実を側近アザエルにさえ明かすことなく黙っていたこと。そして、自分を殺そうとしたそのフェルデンのこをとひどく心配し、魔城を抜け出しフェルデンを追ってきていたこと・・・。

(あれじゃあまるで、この少年王が儀式により覚醒するより以前からフェルデン陛下のことを知っていたみたいだ・・・)

 ユリススの中で腑に落ちないまま、その奇妙な疑問点はぐるぐると出口を無くした迷路のようにずっと漂っている。


「ありがとう、もうここでいい」

 クロウの言葉にはっと我に返ったユリウスは、いつの間にか白亜城の城門を抜け、入り口までやって来ていたことに初めて気付いた。

 慌てて馬を降りるが、クロウがそれに静止をかけた。

「君は馬を置いてこなきゃいけないでしょ? ここからはライシェルもいるし、一人で大丈夫だよ。部屋の場所はしっかり頭に入っているし」

「しかし、そういう訳には・・・」

 いくらなんでも客人をここで放っておく訳にもいかず、ユリウスが返答しようとしたとき、

「ユリウス殿。わたしがクロウ陛下についていますので、お気になさらず馬を置いてきては? 後から追いついて来てくだされば済むことです」

 盲目の槍遣い、ライシェルが尤もな意見を口にし、ユリウスはしぶしぶそれに頷くしか無かった。

「で、では・・・。急いで馬を置いてきます。すぐに追いつきますので、護衛と先に行きかけていてください」

 にこりと微笑んだクロウを見て、ユリウスはくるりと馬屋に向けて馬を走らせた。

 これが後々取り返しのつかないことになるとは思いもせずに・・・。




 クロウは静かに佇んでいた。

 美しく彫刻の施された黒い棺の前に佇み、その中を見下ろしていた。

 眠ったように目を閉じたまま動かない黒髪の少女の頬にそっと触れ、クロウは優しい微笑みを浮かべた。

「やっと逢えた」

 実体の彼女に直接出会ったのは、クロウにとってこれが初めてだ。夢や心の中で会ったときより、少女の姿は可憐で、そしてどこか不思議な色を帯びている。

 決して美しい容貌をしている訳ではないし、魔力を秘めている訳でも無い。ただの人間の少女に他ならないその彼女の姿を見た途端、懐かしさと温かさが胸の奥から湧き出る感覚を覚えた。

 少女の胸に深く突き刺さった短剣。けれど彼女の肉体はまだ死んではいない。今ならまだ間に合う。

 クロウは朱音の胸の剣にそっと触れる。

 嘗ては自らの胸に突き刺さっていたこのハデスの剣は、アザエルの魔術により遠き“アース”の地へと魂を長い旅へ誘っていた。そして今、この剣はそのアースから連れて来られた少女朱音の胸に突き刺さり、その魂を元の肉体クロウへと戻す役割を果たしていた。

「アカネ、君に時間を返してあげる」

 クロウは知っていた。魂の移動距離が近くであれば、司祭や強い魔力を持つ他者の手助けが無くても儀式が成立するということを・・・。

 彼女から奪うことしかできなかった、せめてもの償い。

 クロウは触れていた少女の胸の短剣を握る手にぐっと力を込める。

 勢いよく抜けた剣の刃は少女の胸から一滴の血も垂らすことなく、傷口を瞬時に癒してゆく。

 けれど、クロウは傷口が塞がりきるよりも前に、その刃を自らの胸に突き立てなければならなかった。

 己の胸に叩き付けるかのように、クロウは剣を突き刺した。

「・・・アカネ・・・、もう一人の・・・僕・・・」

 トサリと棺の脇に倒れたクロウはそのまま動かなくなった。



 ユリウスは自らの失態に舌打ちした。

(くそっ、やられた・・・!!)

 馬を置いてなるべくすぐ後を追いかけた筈だったのだが、城の中に足を踏み入れた途端、侍女や彼につけた護衛の全てがバタバタと通路で倒れ気を失っている。慌てて飛び込んだクロウに宛がわれている客室は蛻の殻だった。

「一体クロウ陛下はどこに・・・!?」  

 ユリウスがドンと剣の柄を感情のままに城の柱に叩き付けた直後、背後に気配を感じ飛び退いた。

「!?」

「ユリウス殿、わたしです」

 盲目の槍遣い、ライシェルがいつの間にかそこへ立っていた。

「ライシェル殿・・・! これは一体どういうことです・・・!?」

 ユリウスは一瞬クロウとライシェルの裏切りを疑った。

「こんな祝いの日に申し訳ない・・・。しかし、これはクロウ陛下が強く望まれたこと。一介の部下であるわたしには陛下をお止めすることはできなかったのです」

 ライシェルの言っている意味が理解できず、ユリウスは眉を(ひそ)めた。

「それは一体どういう・・・」

「わたしはクロウ陛下からフェルデン陛下宛の書状を渡す命を受けています」

 はっとしてユリウスは身を翻して駆け出した。

(まさか・・・!!)

 ユリウスには向かうべき場所はすでにわかっていた。

 そう、あの場所しかない。

 『バン!!』

 勢いよく跳ね開けた部屋の扉の先には、だだっ広く何もない部屋が広がっている。その中央に、美しい黒い棺が横たえられ、そのすぐ脇に小柄な少年の身体が崩折れていた。

「!!!」

 ユリウスは大きく目を見開き、慌てて倒れた人物の元へと駆け寄る。

 美しい蒼黒の髪。閉じられた瞳と、透けるような真白い肌。漆黒の礼服。

「クロウ陛下! しっかりしてください!!」

 クロウの身体を抱き起こした直後、その胸に突き刺さった固い何かに気がつき、ユリウスはそれに視線を落とした。

「そ・・・、そんな、まさか・・・!」

 クロウの胸には短剣が突き刺さっていた。揺すっても、一向にクロウは目を覚ます気配は無い。

(お、落ち着け、ユリウス・・・! とにかく、この剣をなんとかしないと・・・)

 ユリウスが血相を変えて短剣の柄に手を添えた時、

「う・・・」

 棺の中から呻き声が上がった。驚き振り返ると、ちょうど少女がむくりと起き上がるところだった。

「!!??」

 少女の胸の短剣はなくなっている。

 混乱してい目を丸くしているユリウスに、少女が言った。

「その剣・・・、抜かないで・・・」

 少女がなんとか声を絞り出すと、ユリウスは腕の中でぐったりとして動かないクロウと少女を交互に見た。

「へ・・・!? 一体どうなって・・・」

「・・・ぼ・・・く・・・だよ。クロウ。魔力のない・・・この子の身体じゃ、すぐにでも僕の意識は消えてなくなっちゃうだろうけど・・・」

 信じられない光景に、ユリウスが目を丸くして口をあんぐり開けている。

「君は確か、フェルデンの一番の部下だよね・・・? ちょっと伝言を頼まれてくれる?」

 少女の姿をしたクロウが言った言葉に、ユリウスは思わず無意識に頷いていた。

(は!? クロウ陛下が死んで、この子が生き返って・・・、この子がクロウ陛下で・・・?? 一体どうなってる~~~~~~~~~~~~~~~!?)

 ユリウスは嘗て無い程にパニックに陥り、心の中で思い切り叫び声を上げていた。






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