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AKANE  作者: 木と蜜柑
第4章  戦編
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    20話  世界最強の敵(前編)

 

 禍々しい光に包まれた父に目をとられ、彫刻のように動かないクロウに、魔王ルシファーは手を翳した。

「クロウ陛下・・・!」

 凄まじい轟音と、砂埃が辺り一面に霧のように舞い上がった。

「!!??」

 あまりに一瞬のことで、訳がわからないクロウは、驚きで周囲を見回す。

 気付けば、クロウは土の上に倒れていた。そしてその身体は何かに庇うように覆い被されている。

「お怪我はありませんか・・・?」

 砂埃のせいで一切の視界がきかない中、さらりと美しい碧髪がクロウの視界に映る。

「アザエル・・・」

 クロウは驚く程に自らの声が弱々しいことに気付く。

 少しずつ治まりゆく砂の霧の向こうに、まだ変わらぬまま同じ姿で宙から見下ろす魔王ルシファーの姿を見た。

 家一軒が丸ごと入ってしまう程の巨大な穴がぽっかりと地面に開き、そこから真っ黒な湯気のようなものが上がっている。明らかに、それはクロウを殺そうとした結果であった。

「父上・・・、なぜ・・・」

 クロウは、再会を果たした義理の母の存在だけでも十分、いや、それ以上の精神的なダメージを受けていることは明白である。それにも関わらず、こうして死んだ筈の父、魔王ルシファーが突如として出現し、こうしてクロウを殺そうと攻撃を仕掛けてきたのだ。彼の混乱は当然のものである。

 その様子を可笑しそうに微笑みながら、魔王ルシファーは黒翼をゆっくりと羽ばたかせて、音もなく地上に降り立った。

 何世紀もの長き時代をこの世界で生きていたとは信じられ無い程、その姿は麗しい。

 ルシファーは美しい唇を静かに開いた。

「アザエルよ。お前は嘗て仕えた主を裏切るつもりか」

 アザエルはゆっくりと立ち上がると、嘗ての主を、髪と同色の碧い目でじっと見つめた。

「こうして帰って来たのだ。出迎えの言葉でも聞けると思っていたが」

 クロウを守るように立ち塞がったままのアザエルは、ルシファーに対して何も答えない。

「アザエル、わたしの元へ戻れ。お前とわたしならば世界の全てをその手にできる」

 心地よい程の美しい響きを放ち、ルシファーはアザエルに言葉を紡いだ。

 アザエルは動かないままじっとその主の姿を見つめている。

「アザエル・・・」

 クロウは、アザエルがひょっとして父の元へと行ってしまうかもしれない、そんな不安を感じていた。

 いつだってクロウの近くで見守り、傍にいてくれた魔王の側近。しかし、アザエルはクロウが生まれるより以前にあの父ルシファーに忠誠を誓い、仕えてきたのだ。その張本人が蘇ったとなれば、元の居場所へと戻っても何らおかしな話では無い。

 しばらく美しき魔王を見つめていたアザエルであったが、しばらくして静かにその足を一歩一歩とそちらへと進め始めた。

 クロウは悲しみを堪えるように、じっと目を閉じた。

(・・・そうか・・・)

 これで、クロウは本当に一人ぼっちになってしまった。胸を鋭い槍で貫かれたような痛みが突き抜ける。それは、心の痛みに他ならなかった。

「クロウ、まさかあいつがいないというだけで、諦めるんじゃないだろうな?」

 ふとすぐ近くから心地よい凛とした声が降ってくる。

「立て、クロウ。おれはお前を信用している。あの魔王ルシファーなどではなく、現在のゴーディアの国王、クロウをな!」

 クロウの前に、なんの迷いも無く差し出された手はあちこち傷だらけだった。

「フェルデン・・・」

 見上げた先には、にこりと笑みを浮かべる優しい優しい騎士の姿があった。透けるようなブラウンの瞳は、クロウにひどく安らぎを与える。

「これが片付いたら、おれは王都を必ず復興する! そして、サンタシとゴーディアでもう一度初めからやり直したいと思っている。このレイシアに、真の平和を訪れさせる為に」

 突然の告白に、クロウは大きな目を見開き、フェルデンの顔を見つめ返した。

「だが、それにはお前の力が必要だ。おれを落胆させるな、クロウ!」

 地面についていた手をぐっと砂と一緒に握り締めると、クロウは無言のままゆっくりと立ち上がった。

 今や彼は一人ではなかった。

「どういうことだ、クロウ。父に刃向かうか」

 強い目でルシファーを見つめると、クロウは言った。

「父上。僕はここで殺られる訳にはいきません。この国の為に、ゴーディアの為に、そしてこの世界レイシアの為に、僕はしなければならないことがあるのです!!」

 不愉快そうに目を細めると、ルシファーは吐き捨てるように言った。

「この世界が必要としているのは強き支配者。強き者が支配する世こそが平和ではないか」

「父上、支配は何も生みません。人々が自由で幸せに暮らせることこそが真の平和なのです」

 父に引けをとらないクロウの言葉に、フェルデンはこの少年王こそがこの世界に真の平和を創り出せるのではないかという確信をした。

「愛を知らず、ずっと孤独に生きてきたお前に“人々の幸せ”の何がわかる」

 ぐっと唇を噛み締めると、クロウはルシファーを真っ直ぐに見返した。

「確かに、ぼくは愛を知らずにいました。ですが、ぼくはある友人から教わったのです。たとえ愛されることが無くとも、“人を愛する幸せ”を・・・」

 ルシファーはくすりと笑いを溢すと、自らの黒翼から数枚の羽を抜き、それをふわりと宙に舞い上げた。羽は、宙を舞ううちに、ぼこぼこと生き物のように蠢き、そしてみるみる膨らんでゆく。

「な、なに・・・!?」

 ディートハルトが大剣を構える。

 むくむくと形づくられたそれは、ちょうど人の顔程の大きさの奇妙な生物に変化した。

 前進真っ黒な羽毛に覆われ、目はギラギラと銀に光り、凶暴そうな大きな口から鋭い牙を見え隠れさせている。それは小さな羽根が生え、ぱたぱたと素早い動きで自由にルシファーの回りを飛び回った。

「あれは、マブ・・・。ああ見えてすごく凶暴で頭がいい・・・」

 クロウは既に見知っている口振りで、ディートハルトに答えた。

「何ですと・・・?」

 見たことの無い奇妙な生物に、ディートハルトは首を傾げ警戒している。

「マブ。実体を持たない精霊に父上の強い魔力からできた羽を与えて創り出した、妖精・・・。いや、そんな可愛いもんじゃないな、使い魔と言った方が適切かも・・・」

「三、四、五・・・・、六匹いるぞ」

 フェルデンが飛び回るそれを目で追い数えた。

「気をつけて。昔、一度父があれを出したのを見たことがあったけれど、あれは一匹一匹が強い魔力を持っている。そのときは、たった一匹で敵を全て食いつくしていたよ」

 クロウのぞっとする話に、フェルデンは眉を(ひそ)めて剣の柄に手を携えた。

 いつの間にか、ベリアルの存在はその場から消え去っていた。おそらくは、危険なこの場所から、安全且つよく状況が見渡せる場所へと移動したのだろう。

「遊べ」

 ルシファーが呟くと、『キーッ』と耳障りな声で牙を剥き出し、物凄いスピードでマブが襲い掛かってくる。

 そのうちの一匹は、空を旋回しながら様子を見守っていたスキュラと赤い竜へと突進していった。

「スキュラ!!」

 はっとしてクロウが叫んだときには、既にマブはスキュラの横腹に噛み付く寸前であった。

「危ない!!」

 ぶんと大剣がクロウの鼻の真横を横切り、慌てて振り向くと、ディートハルトがクロウに噛み付こうとしたマブを追い払った瞬間であった。

 クロウは黒い煙でマブを捕縛し、包み込んだそれでぐしゃりと潰してしまった。

 空では、危機一髪で、スキュラに噛み付こうとしたマブを赤い竜が吐き出した炎でうまく追い払っていた。

 ほっとしつつ、クロウは再び自らに意識を戻す。

 六匹中一匹が減って残りは五匹。

 しかし、仲間を殺られたマブは、警戒して一旦三人の近くから離れて距離をとった。

 ディートハルトとフェルデンの剣の隙の無い攻撃も、すいすいとマブは避けてしまう。

「まずい。怒らせたか」

 ルシファーは、死んだザルティスの兵の折り重なった遺体の上に静かに腰掛け、愉快そうに微笑みながらその様子を見つめている。そしてその隣には、碧く美しい魔王の側近が冷たい表情のまま控えている。

 クロウはずきりと胸が痛んだが、そこからなんとか視線を振り切った。

『キーッ』『キキーッ』

 様子を伺うようして飛び回っていたマブが、ぱたぱたと狙いを定めたかと思うと、一匹を残して一斉に三人に向かって飛び掛ってきた。

 ディートハルトが、力強く踏み込み大剣を振るが、すばしっこいマブはなかなか捉えることができない。

 クロウは、ここで一発稲妻を起こせば一気に方が付くことはわかっていたが、マブのすぐ近くに二人がいる為、下手にその攻撃を仕掛けることはできなかった。

 限の無いことにイラついたフェルデンが、魔光石の魔力を発動し剣を振るったことで、とりあえずはマブを吹き飛ばすことに成功した。そしてそれをクロウは逃なさなかった。

 鋭い稲妻を叩き落し、マブを一気に四匹片付けてしまう。

 だが、それはまだ始まりにすぎなかった。

「くはっ・・・」

「ぐう・・・」

 ほっとする暇もなく、それはフェルデンとディートハルトの身体にすぐに異変を起こした。

 突如顔を引き攣らせたディートハルトは、呻きながら大剣を身体の支えに地面へと突き刺しなんとか倒れそうな瞬間を耐え忍んだ。フェルデンは、苦しそうに俯き、肩膝をついている。

『キーッ、キキーッ!!』

 まるでそれを予測していたかのように、一匹だけ残ったマブが嬉しそうにぱたぱたと飛び様子を伺っている。

「二人とも、一体どうし・・・」

 クロウは利口なマブの策略に気づき、ちっと舌打ちをした。

(毒か・・・!!)

 ルシファーの血を引くクロウには全く効き目のない毒だが、どうもマブのあの気色の悪い口からは毒性のものが発されていたらしい。わざわざ一匹だけが別の場所に止まっていたのは、人間が毒で弱るのを待つ為だったらしい。

「悪い、クロウ・・・。どうやら毒気にあてられたらしい。痺れてうまく力が入らない」

 なるほど、二人の身体は小刻みに震え、まるで痺れ薬を盛られたときのように嫌な汗を掻いていた。

『キキッ、キキッ』

 弱った二人に今だとばかりにマブが飛び掛かった。

「そうはさせない!!」

 クロウはマブを黒い靄を瞬時に掴み取り、紙屑でも握り潰すかのように躊躇なくそれを潰した。

 麗しい微笑みを浮かべるルシファーは、そんな三人の様子をまるで何かのショーの前座でも楽しむかのように、パチパチと拍手を送った。

「クロウ、すっかり力を使いこなせるようになったようだな。ここでお前を失うには惜しい」

 クロウは悲しい目で父を見つめる。

「父上は変わりましたね。以前の父上は、寡黙な方でした・・・」

 そして、何より人を傷つけるような真似を嫌い、誰よりも優しい心を持っていた筈であった。

 その父は、今や別人のように変貌してしまっていた。見た目こそ変わらないが、クロウの知っている父では既に無くなっているのかもしれなかった。

 麗しい笑みを浮かべると、ルシファーはまた羽をふわりと吹き上げた。

 今度は先程よりも多い数。

「お遊びはそろそろ終わりにしよう。残念だが、わたしはお前を殺さねばならない」

 空に舞い上がった黒い羽は見る間にマブへと形を変え、戦闘態勢をとっている。

 一方、ルシファーはすっくと遺体の上に立つと、蒼黒の髪を妖しくなびかせクロウに向き直った。

「あの二人の邪魔が入る前に殺せ」

 ルシファーの口から(めい)が下り、マブはぎらりと銀の眼を光らせながら、毒にあてられたディートハルトとフェルデンに飛び掛った。

「父上!!」

「自分のことを心配しろ、クロウ」

 クロウの知る父とは考えられない程冷徹な目を向け、ルシファーは宙に舞い上がった。

 空では、数匹のマブが飛竜達にも襲い掛かっている。

「クロウ、お前の存在は罪だ。父が責任をもってお前を消す」

 ルシファーの手には、黒い靄が集まり、それはみるみるうちに不気味な首切り鎌へと形作られていく。

 鎌は青白い電気をバチバチと放ち、柄の先には自在に伸びる黒き鎖ががっしりと繋がっている。これこそが、魔王とクロウの魔力のもう一つの大きな力であった。

 二人は、この世界に存在するあらゆる物質を思いのままに変化、再構築することで物体を創造することができるのだ。

「おれたちは大丈夫だ、行け、クロウ」

 辛くない筈など無いだろうに、フェルデンはまるで何でも無いかのように、襲い掛かるマブに剣を振るう。

「その通りですぞ、クロウ陛下。老いぼれてはいるが、わたしもこのフェルデン陛下の師でもありますからな。そう簡単には殺られてはやりませぬぞ」

 顔面のケロイドの傷を引き攣らせ、ディートハルトがにかりと笑った。

 本当は、今すぐにでもこのマブ達を処分したい思いでいっぱいのクロウであったが、今ここでこの数のマブを一匹一匹握り潰すとなると、ルシファーの思う壷となってしまうことはわかっていた。だからこそ、クロウは二人を信じこくりと頷くしかなかったのだ。

 クロウは自分そっくりの父の姿を見上げ、自らも同じように翼を生やした。

 しかし、少年身体のクロウは、父ルシファーよりも小ぶりの翼である。

「ゆくぞ」

 僅かに目を閉じた目を見開いたと同時、バサリと翼を羽ばたかせ、ルシファーは息子クロウに攻撃を仕掛けた。

 巨大な首切り鎌に対抗する為、クロウは咄嗟に巨大な盾を創り出していた。

『バチイッ』

 青い電気の火花を散らせ、クロウの盾は見事に父の大鎌を受け止めていた。

「ほお、咄嗟の割にはいい反応のようだ」

 ルシファーはその手に掛ける力を弱めることなく、ぐいとクロウの盾を押し返してくる。

「だが、これはどうだ」

 すると、その手を止めないまま、ルシファーは保護できていないクロウの下半身を膝頭で勢いよく蹴り上げた。

 衝撃でびゅんと後方に吹き飛ばされたクロウは、なんとか翼を広げることで体勢と立て直すが、その隙をルシファーは許さない。

再び鎌を振り上げ、それをまた寸でのところでクロウの盾が防ぐ。今度は腕いっぱいに力を込め、ルシファーの攻撃をうまく反動をつかって弾き返す。

だが、ルシファーはその反動を利用して更に素早いスピードで鎌を華麗に振り下ろす。鎌の攻撃を防ぐことに気をとられているうちに、クロウはルシファーの蹴りを何発か命中させられていた。

「下の二人がそんなに気になるのならば、さっさと得意の(いかずち)でマブを片付けてやればすっきりするのではないか」

 息一つ乱さないルシファーは、嫌な笑いを含んだ目でクロウに言った。

 それは、クロウ自身自らの手でディートハルトとフェルデンをマブ諸共に滅ぼさせようと企む残忍な言葉であった。

「・・・・・・」

 クロウは、血の混じった唾をぴっと吐き出すと、別人のように変わってしまった父を睨んだ。

「まあよい。クロウ、お前が二人に手を下さなくとも、二人はマブにもうすぐ食い殺されるだろう」

 クククッと笑いを漏らすと、ルシファーは風を切って鎌をクロウに向け振り切る。

 なんとかその攻撃をかわしても、すぐさま次の攻撃がクロウを襲う。宙とひゅんひゅんと切る鎌の音が鳴る。

 クロウの頬にいつの間にか鎌の攻撃を掠ったときについた傷ができ、つうと血を流していた。

(このまま逃げ続けるのはできない・・・。下の二人も気がかりだ・・・。けれど、父上を攻撃するなんて・・・)

 クロウは躊躇していた。

『がっ』

 クロウの盾が再びルシファーの鎌の刃を捉える。

「かはっ」

 クロウは突然勢いよく鮮血を吐き出した。クロウは一体何が起こったのか理解できず、盾ごしにルシファーが口元を愉快そうに歪めている姿を見つめた。

 そして、僅かに視線を下に落とすと、左手で自らの腹部に軽く触れる。

 生暖かく、ぬるりとした感触。感覚の無いその場所に、盾を貫通した鎌の鋭い刃の先が食い込んでいた。

 クロウは持てる力の全てでルシファーを蹴り上げた。

 それ程の威力はなかったらしく、ルシファーは数歩程度後ろに飛ばされはしたものの、まるで何とも無いかのようにすっと体勢を立て直した。彼の身体には未だたった一つの服の綻びさえ見当たらない。

「・・・・・・」

 クロウは、じわじわと広がってゆく腹部の血染みを左の手で押さえながら、一旦地上へ舞い降りた。その手からは盾は消失している。

 蒼黒の髪をふわりとなびかせた後、ぶわりと生暖かい風が巻き起こった。

(しまった・・・!!)

 瞬きをする速さでルシファーがクロウの背後に回り込む。手には巨大な鎌。

『ズシャッ』

 振り向いたクロウの眼には信じられないものが映っていた。

「何のつもりだ、アザエル」

 ルシファーの鎌の刃を、赤く黒い剣が受け止めていた。

(なぜアザエルが・・・!?)

「貴様は誰だ」

 碧い髪から覗く横顔は、忠誠を誓う主に向けられているものなどではなく、ひどく冷ややかなものであった。

「何を言う、わたしはルシファーだ」

 武器に入れる力を緩めないまま、ルシファーはつまらない冗談を、とでも言うように笑った。

「貴様が我主でないことは既にわかっている」

 アザエルの言葉に、ルシファーはむっとした様子で鎌を引っ込めて一旦後ろへ飛び退いた。

「・・・いつから気付いていた?」 

 面白くなさそうに武器をだらりと下ろすと、ルシファーはアザエルを見つめた。

「クロウ陛下を攻撃した時からだ」

 アザエルはルシファーと対峙したまま血の剣を構え直す。

「最初からわかっていたのか? ではなぜわたしの元についたふりをした・・・?」

 ルシファーの機嫌が見るからに悪くなってゆく。生温かい風が再びぶわりと起こり始める。

(どういうことだ・・・!?)

 クロウはアザエルの口にした言葉に戸惑いを感じていた。

 ルシファーはちらとアザエルの手にしている剣に目をやる。

「そうか、わたしに気付かれずにその剣を・・・」

 アザエルは、ルシファーがクロウに意識をとられている隙に、ザルティスの神兵の亡骸から血を集め、最高強度の血の剣を創り出していたのである。

「アザエル、それは父ではないってこと?」

 アザエルは頷いた。

 クロウはそれを聞いた途端、自らの両の手にソードを創造する。

 バチバチと散る静電気と青白い火花。クロウから迷いはすっかり消え伏せていた。

「どこの泥棒猫は知らぬが、禁術を行ったな」

 ルシファーはぶわりとあの奇妙な風を巻き起こし、アザエルをかわしクロウの眼前に出現した。

『ガキイ』

 クロウのソードの刃ががっちりと鎌の刃を受け止めていた。

 今度は、空いた片方の手で瞬時に電流の球を作り出しルシファーの腹部に放つ。ルシファーは同じ電流の玉でもってそれを跳ね返す。その衝撃で大きな青い火花が散り、不気味な光を放った。

 クロウのソードの攻撃を、ルシファーの鎌が薙ぎ払い、ルシファーの鎌をクロウのソードが受け止め、一進一退の攻防が続く。

クロウの腹部の傷は深いらしく、まだ血を滴らせている。

 アザエルが加勢し、そんなクロウをうまく補助してくれていたが、クロウは再びふわりと空へと舞い上がった。

「アザエル! 地上の様子がおかしい!! 彼らを・・・!」

 アザエルは碧い目を屈強な剣士と若きサンタシの国王へとやった。

 そこら中死体だらけの地獄とかした地上。そこにはうじゃうじゃと虫が湧き出るように、気味が悪い程のマブが飛び回っていた。一体どうやったかは知らないが、マブはいまだに増え続けている。

 スキュラと赤い竜も傷を負い、いつの間にか地上へと降り立っていた。それを守るように、見覚えのある薄い膜が張り巡らされていた。

(結界か)

 いまや、その結界がマブからの襲撃をなんとか凌いでいるようだ。

「アザエル、僕の大切な友人達を死なせないで! ここは僕がなんとかするから、あなたは彼らを!」

 ルシファーがぶわりと風を巻き起こし、自らもクロウを追い、宙へと舞い上がった。クロウは、振り切られた鎌をソードの柄で受け止め、再びバチバチと音を出す電流の玉を放つ。

「陛下のお心のままに」

 アザエルは駆け出した。マブの大軍の中へと・・・。






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