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AKANE  作者: 木と蜜柑
第3章  旅編 
33/63

    13話  裏切り

 

 朱音は一人になった檻の片隅で、与えられた薄手の毛布にくるまり、夕刻に起こった出来事を思い出していた。


「早く出ろ! もたもたするんじゃねえ、ガキども!」

 奴隷売りの大男達が鞭を片手に檻の中の子ども達を追い立てた。子ども達はべそをかきながら、檻の外へと出されていく。どうやら、競り市の開催場所へと到着した模様だった。

 カロルはぎゅっと朱音の服を掴んだまま、決して離そうとはしなかった。

「早く出ろ! 煩わせるな!」 

 苛立ち始めた男が鞭を持つ手を震わせ始めたので、朱音は何とかカロルを宥めて一緒に檻の外へと出ようとした。

「おっと、お嬢ちゃん。君はここで降ろさないぜ」

 眼帯の男が、にやりと不気味な笑みを口元に浮かべ、縋り付くカロルを無理矢理朱音から引っぺがした。

「アカネお姉ちゃん・・・!」

「カロル!」

 不安と恐ろしさでカロルは泣き喚いている。

 しかし、朱音にはどうすることもできなかった。

(きっとなんとかするって約束したのに・・・。ごめんね、カロル・・・、皆・・・)

 ぎゅっと立てた膝に顔を埋めるようにして、朱音は蹲った。

 今頃になって、ベッドの下に隠したアザエルの身体が心配になった。

 クリストフはあの後あの宿に戻ったのだろうか? アザエルの隠し場所に気付いてくれただろうか? もし気付いて無かったとしたら、昼間にボリスに会った際に一緒にお願いしておけば良かったな、等と。

 ふと昨晩の夢を思い出す。あまりに幻想的で、不安定な幼いクロウの記憶。しかし、あまりに悲しい記憶だった。あの可憐なベリアルという女性はクロウの実の母ではかった。遠い記憶だというのに、なぜか朱音にも、クロウがあの女性を愛し愛されたいと強く願っていたことがわかる。

「クロウの本当のお母さんは一体どこにいるの・・・」

 なぜかひどく胸が痛んだ。この痛みはきっとクロウ自身の胸の痛みに他ならない。朱音は、訳のわからない感情に固く目を閉じた。

「フェルデン・・・。わたし、どうしたらいい・・・?」

 もう叶わないとはわかってはいても、朱音は彼の温もりが恋しくて仕方が無かった。

 寂しいとき、辛いとき、どんなときも優しく逞しい手で頭を撫でてくれた彼の手や心の温もりが、以前にも増してあまりに恋しすぎる。あの吸い込まれそうなブラウンの瞳を、もう一度見つめ返すことができるなら、今の朱音はきっとどんなことでもするだろう。

 船の暗闇の中で、あんなにも近くに彼を感じることができたことは、まさに奇跡だったのかもしれない。それも、彼は今のクロウの姿に気付くことなく、朱音の亡霊でも見たかのような反応だった。

 もしこの世に神が存在するのならば、あれは一種の神からの贈り物だったに違いない。

「フェルデン・・・、貴方に会いたい・・・」



 クリストフとボリスは、木陰に身を顰め、巨大なテントを見つめていた。

「旦那、さっきのありゃあ・・・、魔力だろ・・・? ひょっとして、魔光石か?? じゃなきゃ、あんた自身が魔力を持ってるとか・・・?」

 しっと人差し指を立て、クリストフが咎める。

「今はそんなことを話している場合ではありません。それより、競り市が行われる場所とはここで間違いないですか?」

 こくりと力強く頷くと、ボリスは声を顰めて言った。

「旦那・・・、間違いねえ。ここは奴隷の競り市の会場だ・・・」

 ボリスが嘗ての忌まわしい記憶を思い出したかのように、狭い眉間にこれという程の皺を寄せている。

 次々と荷馬車が到着し、競りに掛けられるであろう子ども達がテントの中に連れ込まれていく。

「旦那、アカネ嬢はもしかするとここにはもういねえかもしれねぇ・・・」

 ぼそりと呟いた痩せた男に、クリトフが顔を(しか)める。

「どういうことです?」

 申し訳なさそうに、ボリスは朱音の乗った馬車の跡をつけて知った事実を全てクリストフに話した。そして、昼間に朱音に頼まれた内容も。

 クリストフはふむとしばらく考え込むと、すっくと立ち上がった。

「旦那、一体どこへ行くんで?」

 ボリスが慌ててその後を追う。

「つまり、彼女の頼みはこうだ。“自分はいいから捕まった子ども達をうまく逃がして欲しい”」

 クリストフはくくくっと苦笑を漏らした。

「アカネさんの言い出しそうなことだ・・・」

 不思議そうに首を傾げるボリスに、クリストフは言った。

「旦那・・・?」

クリストフは風を集め始めた。それも、特大の風だ。

 テントをバサバサと揺さぶり始めた風は、まだまだ威力を増し続ける。ふわりとボリスとクリストフの身体が宙に浮かび上がる。

 グンっと掬い上げるような強風は、近くの物という物を吹き飛ばし始めた。

「なっ、なんだ!? 突風か!?」

 テントの入り口付近で見張りをしていた男達が、異変に気付き騒ぎ始める。

「駄目だっ、変だぞ!? やばいっ、吹き飛ばされる!!」

 テントの支柱にしがみつき、必死に飛ばされまいと抵抗する男達だったが、テントもグラグラと大きく揺さぶられ始めた。

「どうなってんだ~~~!!!!!」

 より一層強く巻き起こった風に、ふわりと巨大なテントが宙に浮かび上がった。そこら中に人や物が飛びたくっている。

(こんな巨大な物を飛ばしたことはないんですが・・・、全ては貴女の為ですよ、アカネさん)

 クリストフは相当の集中力と精神力を消費しているのか、苦しそうに眉を(しか)めながら風のコントロールに全てを注ぎ込んだ。ちょっと気を抜けば、テントごと地面に落下させてしまいかねない。そんな危うい一か八かの賭け。

 この状態でそう長くは飛べまい。クリストフはリストアーニャの北にある検問所を、少ししけば隣国アストラの砂漠に到達することを知っていた。もともとは、朱音を連れてそこまで行くつもりでいたのだ。

(それまで、このまま堪えられるでしょうか・・・)

 疲労の激しい現状に、クリストフはくっと声を漏らした。

 空に舞ったボリスが何かを叫んでいるようだったが、もはや凄まじい風の音に掻き消され、何も聞こえない。これ程大きな風を操ったのは、クリストフ自身初めての試みだった。

 ごうごうと音を立て、風は全てを飲み込む勢いで吹き続ける。

(駄目だ・・・! もう持たない・・・!)

 懸命に気落ちを集中させようとするクリストフだったが、少しずつ威力を弱める風に、テントはゆっくりと降下しつつある。

 あともう少しで検問所だった。ぐらぐらと揺れならが、テントが地上目掛けて落下していく。

(もう少し!)

 最後の気力で、クリストフはもう一度風に威力を増加させた。

 もう一度高度を増したテントは、検問所の上を通り抜け、少し先の砂漠の砂の上にゆっくりと腰を降ろした。

 全身運動を行ったかのような疲労感に見舞われ、クリストフ自身もふわりと地面に降り立った。ぱらぱらと降下しては地面に転がっていくのは、吹き飛ばされた人達である。

「わああああ」

 しばらくすると、テントの中から蜘蛛の子を散らしたように数百人の子ども達が飛び出して来た。

「見て! 検問所の外だ! 僕ら、売られなくて済むよ!!」

 もう立っている気力も残っていないクリストフは、ふっと口元を緩ませて砂の上に座り込んだ。

「旦那!」

 ボリスが駆け寄ってくる。

「あんた、ほんとスゲエな! ありがとよ、俺たちを逃がしてくれて! ガキんちょどもの分も礼を言うよ!」 

 満面の笑みを浮かべて、ボリスはクリストフの手を握った。

 国外へと無事出たものの、子ども達が大変なのは恐らくこれからだ。まだリストアーニャに住む親兄弟と再会するには相当の苦労がいるだろう。

「アカネお姉ちゃんが約束を守ってくれたんだよ!! やっぱり、アカネお姉ちゃんはアルテミス様だったんだ!! じゃなきゃ、こんなことできないもん!!」

 テントから這い出てきた赤毛の少女が目を輝かせながら他の子ども達に話している。

 クリストフはその言葉を聞き逃さなかった。だるい身体を起こし、ゆっくりと少女に近付いていった。

「君はアカネさんを知っているんですね?」 

 驚いて警戒した様子の少女だったが、クリストフが朱音の知り合いと分かると、荷馬車でのことを話して聞かせてくれた。

「では、やはりアカネさんはこのテントにはいないんですね・・・」

 溜息をついたクリストフの姿を見て、少女は言った。

「アカネお姉ちゃんは、サンタシに連れて行かれると奴隷売りの人達が言っていたよ。サンタシの王様に会わせるって男の人達が話してた」

 少女達が散り散りになって去った後、クリストフはほっと息をついた。サンタシまで連れて行かれるとなると、すぐにどうのこうのされるという訳ではなさそうだ。しかし、朱音が目指していた旅の終着点に、囚われの身で向かうことになろうとは皮肉なものだった。

「ボリス・・・。もうリストアーニャから脱出できたのですから、後は好きに行きなさい。」

 かと言ってまだ安心はできない。この先、どのルートで朱音がサンタシへと連れて行かれるかはわからないが、まだま小国は治安がよくないところもたくさんあり、途中に賊が出て襲われるという可能性も無きにあらず。それに、無事にサンタシに到着できたにしろ、サンタシの国王ヴィクトルが朱音の姿を見たらどうなることか。憎き敵国の新国王とわかれば、どんな行動に出るかわからない。

 だからこそ、クリストフは急がねばならなかった。どうしてもサンタシに先回りしておく必要が出てきたのだ。

「ひでえな、旦那、忘れたのか? ほら、魔光石を譲り受けた相手を教えると言ったろ?」

 クリストフはがぴくりと顔を上げた。


「ヘロルド・ケルフェンシュタイナー閣下だ」

 

 ボリスの口から信じられない名前が飛び出し、はっとクリストフはボリスを見つめた。

「ボリス・・・、あなたは・・・」

 ボリスは可笑しそうに痩せた背を揺らしながら声を出して笑った。

「あっしはヘロルド閣下の忠臣なのさ。ヘロルド閣下の仰る通り、クロウ陛下は魔力をこれっぽっちもお持ちでないらしい。思ったより事が簡単に済んだもんだから拍子抜けだぜ」

 トカゲそっくりの吊り上った細い目で、ボリスは愉快そうに話した。

「アカネさんを陥れたんですね・・・」

 ボリスはあの夜、奴隷売りの男達に朱音を売り渡したのだ。

 軽蔑したような目でクリストフは見返す。

「ああ。あの夜、こうなることを予想して奴隷売りに情報を売りつけたのはあっしさ」

 ボリスは吐き捨てるように言った。 

「どう思われようが、構わねぇ。あの王がいなくなれば、ヘロルド閣下は晴れてゴーディアの新国王となり、あっしはその側近になれるって訳だ」

 ボリスには初めから怪しげな点はいくつもあった。しかし、クリストフはそれを見落としていた。

「宿でアザエルの死体を見た時にはぎょっとしたが、邪魔がいなくて助かったぜ。このところ、どうもあっしはついてるらしい!」

 今のクリストフにはもうその場から風を起こして逃げる程の体力も、ボリスに対抗する程の魔力も残っていなかった。そして、朱音を空から探し出す力さえも。

「ここであんたに邪魔をさせる訳にはいかねぇ。あんたを魔城へ連れて行く。無断で魔城に忍び込み、国王を攫った罪は重いぞ。きっとその命をもって償わざるを得ないだろう」

 ボリスは手の平をクリストフに向けた。

(まずい・・・!)

 身体の思うように動かないクリストフは、ボリスのもう一つの手に引っかかってしまった。

「眠れ」

 術を掛けられて、ぱたりと砂の上に倒れこんだクリストフは、一瞬にして深い眠りに落ちてしまっていた。

 ボリスは耳につけた小さな黒いピアスに触れた。

「あの首飾りの魔光石は偽物だ。本物はこっちだってな」

 役立たずと言われ続けてきたボリスだったが、今回の働きにはきっとヘロルドも満足してくれることだろうと、ボリスはほくそ笑んだ。

 こうした一人の卑怯な裏切り者の手によって、朱音の旅は一挙に転落への道筋を辿ることとなった。

 



 二人が朱音達の宿泊先の宿に到着したのは、翌日の朝であった。

「ほんとにこの部屋だったのか~? そもそも、この宿じゃねえかも」

 エフがぼりぼりと頭を掻きながら言った。

「いいえ! ここで間違いない筈です。この地図にもちゃんとそう記してあるじゃないですかっ」

 ルイは部屋の窓を開け放つと、ポケットから皺くちゃになった紙切れを取り出し、外の景色とそれを見比べた。

「じゃ、白い鳩が持ってきたその紙切れの地図自体が間違ってるとか」

 呆れたようにルイは向かいの宿を指差した。

「ほら、あの宿屋の屋根に丸い三重円のモチーフが描かれているでしょう? この地図にも同じマークの宿が記されています。ということはですね、向かいのこの宿が目的地なんです!」

 力説するルイを横目に、エフはしれっとした目を向けて言う。

「んじゃ、なんでこの部屋にはお前の捜している奴らがいないんだ?」

「えっと・・・、それは・・・」

 返答に困ってルイは部屋の天井を意味もなく見上げる。古い宿のせいもあり、天井には雨漏りの染みがところどころに広がり、黒ずんでいる。

「まあ、確かにちょっくら前までは誰か居たのは確かだろうがな」

 エフが古ぼけた机の上を指指す。

 食べかけのパンは乾燥し、肉の骨が二本皿の上に転がっている。ベッドのシーツもくしゃくしゃに乱れているし、奇妙なことに、部屋のドアの鍵は壊されていた。

「この部屋で何かあったのかも・・・」

 ルイは何か胸騒ぎを感じた。

「入港したときに隣にいた親爺が話していたこと覚えてるか?」

 エフは二人がリストアーニャの港に着いたとき、先に着いていた商船の乗り組み員の男が話していた内容のことを言っていた。

「えーと、突然突風が起こって競り市の会場ごと国外まで吹っ飛んだとかなんとかの話ですか?」

 そう自分で言っておきながら、ルイははっとして口を押さえた。

(風!? まさか・・・)

 あのときは、噂好きの親爺の戯言程度にしか思っておらず、聞き流していたルイだったが、今思うとどうも引っ掛かる。

「どうかしたか?」

 ぼすんとベッドに靴のまま豪快に寝転ぶと、エフはつまらなさそうに言った。

「いえ、なんでも・・・!」

 ベッドの上ですっかりリラックスモードのエフは、とんでもないことを口にし始めた。

「なんかよ、その事件にお前の仲間が関わってるってことねえよな?」

 ドキリとして、ルイは心臓を押さえながらわざとらしい笑みを浮かべる。

「あははは~~、嫌だなあ、エフったら。まさかそんなことある訳~~・・・」

「いや、どうだかな。そんだけの突風だ、巻き込まれて一緒に吹っ飛んだなんてことあるかもしんねぇぞ?」

 ルイは、やはりクリストフや朱音に何か起きたのではないかと思い始めていた。

 仮にその突風とやらがクリストフの魔力によるものであったなら、彼が何もないところであの力を使うとは到底思えない。何か力を使わなければならない程切迫した状況に追いやられていたに違いなかった。

 急にそわそわと落ち着きを無くし始めたルイを見兼ねて、エフははあと溜息をついて起き上がった。

「しゃあねえな・・・。もうついでだ、その事故現場とやらに行ってみっか?」

 こくこくと目を潤ませて頷く灰色のルイの眼を見て、観念したようにエフはぼりぼりと頭を掻く。

 エフは粗暴で大雑把なところはあるものの、見所のある面倒見のいい青年のようであった。



 二人はリストアーニャの北の検問所へとやって来た。

 検問所前には国のお役人がわらわらと集まり、何か忙しなく話している。どうも、国境を出たアストラの領土内に突風で飛ばされた物達が散らばっているようで、簡単には往来できないでいるらしかった。

 その他にも、どうもその噂を聞きつけた一般人も多く群がっていて、とてもじゃないが検問所を通ることなどできそうにない。

「テントの中にはうちの子もいたんですよ! 中の者は皆無事なんですか!?」

 役人達が怖い顔で一般人に返答している。

「ここは一般人の来るところではない。下がりなさい! 」

 エフは道中で買った肉をかじりながら、うんざりしたように言った。

「えらいごった返してるな。こりゃ当分は通れそうにねぇぞ」

 焦りのあるルイは、このどうしようもない状況に苛立ちを隠せない。

「号外! 号外!!」

 すぐ近くの石橋の上で、若い男が束になった紙を配り始めた。

「おい、一枚くれ」

 ひょいっと横からエフが男の横から紙をくすねる。男はそれに気にした様子も無く、そこら中の人という人にばら撒いている。

「さっき入ったばかりの大ニュースだ! 号外!! 号外!!」

 エフが紙に視線を落とすと目を丸くした。

「おい・・・、これ見てみろ」

 検問所に近づけないことで苛立っていたルイは、手渡された紙をいい加減に受け取って不機嫌そうに目を通した。

「嘘だ・・・!!」

 とんでも無い見出しに、ルイは必死に活字を目で追う。心臓が早鐘のように打ち始めている。


“ゴーディア、サンタシ、戦再開!!”


 十年前の条約以来、停戦中だった二国間だったが、とうとう恐れていたことが起こってしまったのだ。


“ゴーディア側がサンタシに宣戦布告を申し立て、メトーリアに停泊中のサンタシの商船を砲撃した後、乗組員を見せしめに殺害。サンタシの賢王ヴィクトル・フォン・ヴォルティーユはひどく憤慨し、ゴーディアの挑発に受けて立った。ゴーディアからは既に軍の進出の動きが確認されており、サンタシ側でも近くそれに対抗する処置がとられるであろう。

 十年前にヴィクトル王とルシファー王のもと結ばれた停戦条約はゴーディアの手酷い裏切りにより儚くも破られてしまった。各国からのゴーディアに対する批判の色は強く、新国王クロウへの批判の声も多くあがっている。これも全て、新国王クロウの幼さゆえの過ちなのだろうか。だとすれば、誰かが彼の間違いを正してやらねばならないだろう。いや、誰が彼を止めることができるであろうか。 ”

 

 くしゃりと紙を握り潰すと、ルイはぎりぎりと唇を噛んだ。

(あいつだ・・・! ヘロルドに嵌められたんだ・・・!)

 クロウが魔城を留守にしている間、あの男が好き勝手に事を運んでいたらしいことが、手にとるように分かる。クロウを悪者にすることで、自らが王の座を手に入れやすくしているに違いない。

「しかし、このゴーディアの新国王クロウってのは、相当の我儘坊ちゃんらしいな。国を巻き込むなんざ恐れ入るぜ」

 そう言ったエフに、ルイは掴みかかった。

「違う! 陛下はそんな方じゃないっ! 陛下は、陛下は・・・、優しくて思いやりのある人で・・・」

 びっくりしたようにエフがルイの掴み掛かった手を握る。

(陛下にきっと何かあったに違いない・・・! 陛下を助けなきゃ!!)







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