第4章 俊哉の心境
この章は貝塚俊哉目線で描かれてます。
2人の同級生デートをお楽しみ下さい。
♪~♪~
んー?もう朝か……?
僕は目覚まし時計に手をかけ、アラーム音を止めた。
はぁー、起きないとな。
憂鬱になりながらも、僕は重たい身体を起こし準備を始める。
僕が美容師になって早5年になる。
1人暮らしも20歳から始めたからもう10年になるか。
今まで沢山の挫折も味わってきた。
しかし、困難を乗り越えて僕は美容師と言う職を身に付けた。
ここまで来るのにかかった歳月は長かったが…。
そんな僕の前にひょんな事から小学生の同級生、望月湊と何年振りかに再会する。
あの当時を思い返すと、僕は相当のいじめっこで悪だった。
望月には残酷な言葉ばかり吐き捨ててきた。
そんな彼女が今、僕の目の前に現れた。
彼女は内面も外見も見違える程、綺麗な女性へと変身していた。
思わず僕の目も彼女に惹き付けられていた。
聞くと、僕の美容室【つむぎ】の向かい側のお店、雑貨屋【幸せ運び屋】で店長をしているらしい。
正直、運命とさえ思えてくる偶然だった。
それに彼女といると居心地が良くて時間を忘れる。
ただの同級生なのにと、苦笑いしていた…。
それから彼女の店に顔を出したり、昼食を一緒に食べたりと僕にとって彼女は疲れを癒してくれる存在となっていた。
そのお詫びも兼ねて彼女を同級生デート?に誘った。
移動手段はやはり車かな。
問題は場所だが……遊園地なんかどうだろ?
喜ぶだろうか?
休日で混んでるだろうけど、折角の機会だ。
遊園地にしよう。
僕はデート?プランを1人で練っていた。
そしてデート当日…。
僕は望月のマンション前まで迎えに行く為、車を走らせた。
今日は白のTシャツの上にブルーのジャケットを羽織ってる程度のシンプルなファッション。
望月はどんな格好で来るのか、期待に胸を膨らませていた。
ーーこのマンションだよな…?
僕は車の窓越しから望月の姿を探していた。
その時、遠くから手を振る望月の姿が目に飛び込んだ。
僕は運転席の窓越しから軽く手を振り、車を停めた。
「お待たせ!望月、乗って」
「うん」
助手席に座る望月の横顔はとても可愛くて綺麗だった。
ラベンダー色のワンピースも凄く似合っている。
「今日はありがとう。来てくれて」
「ううん、こちらこそありがとう。所でどこへ行くの?」
「着くまで内緒」
車を走らせる事、1時間弱。
目的地の遊園地が直ぐ目の前だった。
「ほら、ここだよ」
「えっ?」
望月は目をまん丸にしてその光景を眺めていた。
いざ、僕達は遊園地の入店ゲートをくぐる。
流石に休日ともあって混雑だけは避けられないな。
けれど、望月の声は心なしかいつもより弾んでる。
小さい子供の様にはしゃいでいる様子。
特に絶叫形が好きなのかジェットコースターには何回も乗りたがる。
僕はどっちかと言うと苦手だったが、何とか乗り切った。
ジェットコースターからようやく解放された僕はふいに腕時計へ目を向けた。
あっ、やばい。気付けば昼の時間をとうに過ぎていた。
お昼食べないとな。
「望月、お腹空かない?」
「えっ?あっ、そういやお昼だね?私こそ忘れてたよ」
あれだけ夢中になってれば時間なんて忘れるよな。
彼女の意外な一面を発見した。
結局、お昼は軽くファーストフードで済まそうと言う事になった。
軽くと言う割には望月のポテトとドリンクはLサイズでハンバーガーも具材ぎっしりの分厚いやつだった。
お互い昼食を終えると望月は、ぱっと何か閃いたかの様に僕の顔を見つめた。
「ねぇ、貝塚?折角だしお揃いで何か買わない?友達として」
「えっ?」
友達として…?僕はその言葉に引っ掛かりを感じた。
彼女とは同級生であり友人でもある。それだけの事なのに…。
無言になった僕の手に望月の手がそっと置かれた。
「ー?!」
「何かあった?」
「……あっ、いや、その、手なんだけど…」
僕は彼女の手の温もりを肌で感じていた。
細長い指と透き通った白い手…。
間近で見ると彼女の肌も瑞々しくて艶があった。
「…あっ?ごめんね、つい」
と、彼女は咄嗟に手を引っ込める。
「…買い物行こうか?」
「うん!」
嬉しそうに頷くに彼女の顔を眺めながらショップをあちこち転々とした。
望月は気に入ったお店でプラスチック製の柴犬のペアストラップを手に取っていた。
「これ可愛い!ペアだからピンク色と青色のバンダナしてる。ねぇ、貝塚これどう?」
「うん、可愛い」
「じゃ、これにする」
そう言って望月はストラップを既にお菓子などでいっぱいになっている買い物かごに入れてレジ前へと進む。
会計を済ませた望月は買い物袋を手に僕の方へと駆け寄ってくる。
「お待たせ!」
「大丈夫。荷物持とうか?」
「うん!ありがとう」
買い物袋を持とうと僕が手を伸ばした時、
「あっ!ちょっと待って!渡す物が…」
と、望月は慌てて袋の中から手探りで柴犬のストラップを取り出していた。
丁寧に袋から開封するとピンク色のバンダナを付けた柴犬の方を僕へと手渡してきた。
「これ、女の子の方を持っていて」
「あっ、うん。ありがとう。大事にするよ」
彼女の無邪気な笑顔に僕の心は満たされた。
「もう遅いし、そろそろ帰ろうか?」
「うん、そうだね」
一瞬、望月の顔が曇った。
もしかして……まだ、一緒に居たいとか思ってくれてる…?
内心、僕も一緒に居たいが…。
僕は思い切って素直な気持ちを打ち明けた。
「…望月、今日はありがとう。楽しかった。…あの、望月、君さえ良ければ…もう少し一緒に居ないか?」
その瞬間、望月の曇り空だった顔がゆっくりと晴れていった。
これこそ、彼女からの僕に対しての返事に見えた。