第19章 残酷な悲劇
この章は貝塚俊哉の目線で書いてます。
ーーこれは明け方見た夢だった……。
朝起きたら望月の姿が僕の傍から消えていた…。
それ以来、消息不明になる。
しかも彼女の携帯は現在使われていませんのコール音が流れていた。何度かけても結果は同じだった。
僕は生きた心地がしなかった…。
(貝塚!)
うん?誰か呼んでる?
(貝塚!)
はっと目が覚めると望月が心配そうに僕の肩を擦っていた。
あぁ、夢で良かったと安堵の表情を浮かべた。
どうやら僕はこの夢に魘されていた様だ…。
「…望月、おはよう」
「…貝塚、おはよう。大丈夫?魘されていたみたいだけど」
「あぁ、大丈夫」
朝起きたら隣には大事な人が居る……これが幸せだと改めて実感する。
僕は明け方の夢が正夢にならぬよう、真摯に願っていた…。
望月は一旦、マンションへ帰りたいらしく早めに僕のマンションを後にした。
丁度その頃だった。
携帯に元彼女の香からメッセージが届いたのは…。
何事かと、メッセージの内容を確認する。
そこにはこう書かれていた…。
【俊哉、昨日何年振りかに信男が私んちへ訪ねてきた。貴方の所在地を知らないかって探りに来たけど、何かあった?】
香んちまで押し掛けたのか…。
彼女のとこは両親と3人暮らしで迷惑になる…。
この辺で手を打っとかないとな。
【それで田中に僕のマンションを教えたのか?】
と返信。
1分もしない間に返信が届いた。
【教えてないよ。信男の様子が明らかに尋常じゃなかったから。やっぱり何かあったのね?とにかく私にも教えなさい!】
教えろと言われても、僕は彼女を巻き込みたくなかった。
だけど、彼女は頑固だから意地でも聞き出そうとするだろう…。
と……諦めて、僕は洗いざらいメッセージに打ち込んだ…。
【…またもや田中と僕の好きな人が被った。そのせいで僕に苛立ってるだろう。僕の彼女を奪おうして何を仕出かすか分からない状況だ。だから香も関わるなよ、絶対に。約束だ】
僕は念には念を押していた。
それから暫く経っても香から返信が来る事はなかった…。
僕は急に胸騒ぎがしてコップ一杯の水を飲み干す。
はぁー、こうなったのも僕の過去の行いが原因だ。
この歳になって後悔するとは…。
そして、僕はこれから起こる恐ろしい悲劇までをも招いてしまったのだ……。
そうとも知らず最近の僕は頬が緩みぱっなしだった。
理由は最近の日課である望月からのお弁当である。
田中の件があって以来、行き付けの【ロマンド】での昼食を控えようと提案。
朝早くから起きて僕の為に腕によりをかけて作ってくれてるれしい。
その気持ちだけでも胸がいっぱいになる。
今日は珍しく来店予定だったお客様にキャンセルが出たりで僕は仕事を早めに切り上げた。
望月の様子をお店の外から覗くと田中が望月に言い寄ってるのが視界に入る。
明らか他の従業員までをも巻き込んでいた。
ここで僕が出ていくと火に油を注ぐみたいに田中を逆上させないかとそこが不安だったがこれ以上は黙っていられない。
と、僕は店内へと足を踏み入れてしまった。
扉の開く音で皆の視線が一斉に僕に向けられた。
「…貝塚」
何で来たの?みたいな表情で僕の方を見つめる望月。
彼女だけはこの身を投げ出してでも守らないと…。
「…田中、もう止めてくれ。ここはお店だから。外で話そう」
「………あぁ」
僕は田中を簡単に外へと連れ出す事に成功した。
逆にそんな田中に違和感を覚えながらも僕は話を持ち出す。
「…田中、お前とはきちんと話さないといけないと思ってた」
「はぁ?今更、話だと?俺はお前とは話すつもりはない」
「僕はある。望月の事だ」
「ーー?!」
「お前が何と言おうと彼女とは別れない。自分の過去のいじめとかが原因ですれ違ったりしてたけど、やっぱり忘れられない。幸せにすると誓った」
「………幸せにするだと?貝塚、お前には出来ない。彼女を幸せに出来るのは俺だけだ。悪いが諦めろ。今回は香の時みたいにはいかない」
「…どうすれば納得出来る?」
「…ふん、そうだな。その場で土下座でもしろよ。そしたら考えてやる」
「…………」
「おい?出来ないのか?」
僕は渋々ながらも地面に両足を跪かせ頭を下げた。
通行人の目にはどう映ってるのか……。
それでも望月の為にと歯を食い縛っていた。
「…天下の貝塚が1人の女の為にな。もう良い、頭上げろ。彼女の事は諦めるから」
「…本当か?ありがとう、田中!」
僕は立ち上がり、汚れただろうズボンなどの衣服を手で払い飛ばした。
そして、僕は田中と少し距離を開けながらも一緒に歩いてた。
すると、目の前の大きな交差点にさしかかった。
赤信号なのでその場で止まる。
次の瞬間、僕の背後が通行人の声で騒がしくなる。
その場から逃げ去る通行人。
僕はようやく後ろへ振り返った時には遅かった。
田中の右手に持つキラリと光る鋭い刃先は間違いなくナイフだった。
その刃先は僕の心臓辺りを狙っている。
僕はもう、死を覚悟して目を閉じた…。
ブス!
「……えっ?」
僕は目を恐る恐る開くと、香が僕の身代わりとなり刺された…。
彼女の服から流れ落ちる鮮血に田中までもその場に崩れ落ちる。
「香!!」
僕は震え上がる手で携帯を使うが上手く番号が押せない。
「誰か!救急車を呼んで下さい!!」
通行人によって救急車の手配は済んだものの直ぐには来ない救急車に僕は苛立つ。
気付くと香の顔色は青ざめ刺し傷からの出血量が多い。
このままじゃ、やばい。僕は持参してたタオルなどで止血しようとするも追い付かない。
「くそ!」
何も出来ない自分が歯痒い。
その時、僕の腕を香は咄嗟に掴んだ。
「……とし、や」
「何、香?もう少しで救急車来るから頑張れ!」
最後の力を振り絞り香は言った…。
「……今までありがとう。だ、大好きだったよ…」
彼女の掴んでいた手がその瞬間、バタっと僕の腕から滑り落ちた……。
「………おい、冗談だろ?」
僕は香の肩を何度も揺らすが返事もない。
「……待てよ!何でこんな事でお前が!」
僕は怒りをぶつける様に田中の胸ぐらを掴む。
「お前のせいだ!お前が、彼女を!」
田中は魂が抜けた抜け殻となり会話にもならない。
僕はその場で泣き崩れた…。
僕の悲鳴がこの横断歩道に響き渡る…。
まるで、それを隠すかの様に恵みの雨が土砂降りとなって降り続いた…。




