第14章 本当の気持ち
ーー貝塚が美容師を辞める…。
私は居ても立っても居られなくて、気付いたら両足が勝手に貝塚のマンションへと走らせていた…。
行っても追い返されるかもしれない。
会ってくれるかさえも分からない。
怒鳴られる恐れもある。
それでも……会いたい!
私は息を切らしながらただひたすら走っていた…。
貝塚のマンションに着いた時には私の髪の毛は乱れ放題。
それでもお構いなしにエレベーターへ乗り込み3階まで上がる。
彼の部屋の前に到着すると、私は試しに1回インターホンを鳴らしてみる。
ーピンポーン
誰も出てくる気配がない。
もう一度鳴らしてみる。
ーピンポーン
応答がない。
留守なのか…。
それとも……扉に付いてる丸い小さな小窓から私の姿を確認出来たから、咄嗟に留守のふりを装ってるのか…。
そこで私は玄関の扉を少し叩いてみる事にした。
ーコンコン
「…ねぇ、貝塚、本当に居ないの?」
貝塚に私の声が届いているかは分からない。
だけど……このままここで待ち続ける訳にもいかないので、今日の所はこれで断念した。
それ以来、私は貝塚のマンションへ度々足を運んだ。
毎日は厳しいので週3から4回のペースで自分なりに頑張っている。
けれど、その行動も虚しい結果に終わる…。
毎回留守なのか、会う事すら困難な状況だった。
もう、私はどうしたいんだろう。ほぼ自然消滅状態なのに今更、何を望んでるんだろう。
会ってくれないなら、せめて今の思いだけでも手紙に書いて渡すのも一つの手かもしれない。
善は急げの勢いで私は急遽、便箋を購入して帰宅する。
そして鉛筆と便箋を手に私は机に向かった。
自分の思いを便箋に綴る事が出来たら…。
それにしても、私の精一杯の気持ちを文章にするのって難しい。
納得出来るまで修正をして完成した便箋を再度読み返す。
良し、完璧!
私は出来上がった便箋を封筒に入れて気合いを入れ直したのだった…。
後日、私は仕事帰りに貝塚のマンションへと立ち寄った。
案の定、今日もインターホンを鳴らしても貝塚は出て来てはくれなかった…。
「……駄目か」
私は仕方なく封筒の端を少しだけ出してポストの隙間に差し込んだ。
「…これで嫌でも分かるよね」
だけど、ふと私の脳裏に過ったのは…折角の手紙も私の宛名を見たら読まないままごみ箱へ捨てるかもしれないという事。
もしそうだったなら、完全に諦めも付く…辛いけど。
私は余計に涙が止まらなくなった…。
そして、私は貝塚のマンションを暫く眺めていた…。
沢山の思いが詰まった手紙と共に…。
あれ以来、貝塚からは何の音沙汰もないし現実は絶望的だった…。
そして、私は貝塚のマンションを訪れなくなった…。
この際、思い切って新しい恋愛へと踏み出すのも良いのかな。
ふと、直ぐに思い浮かぶのは田中君の顔。
ーそう言えば、明日は田中君と映画鑑賞の日だった!
色々あって、すっかりと忘れてしまってた…。
思い出したのが前日で助かった。
私は田中君とのお友達デートに今から複雑な気持ちでいっぱいだった…。
そして約束の日、田中君とは現地集合って事で待ち合わせ場所は映画館になっていた。
私は準備を済ませ、家を出ようとした時だった。
ーピンポーン
玄関のインターホンが鳴り響く…。
誰だろ?
もう出掛けるんだけど…。
私はそっと扉を開くと、そこには1年間音信不通で一度も会ってくれなかった貝塚の姿があった…。
「…か、貝塚?」
「……君には負けたよ」
「…負けた?えっ、それってーー?!」
どういう意味か聞く前に私の唇は貝塚の唇で塞がれた…。
久し振りのキスが私の心の傷を癒す。
貝塚もキスを止めようとしない。
その上、中々離してくれない唇。
んー、息が出来ない!
私は思わず、貝塚の胸元を押し当ててお互いの身体を離した。
「……はぁ、もう、苦しいじゃん!」
「……ごめん、止まらなかった」
彼は笑って誤魔化す。
どうしよう。
やっぱり私…貝塚の好きだ。
忘れられそうもない。
もう、気持ちに嘘は付けなかった…。




