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第13章  決別


ーーあぁ、つい暴走してしまった…。


後になって振り返る度、後悔の念が私を襲う…。

どうして今更、昔の事で相手を責めて傷付けるなんて…。


だけど、実際の話だから否定はしない。

鬱病になった時は目の前が真っ暗で先の未来が怖くなっていた。

何年もの間、封印していた過去の自分が再び脳裏に蘇ってくる。


間違いなく、私と貝塚の関係に亀裂が入ったのは確かだ。

暫くは距離を置いて自分を見つめ直そう。


そう、自分に言い聞かせたのだ…。




距離を置いてから1週間が経とうとしていた。


店長の業務は順調で従業員達も日々、成長していた。


あぁー、店長の仕事って良いな。改めて遣り甲斐を感じる一方で貝塚とは一切、連絡を取っていない。


そりゃ、そうだ。最後に会った日の私の苛々した態度を見れば誰だって愛想を尽かすだろう…。

これからどうすべきか答えが出せぬまま、時間だけが刻々と過ぎていった…。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



  1年後……



「いっらっしゃいませ!」


雑貨屋【幸せ運び屋】は相変わらず活気に満ち溢れていた。

お客様の笑顔が私達のやる気を奮い立たせる。


そして、私達のお店は若い世代の女性から絶大な人気を誇る雑貨店へと生まれ変わっていた。


「店長、今日も沢山のお客様が来られてますね」

「そうだね。凄く有り難いし、嬉しい事だね」

「………あっ、店長。来られてますよ、いつものお客様が」

「…えっ?」


あっ、今日も来てくれてる。


彼は田中信男、小学生時代に貝塚とつるんでいた3人の内の1人。何をするのも全て貝塚の指示に従って動いてた家来みたいなもんだったかも、2人は…。


偶然、田中君とその妹、楓さんを連れて私のお店【幸せ運び屋】へやってきたのが事の始まり。

そこで私達はまた再会を果たし、連絡先を交換した。


問題の貝塚とは1年前のあの日から音信不通になっていた…。


最終的に言うと、私達は自然消滅したのかもしれない…。


決定的だったのは、私自身が自ら美容室を変えた事だ。


お互いのお店が向かい合わせの為に会う確率は高いかと思っていたが不思議と会わずに済んでいた。

ただ一度だけお互いお店から出た時に目が合った時がある。

挨拶しようと私は少しづつ距離を詰めていくと、そこには冷酷な表情で私を見つめる彼がそこにいた。まるで赤の他人かの様に挨拶もなしで会釈すら様子はない…。

今までの優しさが嘘だったかの様に彼は変わってしまった…。


これで、本当に終わったのだと確信した瞬間だった…。



そして今は田中君との再会を機に仲良くさせって貰ってる。

何回かお友達デート?も繰り返していた。

最近になって私のお店にも顔を出してくれてる田中君。

だけど、彼と貝塚を会わせたくない。

もし美容室から出てきた貝塚と、ばったり鉢合わせなんかしたら……。

とにかく、それだけは避けたい。


勿論、私が貝塚の彼女だった事は田中君も承知の上。

同窓会の時に一緒だった金井君に聞いたらしい。

だけど、田中君本人からはその事には触れてこないし追及もしてこない。

ただ、一度だけ……私はもう貝塚とは無理かもしれないと田中君の前で漏らした。


そんな私の言葉を受け入れてくれる田中君なら、今の私の心の溝を埋めてくれるかもしれないと淡い期待を抱いていた。



「田中君、今日も来てくれたんだ」

「今日は暇だったから望月の顔を見に寄ったんだ」

「……あ、ありがとう。でもね、来て貰っても仕事でバタバタしてるから退屈だよ」

「…あっ、ごめん。迷惑だったかな?じゃ、また改めて誘うよ。お互い休日の日にね」


私は笑顔で頷いていた。


田中君が店から出て行った後、入れ替わりの様に妹の楓さんが店内へと入って来る。


「望月さん!」

「えっ?楓さん?」

「驚いた?お兄ちゃんには内緒ね。私が勝手に来たんだから」

「うん」

「あのね、望月さんはお兄ちゃんの事をどう思ってる?」

「えっ?」

「だってお兄ちゃんに聞いても答えてくれないから」

「どうって、仲の良い友人かな?」

「友人ね、それはいずれ恋人候補になったりする?」

「えっ?!」


田中君が私の恋人に…?

有り得ない話じゃないけど、私はつい慎重になる。

貝塚とは失敗したから余計に…。

軽はずみな言葉は避けて彼女にこう告げる。


「…まだ出会って浅いし、お互い知らない事もあるからもう少し友人関係を続けたいのが私の本音かな?」

「あっ、それなら良かった。お兄ちゃん、望みあるのかな?って心配してたから」

「そうなんだ。楓さんって本当にお兄さん思いだね」

「まぁ、幼い時から何するにもお兄ちゃんの傍に引っ付いてたからね。何かあっても直ぐにお兄ちゃんが助けてくれるし」


田中君って本当に妹さん思いの優しい人だな。

彼と付き合ったらずっと心が穏やかに満たされるかな。

私は彼との交際を真剣に悩んでいた……のに、私の思いを揺らがす一言が又もや私を決心を鈍らせた…。



この日の夕方、もうすぐ閉店時間だと言うのに2人の女性が勢いよく店内へと入ってくる。

うん?この人、確か……。

あっ!美容室【つむぎ】のスタイリストさんなんじゃ?


雰囲気からして間違いない。


あっ、それより接客しないと!


「…いっ」


言おうとした瞬間、女性達の噂の声に遮られた…。




「本当に何で辞めるんだろう、貝塚君?何か知ってる?」

「私だって知らないよ。ただ辞める理由すらも分からないみたい。でも美容師辞めたら勿体ないよ。腕は確かなのに」


私は接客を忘れ、つい女性達の話に聞き入ってしまった。



「…とにかく、貝塚君が抜けるのは痛手だわ。彼の代わりに誰が来るのかしら?折角、貝塚君と仲良くなれたのに」

「…まぁ、それは残念ね。だけど、彼の引き継ぎは本当にどうなるかしら」



貝塚が美容師を辞める?

あれだけ上手なのに?

辞めるのは私のせい?



私はその事実にただただ、愕然としていた…。













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