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第12章 過去の傷

この章も貝塚俊哉の目線で書いています。


この章では彼の過去について触れていきます。


香から友人関係には戻れないと言われた後、僕は暫くその場に立ち尽くしていた。


溝が入ったのとは違う……今の現状を言葉では表現出来ない。


あっ、それより望月に連絡を…と。

僕は一先ず部屋に入った。



自分の部屋のベッドに横たわり携帯を眺めた。

取り敢えず、ここは電話かな?


僕は望月に電話をかけると、1コール後、彼女は直ぐに電話に出てくれた。 



『貝塚?』

『望月、さっきはごめん』

『ううん、大丈夫だよ。それより彼女はどう?』

『うん、大丈夫。ありがとう。……それより、彼女の事、ほんとに気にしてない?』

『さっきの彼女?……私が以前見た女性だったから、友人かそれとも元彼女とか?』

『…うん、確かにそうだけど』

『何だ、やっぱりそうか!』


自分以外に女性の存在を知ったら多少は嫉妬しそうなものだけど…。望月からは嫉妬の素振りすら電話口からは感じられなかった。

僕が単に嫉妬深いだけか……。

彼氏としての余裕を見せないとな。


『……望月、今日の事、埋め合わせしたいからまた会ってくれる?』

『うん、良いよ。でもそこまで気を遣わなくても良いからね』

『……えっ?』


一瞬、その言葉を疑った。

僕と望月って好きの度合いが違う?


男なのに逞しいはずが望月の前だと情けない男に成り下がる。



『貝塚、どうしたの?』

『……望月、好きだよ』

『うん、知ってる。……私も好きだよ』


単純だけど、好きだよの言葉で僕の胸の奥はほんわかと暖まった…。


望月との電話を終えると、僕は浴室の湯船へと身体を浸していた。


立ち上がる湯気を見上げながら僕は不意に過去の記憶が脳裏に蘇ってくる…。



ーーあれは小学生時代。

僕はいつもの様に田中や金井を引き連れて3人でつるんでいた時だった。

偶然、横を素通りしようとする望月に僕は残酷な言葉を吐き捨てた。



「あっ、デブの望月だ!お前さ、生きていて何か楽しい事でもあるのか?そんな真ん丸の身体で!」


ー衝撃が走った…。

田中や金井も流石にその言葉に一歩引いた様に僕の傍から離れようとする。


「お前達、何だよその態度!」


望月は歯を食い縛りながら、涙を堪えている様子だった。


そんな彼女を僕は更にどん底へと叩き落とした。


「お前さ、いつも黙ってばっかだな。もう面倒臭いよ、お前」




ーーどれだけ僕は最低の人間なんだ。


今となっては、昔の話だがあの当時の彼女の心境は計り知れないだろう。

どう謝っても許されない。

彼女の傷は癒える事はないだろう。


そんな彼女と付き合うなんて、どこまで身勝手で都合の良い男なんだ。

僕は自己嫌悪に陥っていた…。




望月との電話以来、彼女との連絡の頻度が確実に減っていた…。


どうしたんだろう?

僕は気になり休日の日に望月の職場へと足を運んだ。


店の中は相変わらずの繁盛ぶりで従業員の接客態度も申し分ないし雰囲気も最高だ。

特に望月は店長としての貫禄があるから人一倍目立つな。

それにお客さんが商品を手に喜んでいる姿も目に留まる。


良いお店を見つけてそこで新しい自分と生き甲斐になる仕事を見つけたんだろう。

自分の彼女が誇らしかった。


喜ばしい事なのに素直に喜べない。

僕は過去の過ちからは逃れられないだろう。


だけど、一目だけでも顔を見てから帰りたい。

僕は彼女の接客を無事に終える様に離れた場所から見守ってると一段落付いたのか、僕の姿に気付いた望月は段々と歩み寄ってくる。


「貝塚、どうしたの?」

「うん、ちょっと顔を見に…」

「ちょっと待ってて」


望月は僕から離れ何やら従業員達の方へ。

話をしてると思いきや、直ぐに僕の方へ戻ってきた。


「…お待たせ。ここじゃあれだし、ロマンドのお店に行きましょう」

「あぁ、そうだな」


その足で僕達は行きつけのロマンドのお店へとやってきた。


ソファー席で向かい合いながらお互い一杯の珈琲を頂いた。


一服には丁度良い珈琲の苦さが僕は好きだった。

普段から僕にとっての癒しの珈琲とも言えるかな…。

そんな気持ちとは裏腹に望月は腕時計ばかり見ていた。

ただ珈琲を飲むだけで一言も話してこない僕に望月は痺れを切らした。



「……あの、所で、どうしたの?余り時間ないから手短に」

「……あっ、ごめん。会いに来た一番の理由は顔が見たかったっていうのが本音。迷惑になるのは承知してたよ」

「じゃ、何も話はない訳?」


僕は無言で頷く。


「それなら直接来ないでも良いんじゃない?私も仕事忙しいんだから」


少し苛立ちを見せる望月の表情はどことなく固かった…。


「……望月、どうしたの?様子が変だよ」

「……どうもしない、どうもしない。ただ……昔の事を思い出した。貴方が私に言った言葉を…。今まで忘れてたつもりになってたけど、貴方と付き合い出してから私の頭の中で何度もその時の言葉が再生されて…。正直、あれが原因で中学時代は不登校、それに加えに鬱病。最悪だった。長い年月のお陰で私の鬱病は改善された。それに過去も。………なのに、貴方と出会った時は案外平気だった。でも一緒に過ごす内に色々な感情が現れた。勿論、好きな気持ちはある。でも昔の過去が蘇って私の心を乱す。……こんな事言うつもりなかったのに、ごめんね。取り敢えず今は1人で考えたいから時間くれる?落ち着いたら連絡するから…」



目の前の現実は僕が想像していたよりかなり過酷だった…。

彼女の人生を壊したとも言える。

土下座でも何でもして許して貰えるならそれに越したことはないが……。

やはり過去の傷は拭い切れない……痛い程、身に染みる…。



「……分かった、本当に済まない」

「……うん、じゃあね」


彼女からは笑顔は消えていた。

今までに見た満面の笑みはもう失われていた。



そして、望月は1人席を立ち…自分のお店へと戻って行った…。










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