第11章 元彼女の存在
この章は貝塚俊哉目線になります。
彼の元彼女、柳瀬香が再び出てきます。
ーー望月と結ばれた日から数日が経つ…。
僕も本音を言うと…早く望月と…っていう願望はあった。
でも焦って失敗したくなかった。大事な女性だから。
けれどまさか、彼女の方から誘ってくるとはあの時は考えもしなかった。
あの日の望月の顔は僕の頭の中に焦り付いていて忘れられない。
その度に寂しさが増して、会いたくなる。
だけどそれ以降、彼女は店長の仕事が日々増していて忙しく中々会えていない。
勿論、連絡は取り合っている。
馬鹿みたいなやり取りだけどそれはそれで幸せだ…。
そんなある日の休日……多忙の日々も落ち着いてきたのか、望月から久し振りに会いたいなと連絡を貰い、彼女とのデートを満喫した。
すっかりと店長の仕事にも慣れてきた様で良かった。
「…望月、今日は僕んちに来る?」
「貝塚んち?………うん、そうだね。……行くよ!」
望月は行くのを少し躊躇った様にも見えた。
今が幸せな分、ちょっとした表情や言動にも不安を覚える。
男ながら情けない…。
僕も望月と同様、マンション暮らし。アパートだと人付き合いがありそうで面倒だと思い、静かに暮らすにはマンションが的確だと考えた。
お互い1人暮らしだと誰にも遠慮なく望月と会えるのは嬉しい事だ。
それにお互いのマンションを行き来するのに抵抗もない。
なぜなら徒歩20分ぐらいで行ける距離だからだ。
初めから自分の職場近くに住もうと決めていたし、今のマンションは良い物件だった。
隣を歩いている望月の顔を眺めながら僕は微笑みかけた。
「…望月のマンションと僕のマンションが近い距離で良かった。まぁ徒歩20分ぐらいだけどね」
「…うん、そうだね」
あれ?やっぱ様子が変なんじゃ?
「……望月、何かあった?」
「……えっ?あっ、ごめんね…何か緊張しちゃって」
「緊張?」
「…だって、その……い、言わさないで!」
僕は数秒経ってからその意味に辿り着く…。
あぁー本当に望月は可愛い。
惚れた男の弱みと言うか、今まで付き合ってきた中では初めての感情ばかりで自分でも戸惑う程だ…。
ゆっくり歩き続ける事、20分。
僕のマンションが視界に入ってきた。
もうすぐ着く。
「…望月、もう着くよ」
「…うん」
僕の部屋は3階で、普段からエレベーター使用は当たり前。
望月をエレベーターに誘導し乗り込む。
エレベーターの中に2人きりだと妙に意識してしまう…。
それを悟った様で望月も僕から顔を反らしていた。
3階に着きエレベーターから降りると、僕の部屋の前に誰か立っていた。良く見ると元彼女の香だった。
「……香?」
「……俊哉」
彼女の顔から窺えるのは恐らく良い話じゃない。
今にも泣きそうな顔をしている。事態は悪い様だ。
しかし、今は望月を優先すべきだ…。
取り敢えず、今日は一旦帰って貰って日を改めるしか……。
「……私、帰ろうか?」
「…えっ?」
帰るって?
僕に気遣ってるのは分かるけど…。
ここは彼女が大事だ。
「何で帰るの?」
「だって、急用みたいだから?」
「いや、大丈夫だよ。また日を改めて貰うから」
「ううん、私こそ大丈夫。いつでも会えるんだし。だから今日は帰るよ」
どうしたら?無理にでも引き留めるべきか?それとも?
悩んだ挙げ句、望月には帰って貰う羽目になった。
かと言って、香の事もほっとけない。
僕は優柔不断な男だと認めざるを得なかった。
そして香と望月はお互い軽く会釈する。
「…じゃ、私失礼します」
「……何か、すいません。私の為に」
「気にしないで下さい。じゃ、貝塚またね」
「…あぁ、済まない」
下りのエレベーターに乗り込む望月の姿に僕は心を痛めた…。
「……本当に良かったの?帰らせて?例の彼女でしょ?」
「…うん。また改めてお詫びするよ。所で話があったんだろ?」
「…あっ、うん。……私実は彼氏と別れてしまって」
「…そうなのか?原因は?」
「…気持ちがなくなったらしい。私は好きなんだけど、彼の方はもう気持ち冷めた上に新しい出会いがあったみたいで、その人と良い感じみたい」
「…そうか。香も辛いよな」
「…だけど不思議よね?私達の時は普通に別れられたのに、今回は……難しいよ」
涙ぐむ彼女の姿にどう慰めて良いのものか、僕は取り敢えず香の背中を擦っていた…。
「……香、また良い出会いがあるよ。だから諦めるな」
何か励ます言葉をと捻り出した答えがこれだった。
僕と香は友人関係だ。
それはこれから先も変わる事はない…。
と…思ってたのは僕だけだったと香の言葉で思い知る…。
「……俊哉、実は私ね…。俊哉の彼女に嫉妬していた。何か、お互い思い合ってると言うか…。上手く言えないけど…私と付き合ってた頃より今の彼女との方が俊哉らしさが出てると言うか…私、今の俊哉とは友達に戻れないかもしれない」
「…えっ?どういう意味…?」
「そのままの意味よ。……さてと、私もそろそろ帰るわ。急に来てごめんね」
「いや、それは良いんだけど」
「…あっ、彼女にも宜しく言っといてね」
「…あぁ。なぁ、香?ほんとにもう、友達同士では無理なのか?」
「ーーー」
香は黙ったまま頷いていた…。
無理なのか…。
今までの様に振る舞えないのか…。
僕はその答えにただ呆然と立ち尽くしていた…。




