第10章 結ばれる瞬間
貝塚の腕の中に私は優しく包み込まれる。
そんな彼の背中を覆う様に私も両手を回した。
お互いの腕には力がこもり強く抱き締め合う。
「……望月」
「……貝塚」
と……不意に私達は我に返る。
ここは道のど真ん中、通行人が釘付けになって私達を見ていた。
咄嗟に私達は身体を離した。
「…あっ、ごめん」
「…ううん、大丈夫」
私の身体は抱き締められた余韻でまだ熱い。
「…貝塚、あの、もし良かったら私んちに来ない?」
「………えっ?」
驚きと動揺が隠せない顔で貝塚は私の方をじっと見る…。
これって誘ってるのかな、やっぱり。
どことなく出た自分の言葉に戸惑う…。
「……あの、貝塚は私はね」
「……本気で言ってるの?」
「………」
「本気でないなら行くのは止めといた方が良いかも」
「………?!」
本当は行きたいのに私の迷いが彼を留まらせてるんだ。
私だってもう30歳だしと覚悟を決めた。
「……私は、本気だよ」
「…………」
私はもう決めたんだ。迷わない。
そして、貝塚は分かったと頷いた…。
私のマンションまでの道中、私達は一度も言葉を交わさなかった…。
お互い、激しい緊張感に包まれていたせいか話す言葉が見つからなかったからだ。
そういう時って長く感じる時間も短く感じるもので私のマンションまではあっという間だった。
玄関の前で私は鞄から鍵を取り出そうとしたら手が滑って地面へと鍵は落ちる。
急いで拾うにも先に貝塚に拾われる。
「…望月、大丈夫?」
「…うん、ごめんね、ありがとう」
私は緊張で震える手を落ち着かせてゆっくりと玄関の扉を開けた。
誰もいない部屋はとても静か過ぎて、返って緊張感を高める。
「…汚い部屋で散らかってるけど、私の部屋で良い?」
「…あぁ、良いよ」
貝塚の声に私は敏感に反応してしまう…。
私達は部屋に入り部屋の扉を閉める。
部屋の中で2人きりの空間。途轍もない緊張感が私を襲う。
いよいよなんだ…。
お互い、ベッドの上に腰を下ろした。
だけど、貝塚からは特に触れてくる様子がなかった。
どうして?私って魅力ない?それとも私の事を余り好きじゃない?色んな思いが交差する中、ようやく貝塚は口を開いた…。
「……望月に聞きたい事がある」
「……うん?何?」
私は恐る恐る訊ねた。
「……本当に僕で良いの?」
予想外の問いかけに私は言葉を失う…。
そして彼は言葉を続けた…。
「……確かに過去は変えられない。君と会うまで自分の過去の事なんて頭から消えてた。だけど…君と再会した時、過去の自分を振り返りながらも君への愛しい感情が芽生え始めた。昔いじめてた相手と付き合うとか想像出来なかったけど、そんな事どうでも良くなってた、僕の中で。気持ちなんて簡単に切り替えなんて出来るもんじゃないし。……この場でもう一度言わせて」
貝塚の真剣な眼差しが私の目をしっかりと捉えると静かにこう呟いた…。
「…やっぱり、僕は望月が好きです」
これで2回目の告白だ。
以前、僕と恋愛をしない?と聞かれた時は流石に半信半疑で聞いてたけど、次第にそうじゃないと分かって私は彼と恋愛する事に決めたけど今は……。
「……貝塚、私も貴方が好き」
「………?!」
「好きなの」
余りの展開に貝塚は口元を思わず押さえていた。
「…貝塚、貴方の過去は変えられないし私をいじめてたのは事実で消えない。だけど、私は過去の貴方じゃなくて今の貴方が好きなの。信じて貰えるか分からないけど」
貝塚は私の身体を思い切り抱き寄せた。
そして、唇を重ねる。
お互いの吐息で溶け合う様なキスを何度も繰り返す。
余裕のない貝塚は私の身体をベッドの上に押し倒しその上から覆い被さる様に軽く乗っかった。
彼の胸に手を当てると心臓の鼓動が激しく動いていた。
「…心臓バクバクだね」
「…そりゃ、緊張するだろ。好きな子の前なんだし」
と、私達はクスっと笑いを飛ばした。
深い愛情の中での抱擁は私の不安や緊張を和らげる。
好きな人となら何も怖くない。
私達は熱い口付けを何度も交わす…。
そして、好きな人と結ばれる瞬間を迎える…。
私達は再び心の底から思いをぶつけた…。
「…望月、好きだ」
「…私も好き」
そして、私は彼に身を委ねたのだった……。




