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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第四章 神殿

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神殿 14

 親衛隊の魔術師をサーシャ達の補助に入れることにして、レオンが全員を朱雀離宮の大広間へと移動させた。

 サーシャとリズモンドは術を維持しながら移動する。二人が別の場所にいても協力しあえるのは、お互いの呼吸をわかっているからだ。反目しあっていた頃だったら、さすがに無理だったかもしれないが、サーシャとしても、リズモンドのような実力者と組むのはとてもやりやすい。

 普通、集団で術を維持するときは、魔道具を必要とする。それを呼吸だけで合わせることが可能なのは、二人が熟練の技術を身に着けているからだ。

「オレが陣を描くから、描きあがるまで、お前が維持しろ」

 リズモンドはサーシャの顔を見るなりそう言った。

「了解」

 サーシャは頷く。

 どちらがどちらの役をやっても大きな差はないが、リズモンドの方が、おそらく陣を描くのが速く正確だ。そして、単純な力勝負なら、多少サーシャの方が強い。

 魔道灯は魔術の邪魔になる可能性があるのでランプに火が入れられる。

 レオンが、大広間を選んだのは、広く平らな床が欲しいとリズモンドが言ったからだ。

 大広間に入ったリズモンドは、磨き上げられた床に少し驚いたようだった。

「魔法陣を描いてもよろしいので?」

「構わない」

 レオンは頷く。

 朱雀離宮がレオンのものになってからというもの、この大広間は、親衛隊の懇親会に使う程度だ。

 当初の目的であった晩餐会などには使っていないらしい。 

「マーダン、ミラル、ザンクだ」

 レオンに連れてきた魔術師たちを、サーシャ達に紹介する。

 能力的には上級魔術師になるが、いずれも攻撃用の魔術の方が得意で、結界系の魔術はあまり得意としていない。

「オレがここに結界の魔法陣を描きます。それまで、サーシャを手伝ってやってください」

 リズモンドが頭を下げた。

「マーダン、ここは頼んだ」

「いけません。殿下は全てが終わるまでここにいらっしゃってください。そのすぐに出かけたい顔をやめてもらえますか?」

 マーダンに命じて、自分は出かけようとしたレオンを、リズモンドが止める。

「しかし、結界が物理的に壊されたのであれば、行かなければ」

 朱雀離宮の結界は、結界石によるもので、建築の段階で張られているものだ。

 塀や庭園、あらゆるところに埋め込まれ、外からはわからぬように作られている。

 ただ、現在、朱雀離宮に、侵入者の姿はない。

 そもそも朱雀離宮の警備は厳しく、簡単に結界が破られるわけはないのだ。どこが破られたのか、確認する必要がある。

「壊れた個所が特定できたとしても、いつまでも賊がそこにいるとはかぎりません。それよりは、警備をして朱雀離宮に侵入者がいないかどうか確認した方が良いでしょう。そして、どう考えてもこの攻撃の標的は殿下です。殿下に動かれては、守りようがありません」

「リズモンド、急いで。反転させる暇がなくなる!」

 サーシャは焦っていた。いつまでも守勢に回っているわけにはいかない。

 サーシャとリズモンドが狙っているのは、結界を張りなおすことだけではないのだ。

 魔法陣を描くことで結界を強化し、攻撃している者を見つける。結界が安定すると同時に、反転攻勢をかけなければ、やられ損になってしまう。

「……わかった。魔力をアルカイド君に渡せばいいのだな? 私もやろう」

「助かります」

 リズモンドは頭を下げる。

 レオンは上級魔術師の実力を持っている。

 サーシャやリズモンドには遠く及ばないが、皇族の中でも魔力は高い方だ。

 そもそも宮廷魔術師たちの能力は上級魔術師というより、特級というべきなのかもしれない。

「どうすればいい?」

「サーシャに力を流してください。わかりにくければ、体に触れるといいでしょう。術そのものはサーシャが組み立てます」

 リズモンドは言いながら、チョークを手にした。

「魔法陣を描く間、オレは術から抜けます。サーシャの術を支えてやってください」

「殿下、手を!」

 サーシャがレオンに向かって手を伸ばす。

「わかった」

 レオンはサーシャの手を取り、その手に向かって自身の魔力を流していく。

 マーダンはレオンの手を取り、マーダンの手をミランを、その手をザンクが握る。

 そういう形なので、レオンの体を三人分の魔力が通っていくことになった。

「まさかそうなるとは……まあ、いいか。サーシャ、抜けるぞ」

「了解」

 サーシャが頷くと、リズモンドが床に線を描き始める。フリーハンドにもかかわらず、美しい円が描かれ始めた。

 ただ線を引いているだけではなく、魔力を込めて描いているのだろう。形が仕上がっていくにつれ、力を宿し、ほんのりと光り始めた。

 それと同時にサーシャの術が相手の力を上回り始めた。

「リズモンド! たぶん行けそうだけど」

 サーシャは叫んだ。

 どうやら、魔法陣の力によって、サーシャの術がどんどん補強されて行っているようだ。

「待て。あと少しだから」

 リズモンドが叫び返す。

「でも、これ以上は殿下たちが!」

 ほぼ無尽蔵に魔力を持っていて、しかも魔術を使い続けている宮廷魔術師と違い、親衛隊の魔術師やレオンたちは、魔力を持続して他人に渡すというのは、どうしても不安定になるし、しかも長時間は無理だ。

 それに、他人の魔力を身体に通せば、それだけ体の負担になる。訓練しているサーシャ達と違って、レオン達は、そんな経験はほとんどないはずだ。

「よし。いいぞ!」

 リズモンドが線を描き終えると、魔法陣が光り輝いた。

「行きます!」

 サーシャはレオンから流れてくる魔力を一気に流し込み、攻撃を続ける魔術を反転させる。

 反転させた魔力はサーシャの意識を乗せ、そのまま術者へと向かう。

 サーシャは意識を広げた。

「白い建物が見える……小さな神殿?」

 その時、サーシャの意識をのせていた魔力が突然、霧散し、サーシャは慌てて意識を閉じたが、衝撃を避けきれなかった。

「アルカイド君?!」

 レオンの声が聞こえたのを最後に、サーシャはそのまま意識を失った。

 

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