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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第四章 神殿

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神殿 12

 朱雀離宮に戻ったレオンは、さっそく会議を始めた。

 レオンとサーシャは孤児院に張り付いた形だったが、リズモンドたちはそれなりに調べが進んだらしい。

「まず、ブルックス伯爵の乗っていた馬車ですが」

 リズモンドが最初に口を開いた。

「炎の魔素がわずかに残っていました。車輪の一部が魔術により破壊されたと思われます」

「つまり、御者が馬車の操縦を誤っただけではないということか」

 レオンが肩眉を器用にあげる。

「御者には毒を、伯爵には魔術薬剤、馬車には魔術か。ずいぶんと念を入れているわけだ」

「殺すつもりだったのでしょう」

 リズモンドは息を吐いた。

「ただ、馬車に仕掛けられた魔術はほんのわずかです。それが事故の原因とは言えません。やはり一番の原因は御者のミスと思われます」

「殺すつもりにしては、ずいぶんと効率の悪いことをしているのですね」

 サーシャは肩をすぼめた。

 御者が毒をいつ飲むのかはわからないし、たとえ飲んだとしても、馬車で移動中に事故を起こすかどうかもわからない。どうせ魔術を使うなら、もっと派手に破壊するほうが確実だ。

「ただの事故に偽装するためでしょう。ですが、確かに効率は悪い」

 リズモンドは苦笑した。

「もし事故が起こらなかった場合でも、伯爵は酩酊して眠っていると思われたでしょう。伯爵家のお抱えの医師がよほど優秀でない限り、めざめない伯爵が魔術薬剤を飲んでいるとは気づかない。眠ったまま衰弱死する可能性が高いと思われます」

「確かに、魔術薬剤に気づける医師は少ないでしょうなあ」

 マーダンが頷く。

「それこそアルカイドさんがいなければ、我々が気付いたかどうか怪しいです」

 魔術薬剤の魔素は非常にわずかで、発見が難しい。

「サーシャのような天才がいることを犯人は知らないのでしょう」

 リズモンドに珍しく持ち上げられて、サーシャは驚いた。

「魔素の回収をし、塔に連絡はしました。かなりの使い手のようなので、登録があるはずです」

「それなんだが」

 レオンはコホンと咳払いをした。

「ひょっとしたら、もぐりの魔術師が想定以上にいる可能性がある。デイバーの孤児院で魔術師を無許可で養成されていた」

「孤児院で?」

 リズモンドが驚きの声を上げる。

「その孤児院が勝手にやっていたことなのか、それとも神殿が噛んでいるのかわからないが、かなり長い間、魔力の高い子供を訓練していたようだ」

 レオンは大きく息を吐いた。

「もし神殿が噛んでいるとしたら、他の孤児院でも行われている可能性がある」

「でも、魔力のある孤児はそんなにはいないのでは?」

 サーシャが疑問を投げかける。

 魔力を持つ平民はもともと非常に少ない。それに魔力を持っていれば、平民でも良い仕事につくことができるから、子供を捨てるようなことはあまりないはずだ。

「何も魔術師だけ養成しているとは限らない」

 レオンは首を振る。

「武術を鍛えたり、例えば学問を究めることを目的にしている孤児院があってもおかしくない。もちろん、魔術師を養成することと違って、違法ではない」

「つまり、職業訓練という名のもとに、神殿の欲しい人材を育てているということでしょうか?」

 リズモンドが首を傾げた。

 にわかには信じがたい話なのだろう。

「あくまで仮定だ。少なくとも無許可で育てた魔術師が塔に登録しないまま、まっとうな仕事に就くことは不可能だ。神殿につとめるにせよ、登録は必要なはずだろう?」

「それは、そうですが」

 リズモンドは頷く。

「リズモンド、殿下は、裏社会に人材を提供しているのではないかと、考えておられるのです」

 サーシャが横から口をはさんだ。

「それは……」

 リズモンドの顔が険しくなる。

「もしそうだとしたら、神殿は真っ黒ではないですか?」

「そうだな。だが、まだ、仮定の話だ」

 レオンはそう言うと、目の前に置かれたカップに手を伸ばした。

「杞憂であってくれればいいと思う」

 もし、神殿が率先して裏社会に人材を提供していたとなれば、国家の安全を揺るがしていることになる。

「私は神を恐れはしないが、部下たちはそうではない。難しいところだ」

「そうですね」

 リズモンドは頷く。

 まだ確定ではない。だが、もし本当だったとしたら、神殿にメスを入れることにためらいのある人間も出てくるだろう。

「神とはやっかいだな」

 レオンは小さく呟いた。

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