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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第四章 神殿

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神殿 11

遅刻すみません

 夕刻。

 検査の結果が出た。

 十三人の子供のうち、上級魔術師が一名。残りは、中級以下だった。

 また、塔からこの孤児院からの申請は一切受けていないとの報告がかえってきた。

 違法で子供の検査、指導を行っていたことが確定し、レオンは孤児院を経営していた神殿へ質問状を送ることを決めた。

 本来ならすぐにでも孤児院を閉鎖すべきだが、なにしろ預かっている子供がいることなので、塔の監視員と親衛隊の監視のもと、とりあえず現状を維持することに決まった。

 生ぬるい処置ではあるものの、正直、十三人もの子供を突然引き取れる施設はない。まして、魔術訓練が必要な子供だ。

 子供を移動させることも難しいし、かといって、職員を派遣できるほど、国の人員に余裕はない。

 一通りの取り調べを終え、サーシャとレオンは一度朱雀離宮に戻ることになった。 

 他方に調べにやった部下たちの報告も入っているころだ。

 軽い聞き込みのはずだったのに、ブルックス伯爵の話どころではなくなってしまった。

 軽く孤児院そのものに結界を張り終わると、サーシャはレオンと同じ馬車に乗り込む。

「さすがに疲れましたね」

「ああ」

 レオンは頷く。

 その目は窓の外を向いていて、何事かを考えているようだ。

 馬車が動き出し、孤児院の建物が見えなくなっても、レオンはずっと黙っていた。

 相変わらず整った顔は、まるで彫像のようだ。

 向かい合わせに座ったサーシャは、馬車の周囲に気を配りながら、レオンを眺める。

「アルカイド君」

 レオンが口を開く。

「これから私が話すことは、私の『推測』にすぎない」

「はい」

 サーシャは頷く。

 どうやら、まだ不確定なことをサーシャに話すことで整理しようとしているのだろう。

「あの孤児院は、魔術師を養成するための機関だ」

「はい。そうでしょうね」

 才能ある孤児を一か所に集め、手厚すぎる指導を行っていた。

 教育の内容まではまだ完全にわかっていないが、ひょっとするとかなり高度な魔術まで教えていた可能性もある。なにしろ、上級魔術師レベルの子供までいたのだ。

「ずっと不思議に思っていたことがある」

 レオンは大きく息を吐いた。

「この国で生まれたものは、必ず魔力検査が行われる。もちろん、追跡については完全とは言わないが」

「そうですね」

 検査機関は、検査する権限しかないため、上級魔術師レベルの子をみつけても、教育機関に入るように要請するしかない。

 サーシャの親のように、その要請を無視し、教育を受けさせないことも可能だ。ただ、検査機関には、上級魔術師レベルの子供がいた記録は残っている。

「検査をしてから、数年で爆発的に魔力量が増大する可能性もゼロではないのだろう」

 レオンは首を振る。

「だが、上級魔術師レベルの()()()が多いのはなぜか」

「殿下?」

「あの孤児院は昨日今日にできたものではない」

 レオンは口元をゆがめた。

「孤児院で育てられた魔術師はどうなったのか。塔も把握していない上級魔術師がまっとうな仕事につけるわけがない」

「それは……そうですね」

 ここにきて、サーシャはレオンが言わんとすることを理解した。

 例えば宮廷魔術師になろうと思うなら、試験以前の問題で、塔の登録は絶対だ。軍の魔術師もしかり。

 表に看板を出す魔術師なら、どこかで塔に登録する必要がある。華々しい仕事を得る対価だ。

「つまり、裏社会に流れたということですか」

「そうだ。影狼にしろ、例のハックマンを狙った術者にしろ、本来ならば、魔素を提出しなければならない実力はもっているはずだ」

 影狼のローザ・ケルトスは発火の魔術で意識不明。突然背中に火が付いた彼女の命を守るためにサーシャが陣を破壊したため、詳細は分かっていない。もちろん入れ墨による術のため、一人の術式ではないと思われるが、かなりのレベルの魔術師の関与が疑われる。

 ハックマンを狙った遠隔魔術は、明らかに高レベルの魔術師だ。魔素から捜査を進めているが、犯人は特定できていない。

「一番の問題は」

 レオンは大きくため息をついた。

「この孤児院の経営は神殿が行っているということだ」

「神殿が率先して裏社会に人間を送り込んでいるということでしょうか?」

「仮定が正しいのであれば、そういうことになるだろう」

 レオンの端正な顔が苦々しく歪む。

「この孤児院だけの問題では済まないということですね……」

 サーシャは陰鬱な気分になった。

 神殿はどこまで関与しているのか。ひょっとして、国家に反逆を企てているのかもしれない。

「ひょっとしたら、他の孤児院でも何かしているのかもしれませんね」

「……ああ」

 レオンは頷き、再び考えに沈む。

 馬の蹄の音を聞きながら、サーシャは窓の外を眺める。

 街に火が灯り始めていた。

来週の更新はお休みです。

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