神殿10
孤児院の入り口では親衛隊が押収物を積み上げていた。
指揮しているのはマーダンだ。
捉えたダービンは既に連行したらしく、馬車の帰りを待っているらしい。
「マーダン」
レオンが声をかけると、マーダンは何事かを指示してから、そばにやってきた。
「殿下、どうされましたか?」
「魔力検査をしたいので、手配を頼む。それから塔に行って、こちらの孤児院が魔力指導の申請を出していたかどうか、こちらの人間が指導免許を持っているかどうかの調査をしてもらってくれ」
レオンは言いながら、先程、職員の名を署名してもらった紙をマーダンに手渡す。
「承知いたしました。すぐに手配を」
マーダンが頭を下げると、指示をするために離れて行った。
「アルカイド君」
レオンはせわしなく動く親衛隊の隊員の背を見ながら、サーシャに話しかける。
「もし。この孤児院が無許可で魔術師を育てていたとしたら、何のためだと思う?」
「仮定の段階での結論は危険です」
サーシャはレオンにくぎを刺す。
サーシャも、レオンと同じように、孤児院がきちんと申請しているとは思っていない。
ただ、今、結論を出すのは早い。
「……そうだな」
レオンは大きく息をつく。
「すまない。どうにも嫌な予感がして仕方がないのだ」
「……それはそうですね」
サーシャも頷く。
孤児院で魔術訓練をすること自体は問題はない。魔術を教えるのも、将来自立するためのスキルになる可能性もある。
だからそれ自体は全く問題はないはずだ。
そう思うのに、サーシャの胸の奥にも疑念が渦巻く。
「とりあえず、調べがつくまで待とう」
レオンの言葉に頷きながらも、サーシャは暗黒に足を突っ込んでしまった気がしてならなかった。
検査道具を持って現れた男は、ジムサという名の、ひょろりとした男だった。
「親衛隊にも検査官がいるのですね」
サーシャは驚いたが、よく考えれば、魔力の高い人間は登録するというシステムがある。それに違反する者を取り締まるのは親衛隊なのだから、当然と言えば当然だろう。
子供たちを院長室に集めさせると、レオンとサーシャが見守る中、ジムサは検査道具である大きな水晶玉のようなものを取り出した。
「しっかり訓練を受けさせるという面では、この孤児院はまともですね」
サーシャは感心する。
少なくともサーシャの両親に比べれば、まともだ。
両親に悪意はなかったのだろうが、検査結果を無視し、サーシャにまともに訓練を受けさせなかった。そのせいでサーシャは、十歳の時に魔力暴走を起こして死にかけた。
すべての国民に検査が実施されるのは、単純に国が魔力適性のある人間を把握したいだけではない。個人の身の安全のためという側面もあるのだ。
だから、適性のある孤児を集め、訓練を施すという、この施設のやり方には意味がある。
「これで、しっかりと届けが出ているのであれば、問題はないが」
レオンの顔が渋い。
特殊な魔術を施した魔道具は、それに触れたものの魔力が高ければ高いほどまばゆい光を放つ。
どちらかと言えば、かなり珍しいものだが、孤児院の子供たちは見慣れているようだった。
通常の場合、一生のうちで一度しか見ない道具だが、どうやら子供たちは、数か月に一度検査をしているらしい。
「そんなに頻繁に数値が変わると言うことはあり得るのか?」
子供らからの話を聞いて、レオンは首を傾げた。
「ないわけではありませんけれど」
魔力量や、その強さは多少なりとも変化があるから、上級魔術師の魔素の提出は、五年に一度することになっている。
サーシャも幼少期より、魔力量が増えており、変化がないわけではない。
ただ、それはあくまで五年単位の大きな話で、月単位では微量の変化しかないはずだ。
「魔力量は訓練によって、多少は増える傾向がありますけれど、せいぜい年単位でないと、数値はあまりかわらないはずです」
そもそも魔力量を増やすための訓練は、かなり上級者向けだ。
「単純に、測定に慣れさせるということかもしれませんね」
測定そのものも訓練と考えれば、納得できる。
「そうでないなら──かなり問題があるでしょう」
短期間に数値が変わるのであれば、かなり無謀な訓練をさせているか、もしくは何か服薬しているはずだ。
エドランの黒魔術研究ではそうしたこともしていると噂されている。
「なんにせよ、検査記録が残っているはずです。聞いてみます」
サーシャはレオンから離れて、検査の列に並んでいる一番年長と思われる少年に話しかけた。
おそらく十三くらいだろう。
「あの、少し聞きたいのですが」
「はい?」
少年は突然話しかけられて、驚いたようだった。
「測定をしたあと、記録はとっていましたか?」
「はい。いつも。遊び部屋の方に置いてあります」
「遊び部屋?」
「僕たちの成長の記録ですから」
少年は誇らしそうに胸を張る。
「毎回、変化があるの?」
「当然です」
驚くサーシャに、少年は何を驚くのかという顔だ。
「すごいわね。毎日、お薬とか飲むの?」
「十日に一度です」
素直に答える少年にサーシャは内心苛立ちを覚えた。
彼らが飲んでいるのはおそらく違法な薬剤だ。
そうだとすれば、魔術訓練の合法性以前に、育成された魔術師をどうするのかさえ怪しい。
サーシャは少年に礼を言うと、レオンとともに彼らの成長記録の書類の束を回収しに、遊び場に移動した。
雑多に置かれた訓練道具などのそばに、魔術の教書なども置かれている。
成長記録もそこにあった。
ページを繰りながら、確かに増えていく成長線にサーシャは眉根をよせる。
「どうした?」
「確実に伸びていくのはおかしいですね。これは異常です」
レオンの問いにサーシャは答えた。
「ずいぶん数値に詳しいが、アルカイド君は、検査員の資格を持っているのか?」
レオンに聞かれ、サーシャは苦笑した。
「宮廷魔術師は魔術に関する仕事すべてできます。ただ、やったことはないですね」
宮廷魔術師の資格は、すべての魔術系の資格を包括する。
だからといって、宮廷魔術師が検査員の仕事をすることはまれだろう。
「まあ、それはそうだな」
レオンが納得したように頷く。
「薬物を服薬しています。子供にも確認しました」
「事実だとしたら、それだけで違法だな」
レオンは大きくため息をつく。
「この孤児院は真っ黒だな。ルーカスにも相談しなければ」
「……そうですね」
孤児院を閉めることは簡単だが、子供らに訓練は必要だ。
それに、黒魔術の薬剤を服薬した可能性が高い以上、体に異常がないかも調べる必要がある。
「かなり深い闇を掘り当てたと思います」
サーシャは頷く。
院長一人の考えではないだろう。
そもそも何のためにこんなことをしているか。
「忙しくなる。頼むぞ、アルカイド君」
レオンの言葉は、決意を感じさせた。




