神殿 7
遅刻。すみません
会議が終わると、レオンは孤児院の捜査に向かった。
もちろんサーシャも護衛として同行する。
サーシャが護衛につくことについて、親衛隊のマーダンたちも歓迎しているようだった。
レオンが親衛隊の要だとマーダンたちは当然知っている。自分たちがいかに調査をしても、それをしっかりと取り上げる上司がいなければ、意味がないのだ。
帝国の治安が守られているのは、レオンの姿勢によるところが多い。
孤児院は政府によって運営されているもののほかに、神殿が貴族の寄進を頼りに経営しているものがある。
デイバーにある孤児院は後者だ。
商工会の職業あっせん所からほど近いところにある。
それほど大きいものではないが、かなりの数の孤児の面倒をみているとのことだ。
貧民街にあることもあり、建物はお世辞にも立派だとは言い難い。
だが建物の周囲にはしっかりと塀がめぐらされていて、防犯はされている。
デイバーで一番安全な場所と言われるだけのことはあると、サーシャは納得する。
中庭に馬車を停めておく場所もあり、イメージより広かった。
──ん?
馬車を降りたサーシャは、違和感を覚えた。
──エーテルの動きが激しい。魔道具でも使っているのかしら。
魔術を使わなくてもエーテルは動くものだ。だが、塔ほどではないにせよ、激しい流れがおこるのは、どこかで魔術を使っているということだ。魔道灯程度ではここまで動かない。
孤児院にそれほど大きな力を使う魔道具があるのだろうか。
「アルカイド君、どうかしたのか?」
「いえ。たいしたことではありません」
サーシャは首を振る。
「よくおいでいただきました、殿下」
揉み手をして出てきたのは、年配の癖の強そうな男だった。
孤児院の関係者にしては、目つきが非常に鋭い。体は小柄だが、人を威圧する雰囲気を持っている。
子供好きには見えないが、デイバーという土地に根を下ろしていると考えると、当然なのかもしれない。
「孤児院を経営しております、トーマス・ダイビンと申します」
男はうやうやしく頭を下げる。
「親衛隊のレオンだ」
レオンは軽く名乗る。
仮にも第二皇子なのだから、もっと仰々しく名乗ってもいいのだが、レオンはそういったことを必要と考えていないようだ。
親しみやすさを出すためにしているのではなく、単純に不必要と思っているふしがある。
ダイビンは、一瞬虚を突かれた顔をした。
「立ち話もなんですから、中へどうぞ」
ダイビンの案内で、建物の中に入る。
外観に反して、中はサーシャが思っていたよりきれいだった。
古いことには変わりはないが、壁紙は新しく、掃除は行き届いている。
ただ、遊び部屋にいた子供たちの身なりはひどいものだった。洗いざらしで、大きさがあっていない。破れたものも繕って着ているようだ。
だが、子供達の血色は悪くない。
それから、もう一つサーシャが気になったのは、部屋の片隅に魔術の初歩訓練に使う道具が置かれていたことだ。初歩訓練は幼いうちにすべきなので、孤児院で行って不思議というわけではないが、遊び道具のように置かれているのが解せないところだ。
案内された応接室は貴族を迎えることを想定しているのか、調度品もそろっていた。大きく開かれた木の窓から、明るい光が差し込んでいる。
「子供の服がみすぼらしいのは、わざとか?」
ソファに腰をおろしたレオンが、ダイビンに尋ねる。
「よくお気づきで。孤児院が裕福に見えるのは、場所柄、あまりよくないのです」
ダイビンは苦笑する。
「少しでも金があるように見えたら、賊にやられてしまいます」
デイバーとはそういう場所だと、ダイビンはため息をつく。
「ブルックス伯爵は昨日こちらに来たかね」
「いらっしゃいました」
「いつごろだ?」
レオンの目が鋭くなる。
「朝にお見えなってお昼には立たれました」
「その後の予定は聞かなかったか?」
「メリトンという宝石商に会うと言っていたような?」
ダイビンは首をかしげながら答えた。




