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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第三章 念糸

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念糸 26

 最終的に責任者として提示するはずだったハックマンを既に親衛隊が確保しているというのは、ウイリアム・ローザーとしても想定外だっただろう。

 彼はどこまで把握しているのか。

──ハックマンの命が危ういことは、なんとなくわかっていたのかもしれない。

 サーシャはローザーの顔色を見ながら推測する。

「命を狙われているのは間違いないのか?」

 マルスが念を押すように確認する。

「アルカイド君」

 レオンはサーシャに話を振った。

 細かいことはサーシャの方が正確だからということだろう。

「遠隔魔術を確認しました。本人への直接攻撃ではなく、周囲の人間に殺意を促すもののようでした。私たちが間に合わなければ、ハックマン祭司はおそらくは娼館で娼婦と心中していたでしょう」

 サーシャは丁寧に説明する。

「心中?」

 マルスが片眉を上げる。

「はい。ハックマン祭司を襲ったマリアという女性は、明らかに操られていました。おそらく祭司を殺した後は、自害させるつもりだったのでしょう」

「なぜそのようなことを?」

「ハックマン祭司に全てを被ってもらうためですよ」

 サーシャはちらりとローザーの顔を見る。

 ローザーはつとめて表情を消しているようだ。

「娼館であれば、当然目撃者も少ない。神殿で自死にみせかけるより、よほど自然です」

「心中となれば、捜査で他殺を疑われることもあまりないでしょうからなあ」

 ルーカス・ハダルが感心したように頷いた。

「神殿の内部調査が、信じられないほどゆっくりだったのも、そのためではないのかね、ローザー君」

「そんなことは……」

 レオンに問われて、ローザーの顔は青ざめる。

「今回は、ハックマン祭司一人の責任で終わる事件ではない。君は誰の命令で動き、()()()()知っている?」

「私はただ、調査員に命じられただけで」

「誰に命じられたのかと聞いているのだが?」

「メルダー祭司です」

 レオンににらまれ、ローザーはあきらめたように答えた。

 グレック・ゲイルブ大祭司の下に仕える最大の主流派だ。

「私はただ、調査を命じられたにすぎません。ハックマン祭司が怪しいとわかった時、相手が祭司の立場にある以上、慎重に調べるようには言われましたが、それだけです」

「慎重とは便利な言葉があったものだ」

 レオンが苦笑する。

「とりあえずは、そういうことにしておこうか。ただし、今後の捜査は私が行う。もともと、君もそういうつもりだったのだろう?」

 ローザーは目を見開く。

「オルド・レイドンを実行犯として差し出し、ハックマン祭司が怪しいと指摘し、捜査権を親衛隊に渡すまでが、君がメルダー祭司に命じられた仕事だった」

 レオンは息を継いだ。

「ハックマン祭司は、黒魔術と聞いて、真っ先に名前の挙がる人物。今日の今日までかかってようやく判明したというのであれば、あまりにもお粗末。慎重に捜査した理由は、ハックマンが自分で責任を取るための時間を作ってやってくれとでも言われたのだろう?」

 言葉を失ったようなローザーに、レオンはため息をつく。

「兄上。今回の事件は決して許されるべきことではないと私は考えておりますが、兄上はどのようにお考えでしょうか?」

 ハックマンは首謀者でない。神殿が捜査にあまり協力的ではなかったことも考慮すれば、当然、ハックマンの裏にいる者も神殿関係者の確率が高い。

 捜査を続ければ、信仰の根源を揺さぶる可能性もある。

「神への恭順を強制され、運命の相手を押し付けられても私が黙っていると思うのか?」

 マルスは大きく息を吐いた。

「変な遠慮はいらん。徹底して調べてくれ」

「よろしいので?」

「お前が私に忖度をみせるとは思わなかったよ。いつだって真実を追い求めるくせに」

 マルスは苦笑し、首を振った。

「私はお前が思っているほど、神殿の人間を信じているわけではない。実の弟を凶相の持ち主だなどと言い放つ輩を信用できるわけがないだろう」

 今までマルスが神殿の意見を無視できなかったのは、信仰心というより、政治的な側面が大きいということらしい。

 神殿が黒魔術でマルスを操ろうとしていたという証拠があれば、話が変わってくるということだろう。

──皇太子殿下も、意外と腹黒いのかも。

 ぼんやりとサーシャが、そんなことを考えていた時、カリドが飛び込んできた。

「たいへんです! ブリックス伯爵が馬車の事故にあって重症だそうです!」

「何?」

 カリドが伯爵家についた時、ちょうど事故の知らせに屋敷中が大騒ぎになっていたらしい。

「重症ということは、まだ死んでいないのだな?」

「はい。近所の診療所に運ばれたと」

 カリドの言葉にレオンは頷く。

 事故でなく、狙われたのであれば、また襲われる可能性が高い。

「ルーカス、塔の人間を貸してくれ。警護が必要だ」

 レオンの言葉に、サーシャはハダルの方を見る。

「仕方ない。サーシャ、行ってきなさい」

「承知いたしました!」

 サーシャは静かに頭を下げた。

 



 


 

第三部はここで終わりです。明日、事件簿の更新をします。


第四部更新は4月の予定です。

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